ワールドカップで見えた「進化を続ける」世界最先端のプレースタイル
リアルアンサー
ワールドカップ2018ロシア大会を終えて、Jリーガーによる「大会で印象に残ったFW選手とプレーシーン解説」
今回のワールドカップでは得点までの時間がより短くなり、ゴールを上げるためにより高度な攻撃戦術&技術が求められる時代になったことを印象づけました。大会中の選手のハイレベルなプレーの数々は、次代の日本代表をめざす子どもたちも良い参考になったと思います。
ワールドカップで印象深いFWプレイヤーやプレーシーンとともにその理由を、現役プロサッカー選手である安彦考真選手ならではの「サッカーを見る目線」という切り口で具体的に詳細まで教えてください。
ワールドカップを見て再認識した「身体の分化」の重要性
安彦考真選手
水戸ホーリーホック
今回のワールドカップの特徴は、正に質問の通り「ゴールまでの時間がより短くなった」ことです。
その中で僕が非常に心奪われた攻撃シーンとその選手を解説させてもらいます。
先ず一つ目は、決勝トーナメント1回戦のポルトガル戦。ウルグアイのスアレスとカバーニのパス交換からのカバーニのヘディングでのゴールです。
かつての「FWにはロングキック(パス)は必要ない」と言われた時代は確実に崩壊したと改めて感じたプレーでした。
かつてはそれぞれポジションには役割があり、その時代によって必要なスキルが限定されていました。しかし、現代サッカーはもちろん役割の徹底はあるにせよ、必要なスキルが「限定なもの」から「オープン」に変わって来ていることがよくわかるプレーであり、このゴールが今大会が新しい時代になった象徴とも言えるとシーンとなりました。
カバーニがボールを受け、スアレスへ出すタイミングと球速が、自分がペナルティエリアに入るまでの時間を作れることとカウンターのスピード落とさない両方を担ってるパスとなっている。そしてスアレスの胸コントロールが一度前に向かうことで推進力は衰えず、相手がよりボールウォッチャーになる見事なコントロールとなる。
圧巻はそのあとのカットインからのアーリーシュートクロス。
ここに突っ込んで来れば当てるだけでゴールに入るボールであり、これもまたカウンターのスピードを殺さないように計算されている。
それはカットインをしたことでタイムロス作ったからこそのあのスピードボール。
そこに躊躇なく突っ込んでいったカバーニのゴールセンスが合わさって、大会ベストゴールと言ってもいいような素晴らしいコンビネーションを見せてくれました。
そして、二つ目は、3位決定戦となったイングランド戦。ゴールにはなりませんでしたが、ベルギーのトーマス・ムニエがボレーシュートを打つまでの一連のパスワークです。
自陣からシュートまで13秒というスピード。約90m以上の距離を13秒で駆け抜けるコンビネーションは圧巻でした。
デ・ブライネが受けるまではすべてダイレクトプレーでしたが、彼が受けた瞬間、このままでは攻撃がスピードダウンしてしまうと察知したのでしょう、ドリブルに切り替えてまわりの選手のスピードアップを図り、見事なタイミングでメルテンスへパスを出しました。
そこでポイントになるのは、最後にシュートを打ったムニエです。
メルテンスからのパスが来る直前に走り込むスピードを若干落とし、彼はあえてスペースへ入るための間をとっていました。それは、要するにその瞬間のゴールまでのイメージが湧いていたということを示しています。
トップスピードで走りながらもボールコントロールの技術の質を落とさないことは、カウンター攻撃において大切なことですが、もっとも重要なのは「次のプレーを予測しながら走る」ということです。
それを5人の選手が絡みながらいとも簡単(なように見えた)にやってしまうのだから、このベルギーというチームの調子の良さを表した象徴的なシーンだったといえるでしょう。
「ボールを扱う技術」、「スピードのコントロール」そして「予測」がすべてピッタリと合ったロングカウンターのお手本のようなプレーだったと思います。
最後の三つ目は、グループリーグ初戦のポルトガル戦での、スペインのジエゴコスタのゴールです。
FWを生業としている僕にっては今大会のベストゴールでした。
これもカウンターではあるが、コンビネーションといった綺麗なものは一切なく、ジエゴ・コスタが持つ身体の使い方の上手さが見事に証明されたシーンでした。
カウンターからボールを受けるまでの動きは、正直そこまで素晴らしい訳ではなかったですが、ボールを収めてからのステップワークと、相手DFをブロックする「ハンドオフ」は圧巻でした。
相手をブロックするためにハンドオフをしようと腕に意識を持つと、普通なら、そのぶんどうしても足のステップが疎かになってしまうものです。
しかしジエゴ・コスタはステップをしながらハンドオフを同時に行うことで、相手DFがジエゴ・コスタのハンドオフによってバックステップを踏んだ瞬間と同時に、下半身は違う角度での足のステップを踏んでいました。
これよって、ジエゴ・コスタと相手DFとの間に距離が生まれました。つまり、ジエゴ・コスタは効果的に使えるスペースを自分で作りだしたわけです。
もしジエゴ・コスタがステップを踏んでいなければ、DFは距離を縮めればいいだけでした。しかし角度を変えたステップを入れることでハンドオフで作られた距離を埋めるだけでなく、そこに足のステップによる方向転換も入ってきたため、DFの身体は大きく前後左右にも揺れてしまい、結果、ジエゴ・コスタの放ったシュートに対応をすることができなくなりました。
個人的には、「腕を使うな」と教える日本サッカー指導者に、このシーンの説明をしてもらいたいくらいです(笑)
以上、3つの事例に共通するのは、カウンターに対して如何にスピード落とさず、クオリティを下げず、ゴールまでのイメージをできるかという点であり、この3つのポイントが非常に重要になってくると思います。
これから日本代表を目指す子どもたちにぜひ伝えたいこととして、「身体の分化という観点で自分の身体を動かしていこう」ということ。
「身体の分化」とは、身体の各部位、四肢と体をバラバラに動かせるようにすること。
腕を使うこととステップを踏むという上半身と下半身が別々の動きを同時にできたり、走りながらまわりの状況を把握できるとか、スピードの中でボールコントロールができるなど、身体の各部位それぞれに神経を巡らせ、すべてが独立して動き、かつ機能的に動かせるようにしていくことが重要だと感じています。
育成年代の指導者の皆さんは、ワールドカップを子どもたちに語るのであれば、具体的なトレーニング方法を元にしっかりと子どもたちに身につくものを提供してあげてください。
決して自己満足の指導にはならないように!