安彦考真「好きなことをしてお金を稼ぐ7つのルール」第7回
安彦考真
「好きなことをしてお金を稼ぐ<7つのルール>」
「計画を達成できる人、できない人の違い」
第7回
「好きなことを仕事にする」「楽しみながらお金を稼ぐ」
僕がそれらのことを実現し、自分らしい人生を、お金の心配なく過ごすことができるようになったのは〝あの人〟との出会いがきっかけだった。
思い起こせば最初の出会いの日から、僕は大切な〝学び〟を授かったーー。
〝あの人〟と会うということになったあの日、僕は指定された場所に車で向かった。
少し緊張気味だった僕は、家にいてもなんとなく落ち着かず、約束の時間よりかなり早く到着する感じで出発した。
しかし、指定された場所は僕自身行ったことのない地区だった。また、行くまでの道がとても分かりづらく、不規則な作りの区画の中にあった。周囲の道は一方通行だったり、居住者しか入れない道があったりして、想像以上に時間がかかった。
当時、僕の車は中古の普通車で、備え付けのカーナビが古かった。
最近できた道や建物が登録されていないのは当然として、GPSの性能が低く、カーナビの画面上では僕の車は海の中を走っているということもしょっちゅうだった。
結果、せっかく早く家を出たのに、僕は〝あの人〟との待ち合わせ時間に少し遅れてしまった。
急いで車を駐車し、小走りで建物に入って、〝あの人〟が待っている席に到着すると、僕はまず遅れたことをお詫びした。
その時はまだどんな人か詳しく知らなかったけれど、忙しい人であることは間違いない。
そんな人との初面談に、僕は遅刻してしまった。きっと僕の第一印象は最悪だっただろう。
「お待たせして本当にすみませんでした。カーナビが古くて道に迷ってしまいました」
僕は正直に遅刻の理由を〝あの人〟に伝えた。
〝あの人〟は僕が遅れたことはそれほど気にしていないように見えたが、遅刻の理由を聞くと、ちょっと残念そうな表情をした。
その頃の僕は現役Jリーガーであり、それまでの20年以上をサッカーの世界にどっぷりと浸って生きていた。
練習時間やチームの活動に関することに対しては(当たり前だが)時間を守る選手たちも、プライベートの時間になると少し感覚がルーズになる傾向がサッカー界にはあった。
僕も社会人を経験しているとはいえ、普段は現役Jリーガーとして選手たちと行動をともにする機会の方が多く、無意識にその少しルーズな感覚が染み付いてしまっていた。
また、僕自身が若い頃にブラジルに住んでサッカーをしていたこともあり、その後、日本でもブラジル人と一緒にいる機会が他の選手たちより数段多かったという影響もあった。
南米のラテン系気質の人が多いブラジル人たちは、僕が驚くほど約束の時間を守らない。
待ち合わせ時間から家を出る準備をするのはまだ早い方で、待ち合わせの相手からの催促の連絡を受けてからやっとゆっくり準備し始める人も少なくない。
そんなコミュニティーに長く属していたこともあり、僕自身は待たされることに慣れていたし、どこかで待たせることに鈍感になってしまっていた面があるように思う。
現役Jリーガーに限らず、芸能人やアーティストなど、特殊な職業の人は、普通の人が当たり前に持つ感覚やルールの意識が希薄な場合が少なくない。
しかも、ルール厳守しない立ち振る舞いの方が、なんとなく芸術肌っぽい印象になるという勘違いもあって、その傾向は普通の人よりも強いように感じる。
僕は40歳で子どもの頃からの夢だったJリーガーになったが、それまでは普通に社会人として働いていた。普通の感覚を身につけているはずだった。
けれど、Jリーガーのコミュニティーに入ってしばらくすると、自分では気づかないうちにその〝悪い慣習〟が行動に出てしまうことがあった。
僕は〝あの人〟を待たせたこと、そして遅刻の理由を聞いた〝あの人〟が残念な表情を見せたことで、そんな〝悪い慣習〟に戻っていた自分を心の中で恥じた。
「大事なことは〝詳細な地図〟を持つことです」
僕との初面談の最後に〝あの人〟はそう言った。
「ただの地図ではなく、専門家のアドバイスをもとに細かい部分まで明確にした地図を作り、それをもとに行動することです」
それが僕が求めるものを得る際に必要不可欠なものだと〝あの人〟は教えてくれた。
「あなたがこれまでに成功したことを振り返ってみればきっとわかるはず。そこには必ず詳細な地図が手元にあったはずだから」
そう言うと、〝あの人〟は静かに席を立ち、僕に微笑を残して去っていった。
僕は〝あの人〟の背中を見送りながら、ソファにもう一度ゆっくりと座り直して、最後のセリフについて考えてみた。
「僕が成功したこと……」
一番近いもので言えば、やっぱり40歳でJリーガーに挑戦し、その夢を実現したこと。
確かに「Jリーガーになれた」というスタートラインに立っただけだったが、それでも周囲が絶対に不可能だと言っていたことを成し遂げたのだから、確実に成功の部類に入るだろう。
「その時、僕はどうやって成功を手にしたのか?……」
僕はその頃のことを思い出そうとして、すぐにピンときた。
その時、絶対に無理だと言われた前人未踏のチャレンジを成功させるため、僕は最初に肉体改造に着手することにした。
普通の人よりは運動する機会が多かったとはいえ、それでも40歳間近だった身体は、本格的に鍛えることなく20年が経過していた。トップアスリートの一員として、Jリーグでプレーするためには、かなりの肉体改造が必須なのは間違いなかった。
僕は悩んだ末、ずっとお世話になっていたパーソナルトレーナーに相談した。
すると、その人は僕のチャレンジを聞いても否定することなく「それは面白いですね」と興味を持ってくれた。
「40歳近い肉体を現役プロアスリート仕様にまで鍛えるには、かなり追い込んで厳しいトレーニングを続ける必要がありそうです」
トレーナーは楽しそうに目を輝かせながら僕に言った。
「でも、僕が作ったメニューを安彦さんが完遂できれば、『絶対不可能』から『もしかして……』くらいにまでは持っていけると思いますよ」
じつはトレーナーに会うまでの僕は「いや、それは難しいですね……」とでも言ってやんわり断られるのでは……と心配していた。
けれど、トレーナーさんの予想外の反応に喜びを感じつつ「難しい挑戦ほどトレーナー冥利に尽きる」とでも言いたそうな少しSっ気のある不適な笑みにちょっとビビった(笑)。
早速、翌日から僕とパーソナルトレーナーとの二人三脚の厳しい特別トレーニングがスタートした。
期間は4ヶ月。Jリーグのトライアウトに間に合わせるギリギリの期間だった。
そして、マンツーマンでのパーソナルトレーニングの費用としても、この期間分が払える限界だった。
トレーニング開始と同時に、僕はクラウドファンディングを立ち上げ、この無謀な挑戦に必要な肉体改造のトレーニング費用のサポートを募った。
毎日僕がハードなトレーニングをしている動画をSNSにアップして、応援を募った結果、見事に目標金額に達成し、クラウドファンディングが成立した。
僕はトレーニング費用をクラウドファンディングで賄うことができた。
そして僕が得たものはお金だけでなかった。自分自身の夢を実現するという壮大な目標とともに、クラウドファンディングを通じて応援してくれている「個人サポーターの期待に応える」という新たな目標をも持つことができたのだった。
どんなに苦しいトレーニングをやっていても、途中で投げ出すことはできなくなった。「僕の背中にはたくさんの個人サポーターがついている」ーーそう思ったら、途中で投げ出したいという気持ちはまったく出なくなった。
僕はトレーナーとともに、時間をかけて細かく設定したトレーニングメニュー内容と精緻なタイムスケジュールをみっちりと作り込んだ。そして、4ヶ月間、計画通りにトレーニングをやり続けた。
最初は40歳の身体には堪える激しいトレーニングだったが、身体も徐々に慣れ、そのうち筋力数値や各種達成数値が一般的なプロアスリートレベルに達するにまでになっていった。
トレーニングはトレーナーさんの事前の予想通りに進み、僕の期待以上の成果を得ることに成功したのだった。
そして、この時のトレーニングの成果と、成功体験で得た自信が、その後のJリーグのトライアウトを経て、練習生としての加入、そしてプロ契約へと繋がっていったのだ……。
多くの人が、子どもの頃から「計画を立てる」という行為をしてきたはずだ。そして、計画通りにできる時もあれば、計画倒れになってしまう時もあっただろう。
けれど、子どもの頃に計画通りにできたことの多くは、親や教師など他者からの何らかの強制があったり、何か罰が設定されていたりした場合だったりするのではないだろうか。
それでも計画を実行できるだけまだマシだ。その努力に見合った成果を得られたかは別問題だけれど……。
一方、社会人になって以降、グループや組織での計画ではなく、個人的な計画を立て、それを予定通りに遂行できているという人は果たしてどれほどいるだろうか。
多くの場合、1年の初めや4月、新しい期の始まりに個人的な目標を立て、計画を立てがちだ。けれど、その計画が予定通り完遂されるということは少ない。
その理由は「ゴールまでの地図の精度に問題がある」と、〝あの人〟はそう言うのだ。
振り返ってみれば、僕自身、若い頃から最近まで、個人的な計画を立てる時は、自分だけで作成していた。その多くが途中で挫折してきた。
けれど、大成功と言えた「Jリーガーをめざすための肉体改造」では、プロのトレーナーと一緒になって内容もタイムスケジュールも本当に細かいところまで目を配って計画を立てた。
元旦に「次のテストで100点取る」と目標を立てることは立派だけれど、満点を取るための具体的なメニュー作りやタイムスケジュールを詰めることまではしなかった。
そして、テスト前に作った計画も、自分だけで考えて、自分だけで作成した。
「目標を立て、その実現に向けて計画を立てる」ーー多くの人の場合、簡単には実現できないことを達成するためにこれをする。
でも、自分のことは意外と自分ではわからないことも多い。特に自分の弱点や未体験なことならなおさらだ。
自分の弱点克服の方法を知らない状態で一生懸命に計画を立てても、その計画はほぼ役に立たない。
目標が大きければ大きいほど、そして自分にとって困難であれば困難であるほど、その道のプロ、成功の方法を知っている専門家のアドバイスをベースにした計画が必須となる。
〝あの人〟は僕にそう教えてくれたのだ。
僕に限らず、多くの人はこれまでの人生の中で、大小さまざまな目標を立て、その実現のための計画を立ててきた。
そして、その多くが未達に終わり「自分はなんて根性がないんだ」と自分を責めた。計画を失敗するほど自信を失い、計画を立てること自体が億劫になっていった。
僕たちは「計画」というものの本質を知らないまま、誰からも正しいやり方を教えてもらわないまま、無理やり計画を立てさせられ、何度も失敗を経験し、自信を失い続けてきたのだ。
僕は止めていた車に戻ると、スマホを取り出し、帰り道を念入りに調べた。
「まずはお金を稼いで、最新の設備を搭載した車に買い換えるぞ」
僕はそんなことを心の中で考えつつ、今度はカーナビ任せにせずに、改めて自分の目で地図を見て、全体図を自分の頭で考えた。すると自分が進むべき道はすんなり見つかった。
実際にスムーズに車は進み、来た時より安全に、しかもかなり早く家に辿り着くことができた。
もし、来る時に自分でしっかりと調べた上で、このルートを使っていれば、きっと遅刻することはなかっただろう。
家に着くと、僕は早速、チームトレーナーに電話した。
それは、明日からのトレーニングメニューについて、改めてじっくりと相談するための時間をもらうためだった……。
(つづく)
教訓6
自己満足の「計画」だけでは夢は実現できない。
専門家の知識と経験を活用した〝絶対に迷わない地図〟を作ることが、目標達成への第一歩。
第4回→ http://www.livest.net/challenge/5195.html