改めて考えたい「今を生きる」ということ

2019.3.29

musicalover

不確定な未来にばかり気を取られて、素晴らしい今を楽しむことを忘れていないか

人生を哲学的に見つめ、日々考えたことや感じたこと、学び、体験についての思いをまとめ、書き留める「人生哲学研究家」のブログ。

編集長ブログ
2019年3月29日

改めて考えたい「今を生きる」ということの意味

多くの人の中には変身願望が潜んでいる。

男女問わず幼少の頃は、主人公が変身する戦隊ものやアニメ夢中になった覚えがあるだろう。

そんな極端な例を挙げなくても、映画や本などの余韻で、「今の自分ではない、別の自分」「今の人生ではない、別の人生」というものをふと想像してしまうことがある。

1994年に上映された映画「プリシラ」に登場するのは3人のドラッグクイーンたち。

人生経験を経た中で、女装し、ダンスナンバーに合わせて歌い踊ることを生業とする3人が、オファーのあった遠方の地まで自家用バス「プリシラ号」で移動する過程を描いたロードムービー。

そんな映画のストーリーを再現したのが、ミュージカル作品「プリシラ」だ。

その異端な生き方は多くの捨てなければいけないものがあり、将来への不安も大きい。しかし、その道中、さまざまな偏見や差別、葛藤を経る中で、改めて「自分に正直に生きる」ことを選ぶ3人。

彼女たち(彼ら)はマドンナやABBAなど往年の大ヒット・ダンスナンバーを歌いながら、「今」の自分の気持ちに正直に、「今」を楽しく生きることを決める。

「未来」とは実現するかわからないまだ存在しないもの

「今」というものは、脳が認知した瞬間のこと。哲学的には、この瞬間瞬間、実現する現実を指して「現在」と定義される。そして、その記憶が「過去」となる。一方で、「未来」とは実現するかどうかわからない、まだ存在しないものと捉えられる。

つまり、今この瞬間の一刻一刻のみが、私たちが生きている「今」ということとなる。

しかし、多くの人は思考傾向や行動選択が、知らず知らずのうちに実際に訪れるかどうかわからない「未来」という想像上のものに大きく影響を受けがちになる。そして、そのあまりに不確定な未来に対して根拠のない不安を抱えながら、今を生きている。

「プリシラ」に登場する3人の生き方は刹那的で、他者から見れば「一寸先は闇」の人生に見える。しかし、哲学的には彼女たちこそ正しい生き方と言える。

ミュージカル「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」で、アナトールの自分の気持ちに正直な自由奔放な生き方に対して、ピエールは彼の無責任な行動に対して批判しながらも思わず、「彼は賢い。今を生きている」と本音をつぶやく。

莫大な遺産を手にし、絶世の美女と誉れの高いエレンを妻に娶り、なに不自由ない暮らしをしているピエールは、それでも変化のない生活を選択し、漠然とした不安に襲われながら酒に溺れていく。

「不確定な未来に対する不安」を拭い去る

ミュージカル「プリシラ」の中で、陣内孝則さん演じる伝説のドラッグクイーン「バーナデット」とユナクさんと古屋敬多さんがダブルキャストで演じる「フェリシア」は、多くの差別的な視線を浴びる葛藤の中で、悩みながらも自分の生き方を貫き、理解あるパートナーと出会う。

そして山崎育三郎さん演じる主役の「ミッチ」は、自身の職業を隠すため離れ離れに暮らしていた最愛の息子に、今の自分の気持ちや職業に対する思いを正直に告白し、妻と家族3人で一緒に暮らすことになる。

彼ら(彼女たち)が捨てたものは、じつはそれほど多くもないし、大きくもなかった。その多くは、自身の中に潜む「不確定な未来に対する不安」からくる思い過ごしだった。

自身が「今を正直に生きる」姿勢を明確にし、その思いをまっすぐに表明することで、年頃の息子にも受け入れてもらうことができ、その情熱を理解するパートナーにも出会えた。

この結末は、ミュージカルのオープニング時の3人の想像上の「未来」とは正反対の「今」となった。

あなたは「今」を自分に正直に、楽しんでいますか?

多くの偏見や差別を、ヒットナンバーを歌い踊り、時にブラックジョークを交えながら、明るく吹き飛ばしていくミュージカル「プリシラ」。「怖がっている未来は、自身が勝手に作り出している幻想」でしかないことを教えてくれる。

「今だけを見て生きる」「今を正直に生きる」ことこそが、望む未来を連れてきてくれる唯一の方法であることを示唆しているように思える。

振り返れば、満員の観客席の女性たちは、大きく拍手し、コメディシーンに大笑いし、時にヒットナンバーを出演者たちと一緒に口ずさみ、今、このミュージカルを楽しむことだけに生きている。

そんな彼女たちの表情は、最高にハッピーに見える。

私たちは「今」だけに生きている。だからこそ「今を楽しむ」。そんな簡単なことを自分で難しくしてしまって悩み、戸惑っている。

客観的に考えて、今を生きるための少しのお金と家と愛する家族や友人がいれば、人は生きていける。それも楽しく生きられる。

ミュージカル「プリシラ」はそんなシンプルだけど大切なことを思い出させてくれる。

ミュージカル「プリシラ」

日生劇場

公演日程:2019年3月9日(土)~3月30日(土)

 

<キャスト>

ティック(ミッチ):山崎育三郎

アダム(フェリシア):ユナク/古屋敬多(Lead)

バーナデット:陣内孝則

DIVA:ジェニファー、エリアンナ、ダンドイ舞莉花

ミス・アンダースタンディング:大村俊介(SHUN)/オナン・スペルマーメイド

ボブ:石坂勇

マリオン:三森千愛

シンシア:キンタロー/池田有希子

 

<スタッフ>

脚本:ステファン・エリオット&アラン・スコット

演出:宮本亜門

翻訳:エスムラルダ

訳詞:及川眠子

振付:麻咲梨乃、大村俊介(SHUN)、IG、TETSUHARU、桜木涼介

音楽監督:前嶋康明

美術:松井るみ

照明:アンディ・ヒナゴ

音響:山本浩一

ヘアメイク:宮内宏明

映像:石田肇歌

唱指導:大嶋吾郎

舞台監督:藤崎遊

演出助手:河合範子

プロデューサー:小嶋麻倫子(東宝)、今村眞治(東宝)、吉池ゆづる(avex entertainment)

製作:東宝/エイベックス・エンタテインメント

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