日本のエンタメは大きな可能性を秘めている

2019.1.7

livest!編集長

最初から「狭いターゲット」を見ていては気づかないこと

編集長のlivest!ログ

2019年1月7日

日本のエンタメは大きな可能性を秘めている

 

2018年10月11日(木)と12日(金)の2日間、NHKホールで開催された、日本のエンタテインメント、特に音楽のジャンルで海外から注目されているアーティストが一堂に集まり、パフォーマンスを披露するライブコンサート。2回目となるこのコンサートのダイジェスト版として放送された「NHK WORLD-JAPAN presents SONGS OF TOKYO」をテレビで見た。

観客席は多くの外国人が占めていたが、彼ら彼女たちは基本的には今回の出演者たちのファンだったり日本のカルチャーに興味を持っていて、コンサートは非常に盛り上がっていた。
また歌唱パフォーマンスの合間には出演者を囲んでのトークも行われ、舞台上に設置されたひな壇には出演者の熱狂的なファンである外国人が座っていた。

彼ら彼女たちは、自分が日本のアーティストにハマった経緯やどんなところが好きなのか、多くの外国人たちが流暢な日本語で語ってくれていた。その様子はほとんど日本人のファンと変わりがないように思えた。
しかし、彼ら彼女たちの話の中に、時折、日本人には当たり前過ぎて無意識に受け入れている日本のカルチャーやエンタテインメントの魅力を示唆してくれる言葉もあった。

DA PUMPがパフォーマンスする「U.S.A」では観客の多くが彼らと同じ振り付けで楽しそうに踊り、乃木坂46のパフォーマンス時にはサイリウムが会場の至るところで輝いていた。
その様子は、日本人がほとんどを占める普段のライブコンサートの様子と何も違いがないように見えた。

1億人以上の人口を誇る日本に生まれ暮らしていると、商売を考える際、ほぼ無意識に日本人だけを対象にしたビジネスや商品、サービスを考えている。そのこと自体、振り返ってみて初めて気付くほど、当たり前で無意識な行為であることに改めて気付かされる。
しかし、多くの諸外国では国内需要だけでなく、最初からターゲットは「世界」だ。
日本のように1億人以上の人口を誇り、そのほとんどの生活レベルが高い国というのは実は稀であり、また国民が日本語という1つの言語だけでコミュニケーションが成立する国というのもまた非常にレアケースだ。
だからこそ、日本で生まれ育ち、日本でビジネスを展開しようとした時、日本人の生活スタイルや好みだけを想定し、日本語だけでプロモーションし、日本人だけで成立するコミュニケーションを展開する。

今回のコンサートに来場している多くの外国人たちは、自らわざわさ日本のカルチャーやエンタテインメントに興味を持ち、自ら積極的に情報を検索し、入手し、勝手に好きになってくれた人たちだ。
しかし、このコンサートに足を運んだ何十という国の人が日本のカルチャーやエンタテインメントに興味を持ってくれたということは、彼ら彼女たちが「変わった好みを持ったマイノリティ」ではなく、コミュニケーションの取り方次第では多くの諸外国に日本のカルチャーやエンタテインメントが愛される可能性があると捉える方が自然だ。

このコンサートでは、「エアバンド」のゴールデンボンバーが歌唱中に人間書き初めパフォーマンスを行ったり、演歌歌手の石川さゆりさんが和太鼓をバックに素晴らしい歌唱パフォーマンスを披露した。
また、ゲームの世界から飛び出した2.5次元ミュージカル「刀剣乱舞」の刀剣男士たちやアニソンの世界で人気を誇るアーティストたちが人気アニメの映像をバックに熱唱を繰り広げた。
そんなある意味「見本らしい」カルチャーやエンタテインメントをベースにクリエイティヴな活動を行うアーティストたちを、外国人たちがある面では日本人と同じような視線で受け入れ、ある面では日本人にはない外国人ならではの視点で受け入れていることは、今後の日本のエンタテインメント界の新しいチャレンジの重要なポイントとなるだろう。

ただし、何組もの日本人アーティストのパフォーマンスを見て感じたのは、歌唱やダンスなどパフォーマンスの質が世界の標準レベルに達していない場合、コンセプトやビジュアルだけではやっぱり世界に打って出るのは難しいだろうということも同時に感じた。
DA PUMPや三浦大知さんのパフォーマンスはじゅうぶん外国人を惹きつけるものだったように感じたし、三浦大知さん自身も「夢は海外で当たり前のように活躍すること」と語っていたように、高い志を持って未来を見据えていた。

しかし、一方でパフォーマンスレベルを極め切っていないアーティストでも、じゅうぶん可能性はあるとも感じた。
特にアジアの人たちは、パフォーマンスのレベルだけでなく、そのコンセプトやビジュアルに対して「日本のエンタテインメント」の魅力を感じとってくれているように思えた。
その点で改めて日本はアジアの中の国であると感じたし、日本のカルチャーやエンタテインメントはこれまで以上にアジアを意識したクリエイティヴやコミュニケーションを展開することが重要であるように思えた。

日本のテレビ番組が放送する音楽番組をただ見ているだけの時には気づかなかった、日本のカルチャーやエンタテインメントに対する、日本人が無意識で受け入れているが外国人にとっては未知の魅力をこの番組を見ることで気付くことができた。
そしてその着眼点を持ってクリエイティヴすることで、日本国内でも新しいエンタテインメントの挑戦は可能だし、海を超えた舞台での挑戦のチャンスがあるということ。
2019年のスタートに何気なく見た番組で、大きな勇気を与えてもらった気がした。