成熟しつつある国で生きるということ

2019.1.5

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2019年1月5日

成熟しつつある国で生きるということ

 

今年は三が日明けの4日が金曜日ということもあり、仕事始めが7日からという人も少なくない。
実際、4日金曜の朝はいつもの通勤ラッシュとは程遠い、閑散とした駅前だった。
振り返ってみると、年末も12月24日の月曜が祝日でもあり、28日の終業を待たず21日から年末の休暇に入った人もいた。
そのおかげか、年末年始の帰省ラッシュ帰京ラッシュも少し分散され、例年ほどではなかったようにも感じた。

 

ひと昔前は恒例だった福袋の販売に深夜から並ぶ人を報じるニュースも、気がつけばあまり目にすることがなくなったように思う。
もちろん昔から変わらずバーゲンセールに列をなしているところもたくさんあるだろう。
それでもひと昔前のように、みんなが同じ行動を選択し、一か所に人が殺到するということがかなり減ってきたように思える。
(一方で、ハロウィンの渋谷など、新たに人が殺到する機会も生まれているが)

 

昔はほぼ同じだったバーゲンの時期が、今は店舗や地域、その年によってばらつきが出て、いつの間にかバーゲン開始がカレンダーの重要事項ではなくなっている。
実際、スマホが主流になるにつれ、各店舗やブランドからの販促メールが毎日のように手元に届き、常にどこかでセールをやっている状態で、わざわざデパートの開店時間を気にする必要がなくなってしまった。

 

自分が子どもの頃を振り返ると、日本の中の「お祭り」は国民全員が同じカレンダーで共有していた。
年末年始やお盆休みの期間はほぼみんな同じだし、年末は日本レコード大賞を見て、紅白歌合戦を見て、行く年くる年を見て、初詣に出かけた。
みんなが同じ日に同じ行動をとることが当たり前だった。友だちとの話の話題はいつも一緒だった。

 

今、テレビを家族みんなで見る機会は少なくなり、家族の中でさえ行動がそれぞれ自由気ままで、家族のスケジュールさえ共有できなくなっている。
同じ会社の人間でさえ長期休暇のタイミングはバラバラになり、大きな会社ではいるのかいないのか確認することが常識となっている。

ひと昔前、ヨーロッパに行くたびに「こっちの人は落ち着いているなぁ。これが成熟した国か」と感じていた。
その頃の日本は、改めて思い返すと常に国全体が浮かれていて、常に「お祭り」状態だった。
そんな国からヨーロッパに行くと、国全体も国民も落ち着いているように見えて、大人に見えた。
もちろん自分がその頃はまだ子どもだったからということも大きいと思うが、たかだか福袋を買うのに深夜から行列を作ったり、リフトに乗るだけで長時間並ぶスキー場に出かけたり、必死で雑誌に載っている流行を取り入れようとしたり、友だちとの話題に乗り遅れないようにテレビにかじりついたりする日常と、それぞれのライフスタイルを自然体で生きている(ように見える)ヨーロッパの人たちは老若男女誰もがとても大人に見えた。

 

今、日本には特に中国や東南アジアからの観光客が増えていて、渋谷や原宿、銀座などは彼ら彼女たちが毎日大勢闊歩している。
彼ら彼女たちは買い物袋をたくさん手にしていたり、観光スポットや人気の飲食店に列をなしたり、異国での非日常をとても楽しんでいるように見える。そしてそんな様子を少し醒めた目で見ている日本人も少なくない。

 

しかし、ひと昔前のヨーロッパではもしかすると私たち日本人が同じような視線で見られていたのかもしれない。
でも、じつはそこには「お祭り」に浮かれる人に対する上から目線と同じくらい郷愁の念も込められていたのかもしれない。
今、私は海外旅行に行っても爆買いをすることはない。来年には廃れていそうな流行りの飲食店に行くこともない。洗練された行動をとることを良とする自分がいる。けれど一方で、そんなお祭り状態を素直に楽しめる人に対して羨ましいという気持ちがないといえば嘘になる。

私たちは、今、成熟しつつある国に住んでいる。
特に高度成長期(の最期の方)を経験した40代以上の人にとって、ひと昔前の日本と現在の日本ではまったく別の国になっていることは間違いない。
80年代、90年代前半は明らかに日本は浮かれていて、「お祭り」状態だった。そして今、特に中国からの観光客を見ていると、その頃の日本の熱量と同じものを感じることが多い。
常に「明日はもっと良い未来が訪れる」ことが大前提の環境がお祭り気分を高めていたあの頃。そして右肩上がりの時期を過ぎ、良くて現状維持、近い将来に下り坂がうっすら見える感覚を国民全体で共有している現在の日本。
良い時期を知っている世代からすれば衰退しているとも言えるが、(悲観的な近い将来を想像することを一旦脇におけば)実際は今の日本は成熟していて、とても素晴らしい状態だ。

 

40代にとって、今の日本の状態を受け入れ、固定観念を取り払い、この環境の中で充実した生き方を選択することが、これからの残りの人生を豊かにするための大きなカギとなる。
しかし特にある程度年齢を重ねた人にとって未経験な環境に順応することは意外と難しい。子どもの頃から無意識に染み付いた「常識」を取り除き、新しい環境のルールや楽しみ方を素直に受け入れて行動することは、誰にとっても難しい。
多くの40代が「不惑」と呼ばれるこの時期に人生に迷いを感じるのは、日本という国の大きな変化が影響しているためで、決してこれまでの行き方や経験が間違っていたわけではない。ただその積み重ねで得た常識やルール自体が変わりつつあるために、戸惑い、惑わされているといえる。

 

成熟しつつある国で、人生の後半戦を生きる。
人生の前半戦とは別のルールや常識が大勢となっている環境に対して、自分の考えや生活パターンを大きく変態し、新たな環境に適応して「人生を楽しむ」ということは簡単ではない。
そのためには「成熟した国」の先輩であるヨーロッパの国やそこで豊かな人生を生きる人たちから、何かを学ぶということもありだと思う。
2019年の目標は「成熟しつつある国で充実した人生を歩む」準備をする。そして同じ考えを持つ40代と学びを共有し、刺激し合って人生を豊かにする。
livest!はそんな目標を持って2019年再スタートします。

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