ブラジルサッカーにあって日本にはないもの

2019.6.7

安彦考真

安彦考真リアルアンサー「日本代表 vs.トリニダード・トバゴ戦を観戦して」

6月5日、サッカー日本代表はトリニダード・トバゴ代表と豊田スタジアムで国際親善試合を戦った。

終始、日本が攻勢に試合を進めたが、試合は0-0のスコアレスドロー。3月以来となる試合はメンバーの入れ替わりや戦術の変更などもあり、まだ始動段階といったところか。

この試合について、安彦考真選手はどのような視点で見たのか。

Jリーグのシーズン真っ只中に行われた日本代表の試合について、Jリーガーの一員として、日本代表をめざす1人として、率直な思いを語ってくれた。

リアルアンサー
2019年6月7日

Y.S.C.C.横浜

安彦考真

「良い試合」の基準は誰が作るのか

率直な感想はやっぱり日本を代表する選手はボールを扱うのが上手だ。コントロールなど細部の技術を見ても非常に上手い。

Jリーガーとして「日本代表」になる資格が僕にはあると思っているが、技術面では改めて僕はまだそのレベルはないとハッキリわかる。

特に、大迫勇也選手の動き方や身体の使い方、相手との駆け引きは同じFWとして本当に勉強になる。すぐに参考にできる有り難い教材だ。

ほかにも、中島翔哉選手のプレーはサッカーを愛する者として純粋にワクワクするし、仕掛けることが相手にわかりながらもトライしていく感じが同じサッカー選手としてたまらない。

YS横浜の若手にも同じような精神を持ってもらいたいと思う。

技術じゃなくて精神を。それがどれだけクラブの中で活性化を生むことか。わかってもらいたいなぁ。

しかし、この試合についてどうだったかと問われると即答できず「……」となってしまう。

なぜなら、それはこの試合を語る上での「基準」や「前提」が不明瞭からだ。

いくらなんでもこの時期の目標を次のW杯に設定するには無理がある。あまりに先のこと過ぎて具体的なイメージがわかない。とすれば、おそらくこのあと参加が決定しているコパ・アメリカを想定した強化の一環として、森保一監督はこの試合に挑んだのだろう。

しかし、コパ・アメリカは諸事情でベストメンバーを組めない大会であり、日本代表としてのノルマもはっきりしない状態のままの参加となるだろう。とてもW杯までの一本道のど真ん中に位置するような重要な大会だとは言えない。

コパ・アメリカほどの大きな国際大会に挑むのにさえ明確なノルマを設定していないなら、その準備という位置付けであろうこの試合は余計に基準や前提は曖昧になるのも仕方ない。

しかし、強豪国と言われる国は、国民の誰もが自国の代表について真剣な議論ができる明確な前提があるものだ。

例えば「ブラジルサッカー」と聞けば、日本人でさえ多くの人が即答できることができるくらいだ。常に勝利を求められ、出場する大会では優勝が目標ーー強豪国、伝統国では自国のサッカーのスタイルやノルマが国民共通の認識として定着している。

しかし、日本サッカーは、W杯ごとに監督が交代し、スタイルもすっかり入れ替わる。日本サッカー全体の代表なのに「○○ジャパン」とその時の監督の名前が冠となる愛称がついたり、その時の主力選手のプレースタイルや言動でチーム全体がイメージづけされることが多い。

4年に1回ごとに日本サッカーの「前提」が毎回ゼロにリセットされ、改めてイチから作り直す4年限定の前提になってしまっている。

確かに日本代表はW杯に毎回当たり前のように出場し、何度もグループリーグ突破を果たしている。しかし、そんな4年限定のやり方ではいつまで経っても国民が共有できる前提は根付かないだろう。

ブラジルのように「日本サッカーといえば?」と聞かれれば、国民の多くがこういうものだと答え、何を当たり前のことを聞くんだというくらいなるためにはどうすればいいのか?

「この試合の意味はどういうものか?」と改めて問う必要がないほど、行われる試合の「前提」が明確にする。そうすれば、もっと多くの人に日本代表のサッカーに深く広く興味を持ってもらえるのではと思う。シーズンを通して戦うJリーグと比べて短期決戦となる日本代表は、特にそうあるべきだと思う。

そして、その上で「日本サッカーの目指す場所」が試合を通じて示せてこそ、日本代表という日本サッカー界を象徴するチームの存在意義があると僕は思う。

僕にできることが何なのか考え行動していきたいと思う試合だった。

関連記事