安彦考真新連載「好きなことをしてお金を稼ぐ7つのルール」第4回
安彦考真
新連載
「好きなことをしてお金を稼ぐ<7つのルール>」
第4回
「自分が一番『自分の強み』に気づいていない」
僕は40歳で子どもの頃からの夢だったJリーガーになった。
その時は人生で一番と言っていいくらい嬉しかったし、満足感にあふれていた。
「もう人生最高の目標を達成した」……だから、Jリーガーとして活動する時間は「人生のボーナス」だと受け止めていた。
長い間会えなかった初恋の人と、偶然再会してすぐに付き合えたかのような至福の時。
『ちょっとくらいうまくいかなくてもいい。簡単には認めてもらえなくてもいい』
これは人生のボーナスタイムなのだから。
子どもの頃からの夢が叶ったんだから。どんなことがあっても幸福に包まれた時間の中の出来事だと感じられる……はずだった。
実際、クラブとプロ契約を交わし、正式なメンバーとしてチームの練習に参加した時は、何をしても楽しく嬉しく幸せだった。
地獄のインターバルトレーニングで、ダントツの最下位でゴールしても充実感で満たされた。
ミニゲームでパスをなかなかもらえなくても、とにかく誰よりもたくさん動くことでアピールできたと前向き感じていた。
「僕には僕にしかできないチームへの貢献のやり方があるはずだ」
僕はそう信じて、泥臭くチームの活動に食らいついていた。
けれど、シーズンが始まり、ベンチ入りさえままならない時期が続くと、当初の自信は脆くも崩れ去っていった。
試合に出られない、ベンチ入さえできない、遠征メンバーにも入れない……。
自分がまったくチームに貢献できていない気がして、練習中も「お前はもう必要ない」……チームメイトがそう思っているのではと勝手な被害妄想が酷くなっていった。
何をやっても楽しくない。誰も自分を認めてくれないような気がする……。
そう、その時、僕にとっての「ハネムーン期間」は過ぎ去ってしまっていたのだ。
その時期、僕はこの心理的スランプ状態から脱するために、今まで以上に猛烈に練習した。
チーム練習後も居残りでシュート練習したり、パーソナルトレーナーにお願いしてパワーアップの特別指導をしてもらったり……。
「うまくなりたい」「うまくなれば、また必要とされるはずだ」……その一心で自分を追い込みトレーニングや自主練習をやりまくった。
その結果、オーバートレーニング気味になり、ケガが増え、精神的にもさらにマイナス思考に陥るという逆効果な結果をもたらしてしまったのだ。
ついには、僕は練習に行くことさえ嫌になってしまうほど、気持ちが落ちていってしまった。
「自分の理想とするJリーガー」となること。
つまり、スタメンで出場し、ゴールを決めてチームを勝利に導く……ピッチ上で結果を出すことが「Jリーガー」として認めてもらえる唯一の手段だ。
僕はそう思い込み、取り憑かれたようにトレーニングに励み、結果、心も体もボロボロにしてしまっていた。
「もう再起は不可能か……」
僕の中で弱気のピークに達していた、そんな時、僕は運命的な出会いを果たす。
その出会いがきっかけで、僕は「自分らしい生き方」をもう一度取り戻し、「好きなことを仕事にする」楽しさを思い出すことができたのだ。
「うまくなりたい」「うまくならなければいけない」
そう思い込み、視野が狭くなっていた僕に、その人はこう言った。
「誰もあなたに結果を求めていないのでは?」
「何も知らないくせに、勝手なことを言って……」
僕はその人の言葉にちょっとイラッとした。
僕がどれだけ努力していると思っているんだ。
この年齢で、20歳年下の選手と勝負して、ポジションを奪おうとしている努力をバカにするのか……。
おそらく僕の不満が顔に出たのだろう。
その人はこう続けた。
「あなたがプロ契約できたのは、ゴールを量産することを期待された訳でもなく、技術面でチームの見本になることでもない。『40歳で夢を実現する』そのために120%努力できるその姿勢がチームに良い影響を与えると期待されたからなのではないか?」
その言葉を聞いた瞬間、僕ははっと目が覚めた。
僕がチームとプロ契約した時、たくさんの人に祝福してもらった。
それは「40歳でJリーガーになったこと」でも「チームに期待のストライカーが加入した」ことでもなく「僕の無謀な挑戦に対する真摯な姿勢」に対してだった。
そのことを僕はすっかり忘れていた。
初心を忘れて「プロ選手として結果を出してチームに貢献したい」という思いは、裏を返すと「もっと認めてもらいたい、もっと注目されたい」という余計な欲望を隠す包紙だったのだ。
その人の言葉を聞いて、僕はJリーガーをめざしている時の気持ちを思い出すことができた。
強烈なダメ出しをストレートに食らったにもかかわらず、僕はその時、一瞬にして力が漲り、やる気に満ち溢れたように感じた。
その後、僕は「自分ができるやり方」「自分にしかできないやり方」でチームの力になることに集中することで、再び練習が楽しくなっていったのだった。
今、僕は「好きなことを仕事にする」ことで、自分らしい人生を満喫している。
「ゼロ円契約の選手はプロとは認めない」「試合に出てもいないのに、大きい口を叩くな」そんな悪口も僕の耳には全然入ってこない。
誰に何を言われても、僕は僕らしく生きている。
それは、僕が「自分の武器」「自分の強み」を取り戻したからだ。それを生かすことを最優先に心がけて活動しているからだ。
今、自分がこうやって充実した時間を過ごせているのも、あの時〝あの人〟が僕に厳しくも本当のことを伝えてくれたおかげだ。
自分の良さは自分では気づきづらい。
だから、自分のことを本当に理解して、最適なタイミングで真実を伝えてくれる人が必要だ。
僕には〝あの人〟がいる。
あの日、僕は〝あの人〟を人生の師と決めた。
それ以来、僕は自分らしい人生を楽しく過ごすことができ、何事も順調に進むようになった。
一時期の心身のスランプ状態が嘘のように、自信を持って何事にも取り組めるし、常に良い反応が返ってくるようになった。
人生を変える瞬間、人生を変える出会いは誰にでもあるはずだ。
僕にとってのそれは、あの日、最高の〝メンター〟と出会った瞬間だったのだ。
教訓3
「自分の強み」は自分ではわからない。だから「信頼できる人=メンター」を見つけること
(つづく)