私たち日本人は、そろそろ自覚すべきだ。「タダほど高いものはない」ことに。
人生を哲学的に見つめ、日々考えたことや感じたこと、学び、体験についての思いをまとめ、書き留める「人生哲学研究家」のブログ。
編集長ブログ
2019年3月28日
日本がIT先進国になれない本当の理由
エストニアは今、「一番行ってみたい国」ナンバーワンの国だ。
今まで19の国を旅してきたが、記念すべき20番目の訪問国を「エストニアにする!」と改めて決心させてくれたのがこの本「ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけたつまらなくない未来」だ。
バルト三国の1つであるエストニアは、人口約130万人の小さな国ながら、ほぼ100%「電子政府」を実現しているなど、今、IT先進国として世界中から注目を集めている。
国名自体はあまり耳にする機会は少ないかもしれないが、無料でテレビ電話が使えるサービス「スカイプ」を生み出すなど、今、欧米で使われている多くのITサービス企業がこの国から誕生している。
そんな「未来を先取りする」エストニアの現状を、大統領を始めキーパーソンたちのインタビューを交えて紹介しているのがこの本の特徴。
日本よりもずっと先を走っているエストニアのさまざまな驚きの事実を知ることができるこの本の中で、特に印象的だったキーワードの1つが「透明性」というフレーズだ。
日々、スマホやパソコンが欠かせない私たちにとって、毎日たくさん届く広告メールやサイトを埋める広告バナーは避けては通れないものとなっている。
ほとんどの人がうんざりしながら諦め半分で、メールを削除したりバナーを閉じたりしているが、遠からず自身の嗜好や生活に関連する内容となっているものが少なくない。
これら広告を引き寄せているのは、じつは自分たちだということを自覚していない人も意外に多いだろう。
「GAFA」と呼ばれるAmazonやFacebook、googleといった大手ITはサービスは、いまや時価総額が約370兆円とも言われる。これら大手ITサービスは、私たちの日常に必須の存在として絶大な影響力を誇っている。
これらの便利なサービスはほぼ無料で使用できる。その代わりを使用の際は個人情報の取り扱いに対する同意を求められる。この契約にクリックした瞬間、私たちのパソコンやスマホ上からの操作はデータ収集され、その嗜好に沿った形で広告メールやバナーが送りつけられる仕組みになっている。
便利なサービスを無料で使える代わりに、広告メールが届いたり、広告バナーに追いかけられる環境を強いられる。
そんな生活をしている立場からすれば、国レベルで個人情報を電子化して管理することに対する漠然とした不安を抱くことは不思議ではない。「国が本当にしっかりと私たちの個人情報を管理してくれるのだろうか?」と。
エストニアは子どもが生まれた10分後には、新しい命に対してデジタルIDが付与され、国からお祝いメールとともに、「国の子育て支援に関する制度への申し込みが自動的に完了したこと」が知らされる。
この国の住民は、出生届から住所変更、銀行口座情報など、ありとあらゆる個人情報を電子化し、デジタルIDに紐づけて管理している。
自分のすべての個人情報を一括して国が管理することに、恐怖心を感じる人は少なくないだろう。
しかし、その考えこそが、IT化が進む現代の生き方に逆行した古い考え方だということを、この本はエストニアの個人情報管理の方法を通じて教えてくれる。
広告メールにうんざりしている人の中に、いったいどれだけの人がこれらITサービスを使用する前に、個人情報の取り扱い説明文を熟読しているだろうか。
振り返ってみると私たちの多くは、自分の個人情報の取り扱いを無自覚にGAFAを代表とするITサービス企業に丸投げしていると言える。
エストニアでは、ほぼすべての個人情報は国が運営する「エックスロード」というデータ交換基盤システムで電子化し管理されているが、中央集権型の巨大なデータベースというものは無い。
国はあくまでさまざまなサービスがスムーズに使えるよう、電子化された個人情報を円滑に使える〝道〟を提供しているだけで、個人情報の管理は個人に託されている。
エストニアの国民は、自身の個人情報が使われる数秒後にその報告を受け、正しく使われているかを自身で管理しなければいけない。そして自身の個人情報が不当に使われた場合は、申告すれば使用者は罪に問われる仕組みとなっている。
たとえ警察であっても、自治体であっても、さらには大統領であっても、個人情報にアクセスし、不当に使用しようとすれば、即逮捕され厳罰を受けることになる。
インターネットを中心としたIT社会が今後ますます進歩することは間違いない。
そんな確実な未来を前に、私たち日本人は、「個人情報は自身が管理し、守る」という意識転換をしなければいけないと、この本は警告してくれているように感じる。
何でも「お上任せ」の意識でITサービスを使用することは、GAFAを筆頭に大手IT企業にとって格好のお客さんとなるだけでなく、知らないところで個人情報が漏洩し続けることで、今後大きな問題を抱える危険性を孕んでいると言える。
エストニアは、IT先進国になると決め、その政策を推し進め、そのインフラを土台にした新しい民間のITサービスが次々と生み出されrている。
そのベースには、「個人情報は自身が管理する」といったある意味当たり前の大前提を国民が理解し、実行してということがある。
一方の日本に住む多くの国民は、無料サービスの便利さを享受するだけで、本来自身がすべき管理をお上に丸投げし、無自覚に個人情報を漏洩し続け、丸裸の状態で悪徳IT企業の餌食にならんとしている。
だからこそ、多くの人は無料サービスを当たり前のように使いながら、IT化を必要以上に警戒し、厳格な情報管理を無料サービスを提供する側に求める。
そんな環境の中から、世界的なIT企業は日本ではなかなか生まれないし、育たないのではないだろうか。
私たち日本人は、そろそろ自覚すべきだ。「タダほど高いものはない」ことに。
参考図書
「ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけたつまらなくない未来」
孫泰蔵:監修
小島健志:著
ダイヤモンド社 (2018年12月20日発行)