異色の経歴を持つ40代Jリーガーが感じている「J2とJ3の違い」とは
今シーズンのJ3が開幕して約1ヶ月。Y.S.C.C.横浜でプレーする安彦考真選手にとって初めてのJ3シーズンは年初のプレシーズンから数えると早くも1年の1/4が過ぎた。
昨シーズンは水戸ホーリーホックの一員としてJ2で戦った安彦考真選手の目に、現時点でJ2とJ3との違いはどう映るのか。
Jリーガーとしては異色の経歴を持つ安彦考真選手。長い社会人経験を持ち、J2とJ3の両方を経験したJリーガーから見たリーグの違いを語ってもらった。
リアルアンサー
2019年4月12日
安彦考真
Y.S.C.C.横浜
「サラリーマンJリーガーになるな」
開幕から1ヶ月が過ぎた。プレシーズンの時から考えると本当に時が過ぎるのは早い。
ちょうど昨年のこの時期は水戸でプロ契約を勝ち取ったタイミングだった。
今でもあの安堵感と達成感は鮮明に思い出せる。その時の空気感や匂いもはっきり思い出すことができる。だからこそその時と現状との比較もはっきりできる。
「J2とJ3の違い」を感じる場面は今の時点でも少なくない。まわりを取り巻く環境や選手それぞれのプロ意識など、Jリーガーになる前はもちろんJ2で戦った昨シーズンには気づかなかったことも少なくない。
そこで今回は、僕が感じている”J2とJ3との違い"について、現時点で感じた点をいくつか書いてみたいと思う。
まずは「選手の違い」。
J2とJ3の選手のレベル差でもっとも大きいと感じるのは「走力」の違いだ。
もちろん細かい技術などに差があることは事実だが、個人個人の技術をみればYS横浜にもJ2でプレーできるレベルの選手は何人もいる。けれど短いダッシュや長い距離のダッシュのスピード、またそれら長短のダッシュを試合中繰り返す力は、J3と比べるとJ2の方が総合的にレベルが高いと感じる。
一方で「チーム戦術」については、J2とJ3というリーグの区分よりも監督の哲学とクラブのアイデンティティの違いが大きい。J3にも戦術面で高度なチームもあるし、J2でもそれほどでもないチームもある。選手ほどリーグの違いとしてはっきりと差があるとは感じない。
2つ目は「サポーターやファンの違い」。
リーグを総合的に比較すると、サポーターの数だけでなくチームのサポーターへの対応姿勢もかなり違うように感じる。
単純にサポーターの人数の違いだけならJ3も努力すれば増やせるだろう。しかしサポーターに対するチームやリーグの対応やおもてなし的な要素は明らかにJ2の方が上だと感じる。
例えば安全面やセキュリティ面でのクラブの問題意識はサポーターの数が多いぶんJ2は対策が徹底がされている。一方でJ3では公式戦を円滑に運営することに注力し、サポーターへのホスピタリティまでは手が回っていない面が否めない。
それは単純にJ3のクラブにその面にまでマンパワーや気(お金)を回すだけの余裕がないということも大きいだろう。それでもJリーグの試合は興行という側面もあるのだから、そこをおざなりにしていてはサポーターを増やすことは難しいように思える。
3つ目は「練習環境」。
これは言うまでもなくJ3の方が劣悪だ。
昨シーズン過ごした水戸ホーリーホックはできたばかりの練習場が隣接するクラブハウスがあり、素晴らしい環境の中で練習できた。専用のロッカールームがあり大浴場があり、練習に専念できた。
J3のチームの中には専用の練習場やロッカールームがないクラブもある。もちろん自治体や地域の好意でお借りできているこの環境にまったく不満はないが、リーグを比較するという面ではこの点は避けては通れない課題だろう。
ハード面だけでなくソフト面でも差がある
そういうハード面での練習環境の差は、選手個人ではどうしようもない。しかし選手の意識の面やソフトの面でもJ2とJ3の選手の差が大きいことを僕は強く問題視している。
「環境が人を育てる」というがそれは概ね間違いない。ただ本当に大切なのは「選手一人ひとりの意識」だ。この点、J2とJ3の選手の意識差は大きい。
そこには「お金」が切り離せないこともあるが「自己投資」の意識という点でJ2とJ3で大きな差が開いてしまっているのは紛れもない事実だ。
選手は自分自身が「商品」だ。
その商品は自ら高い意識を持ち、野望を抱きキャリアアップを目指すことが可能だ。しかし実際は目の前の練習や生活に追われているばかりだ。それでは高い意識や野望を貫き通すことが難しい。
J3では練習環境の面も与えられる待遇面も恵まれているわけではない。そんな中で選手が意識すべきは、チームから与えられている環境や待遇が改善されることを「待つ」ことや「陰で不満を言う」ことではなく、自分という商品に羽根を生やす努力を自主的にするということだと思う。
もちろんもらえるお金が少ないなど現実問題として厳しいことはじゅうぶん理解できる。それでも実際に、J3に所属する選手の1人である僕には2人のパーソナルトレーナーがいて、入浴剤や身体のケアに対してサポートしてくれている企業もある。同じJ3の選手の僕ができて他の選手がやってできないことはないはずだ。
僕をサポートしてくれている個人や企業は、J2やJ3といったカテゴリーの違いとは関係なく育まれた仲間だ。
選手は所属しているカテゴリーにとらわれず「自分はJリーガーである」という認識を強く持ち、多くの人に注目されるポジションにいることを最大限に活用するべきだ。
そして、カテゴリーに関係なく「Jリーガー = プロフェッショナル」という意識を徹底し、そのことを広く表現することが大切だと思う。
環境を変えたければ自らがそこを脱出する方法を考え抜く必要がある。
「サラリーマンJリーガーになるな」
僕ら選手はクラブと対等でなければならない。そのためにも「自分の価値」を自分で高めよう。評価は嫌でも他人にされてしまうのだから。