安彦考真「人生の先輩から20代に向けてのリアルアンサー」10
「夢を見れない子どもたち」を生み出すカッコ悪い大人たち
安彦考真
2020年6月2日
ある番組で発表された「なりたい職業ランキング」を紹介したSNS投稿を偶然目にした。
そこには驚くべき結果が出ていたからだ。
なりたい職業ランキング
(日本の男子中学生)
1位:Youtuber
2位:eスポーツプレーヤー
3位:ゲームクリエイター
4位:ITエンジニア・プログラマー
5位:社長
(アメリカの同年代)
1位:医師
2位:教師
3位:ITエンジニア、技術師
4位:デザイナー
5位:軍人
このランキングには衝撃的なことがたくさん盛り込まれている。
まず、僕の中学生時代とは明らかに上位にある職業名が大きく変わっているということ。
僕が小学校の卒業アルバムに書いた将来の夢は「サッカー選手」だったように、当時はスポーツ選手や芸能人がなりたい職業の上位にあった。
当時はまだJリーグもなかったが、大好きなサッカーを仕事にできると思っていた。
正確に言えば、仕事とというより、大人になってもサッカーをしていたいという漠然とした憧れだったと思う。
でも、今の子どもたちは、きっと僕たちの時代のような「憧れ」で職業を選ぶのはなく、職業というものを「仕事」として認識しているように見える。
そんなことを思いながら、アメリカの子どもたちとの違いを比べてみると、そこに職種以上に大きな違いがあることに気がついた。
もちろん、僕の考察が正しい断言するつもりはないが、この日米の結果の差が、今の日本とアメリカの姿を表している象徴のひとつではないか。
アメリカの子どもたちのなりたい職業のランキングを見て感じるキーワードは「人と関わる仕事が多い」ということ。
3位のITエンジニア以外は、多くの人に関わり、誰かを「救う」仕事だ。(ITもそうかもしれないが具体的な内容がわからないから違うとしておく)
医者や軍人はもちろん、教師も多くの人に関わりを持ち、さまざまな意味で「人を救う」役割を担う職業だと言える。
4位のデザイナーは、和製的に使われることも多いワードのため、もしかすると同じ「デザイナー」というワードでも日本でのイメージとアメリカでは違う可能性もある。それでも、その創作によって誰かに影響を与えるという意味で「変化」させることができる職業であることは間違いない。
アメリカの子どもたちのランキングを見て感じた、もう1つのキーワードは「使命感」。
ただ「人を救いたい」「人のために何かをしたい」ということだけではなく、そこに自分のアイデンティティを大事にし、そのアイデンティティが使命感となり、結果的にその職業に就きたいと感じているように思える。
ハリウッド映画やNetflix制作の作品にはランキング上位の職業を舞台とした作品が非常に多い。そして、きっと彼らのそばには実際にそういった職業の人がいるのだろう。
そんなカッコいい大人の姿を目にしたり、映像作品を見ることで、憧れを抱いたり、使命感を共有したりするのかもしれない。
現実、架空いずれでも、ランキング上位の職業の大人たちの正義感あふれるたち振る舞いや言動が、見ている子どもたちのアイデンティティや使命感の形成に良い影響を与え、「僕もそうなりたい」と感じるのではないかと思う。
僕が言いたいこと。
それは「子ども抱く夢」には「憧れ」という空想だけではく、身近な大人がその職業をカッコよくしているかどうかも大事だということだ。疲労困憊でだらしない大人を見て憧れる子どもなんていないのだから。
日本の男子中学生はどうか。
彼ら普段からスマホを片手にYouTubeを見たりゲームをしている。その憧れの延長上に職業がある。
それは僕がサッカー選手に憧れたように、身近なものが違うだけで今も昔もそれほど変わってないのかも知れない。
ただ、今は同時に「お金を稼げる」というイメージがより強く付随しているように思える。
なりたい職業に「社長」がある時点で謎でしかないが(それは肩書に過ぎない)、日本の中学生男子の中には「社長=お金持ち」のイメージがあるのだろう。
スポーツ選手がここにいないのも、もしかするとシビアな彼らから見れば「稼げない職業」というイメージがあるのかもしれないし、残念ながら実際にそういう側面も否めないと認めざるを得ない。
そして、改めて気づかされるのは、日本の子どものまわりには「カッコいい大人」が少ないのではないかということだ。
日本の中学生年代が普段接する大人と言えば、親や教師、部活などの指導者がほとんどのはず。
にも関わらず、そういった職業は出てこない。(親がYoutuberやeスポーツプレーヤーとは考えにくい)
今の子どもたちが「将来」をイメージした時、最優先に持ってくるキーワードを「お金」としているのは、今の僕たち大人が絶対的な原因だ。
だって、彼らの身近には良い影響を与える「カッコいい大人がいない」のだから。そして彼らのまわりの大人たちが多くの事柄に対して、無意識に「お金」を物事をはかる基準にしてしまっているのだから。
その結果が、このランキングに見事に表されていると言えるのではないだろうか。
僕はアメリカの職業ランキングと比べて、日本の子どもたちについて良いとか悪いとかを言いたいのではない。
ただ、アメリカのランキングを見ると「使命感」や「アイデンティティ」を感じさせるのに対し、日本の職業ランキングは「お金」がキーワードになっているという点にすごく寂しさを感じる。そして、僕たち大人がもっと責任を感じなければならないと思う。
お金以外にも生きていく上で必要なものは存在する。
けれど、今の子どもたちにそれを証明できる大人が身近にいないことは非常に大きな問題だ。
最後に「僕ができることは何か」を改めて考えてみた。
それは、子どもたちから「あの人の生き方カッコいいな」と思ってもらうこと。
人生「お金最優先」ではなく、夢や大志を抱き、それに対して真正面から挑むことの尊さ。自分の人生に対するアイデンティティを強く認識すること。
そして、自分が生きるこの社会に対して「使命感」を持って生きるということ。
「自分さえ良ければいい」という偏狭的な考えかたではなく、自分の生き方が国や社会に貢献できるということ。そしてその結果、誰かを支えたり救えたりできること。
そんな生き方こそ「カッコいい」と思ってもらえるよう、僕はこれから自分らしい生き方を貫き、努力を続けたいと思った。