安彦考真選手の「ラグビー・ワールドカップ観戦記」vol.1
10月13日、ラグビー・ワールドカップ2019の予選プールA最終戦、日本対スコットランドが横浜国際総合競技場で行われ、日本が28―21で勝利。初めてとなるワールドカップでの決勝トーナメント進出の快挙を成し遂げた。
開幕時に世界ランク1位だったアイルランドや前回大会で大敗したスコットランドなど強豪国がひしめく予選プールAを、日本は4戦全勝し、勝ち点を19と積み上げて、プールA1位となって初のベスト8進出をつかんだ。
この試合、多くの日本人がスタジアムやテレビ越しに観戦し、ブレイブブロッサムズを応援した。
Jリーガーの安彦考真選手は、自身が所属するチームの試合が台風による延期となったこともあり、この試合をリアルタイムでテレビ観戦。日本代表の熱い戦いを目の当たりにし、プロリーグでプレーするアスリートとして、多くのことに気付かされたという。
安彦考真選手がラグビー・ワールドカップでの日本代表の戦いぶりを見て感じたことを、リアルアンサーしてくれた。
2019年10月13日
リアルアンサー
Y.S.C.C.横浜
安彦考真
「弱さを認めた地点から勝利への道は始まる」
ラグビー日本代表が悲願のベスト8進出を決めた。
台風被害が大きい中で、少しでも明るいニュースが日本を駆け巡ったことは本当に有難いし、スポーツの持つ力を改めて感じることができた。
この歴史的な勝利に日本中が歓喜に包まれたが、我々は何故ここまでラグビー日本代表の試合に心を揺さぶられたのだろうか。
それは身体と体をぶつけ合うその凄まじさだけではない。それはきっと試合後に選手たちの口をついた「犠牲」という言葉にすべてが隠されていると思った。
この場合"犠牲"という言葉にはネガティブという意味はなく、あくまでも自分たちが戦う上で必要な"断捨離"を意味していると勝手に解釈した。
それはポジティブな意味で捉えることができるし、そういったすべてのことを削ぎ落としてこの日のためにだけ取り組んできた彼らのラグビー愛とラグビーへの恩とも取れる言葉だった。
僕らサッカー選手も普段から「犠牲」という言葉を使うが、それは制限や我慢というネガティブな解釈になることが多い。
特に、サッカーをやっている選手は部活動で我慢や規制、制限などを求められ、その先に何があるかなど考えるまもなく高校生活が終わっていく。そこにポジティブな感覚はない。
試合後のインタビューで興奮冷めやらぬ福岡選手が言っていた。
「この日のために」
W杯に出場したいと思い続けたあのときの日本サッカー界のような思いが、選手一人ひとりに宿っていた。
やはり人の心をつかむ動かすのは、その人自身の覚悟だ。
ラグビー日本代表のすべての選手にこのピッチで死んでもいい、この目的を達成できるなら。そんな声がプレーから聞こえてきた。だから、できるサポートをしたい、と感情移入したんだ。声を張り上げ、祈り、トライに歓喜した。そして、彼らの勝利に涙したんだ。
僕は一人のサッカー選手として、その覚悟を表現する側にいる。
僕がJリーガーを目指し、怪我からの復帰を信じ、サッカー選手でいたい理由は、自分の使命を挑戦を通し表現したいからだ。
僕は、弱者だ。
だから、立ち向かうんだ。
いじめや体罰や自殺がなくならないのは、弱者が自分を卑下し、自分に期待していないからだ。弱いものいじめじゃないんだ。弱いとされている者が自分で自分をそう思い込んでいるんだ。
だから、僕は立ち向かう。弱い自分をさらけ出し、強い者へ立ち向かう。
より厳しい山を登ろうとする姿こそ、自分を奮い立たせるエネルギーになる。僕は世の中のマイナスなエネルギーをプラスに変えられる人になりたい。
ラグビー日本代表の戦いから僕は僕の使命に気づかせてもらった。
これからも、自分のできる範囲で他人のやらないことをやり切る。弱者が自ら命を絶つ世の中ではなく、弱者に手を差し伸べる強者が育つ社会にしたい。
僕はこれからも立ち向かう。