安彦考真「人生の先輩から20代に向けてのリアルアンサー」14
「時代が僕に追いついた」
ラストイヤー開幕に思うこと
今シーズンの個人的な抱負とコロナ後の日本スポーツ界にとっての今シーズンの意味について【前編】
安彦考真
2020年6月20日
2020年は僕にとってJリーガーのラストイヤー。シーズンのスタートからスタメンを狙い、Jリーガーとしての集大成を飾るつもりだった。
しかし、世の中はそんなに甘くない。
昨年の古傷の再発、それをかばったことにより内転筋への負担が重なり、僕はチームの練習がスタートしてからもなかなか完全復帰することができなかった。
そんな中、コロナウイルスはやってきた。
自粛期間を含め、僕はJリーガーの中でも一番だと言ってもよいほどこのウイルスと向き合った。
それは、コロナウイルスについて誰よりも詳しく調べたということだけではない。
このコロナウイルスが、Jリーグを含めたスポーツ界だけでなく社会全体を混乱させていく中で、僕はどうやってこの状況を受け入れ、立ち向かうべきなのかを考え続けた。
ケガのリハビリ中だったこともあり、疲労で思考が止まるということはなかった。
「行動自粛はしても思考自粛はするな」
徹底的に自分と向き合い、激変する世の中と向き合ってきた。
ケガが治らないのは、誰かのせいではない。ならば「自分ができる努力とは何か?」「変化とは何か?」を考え続け、その結果「食」の改善をすることを決めた。
40歳でクラブからお金をもらわないクラウドファンディングJリーガーとしてJリーガーとなり、41歳ではオールドルーキーとしてJリーグデビューをした。
ラストイヤーとなる42歳は「食」改善を行い〝ヴィーガン・Jリーガー〟として最終章を迎えている。
ケガとコロナで出遅れたラストイヤーではあるが、ようやく来週、6月27日からJ3は開幕する。
ピッチの中では「ゴールを決める」という結果を出すことで、ピッチの外では「自分の生き様」を見せるという行動で、Jリーガーとしての集大成を表現していくつもりだ。
ピッチ内ではJリーガーの一員として「Jリーグのルール」を遵守し、プロアスリートとして求められる結果を出すことを求め続ける。
しかしその一方で、ピッチ外では誰かが決めたルールではない「自分が決めたルール」に基づいて、〝安彦考真〟として世に中に僕の「生きるさま」を表現していきたいと思う。
Jリーガーになる時、所属クラブからお金をもらわないと決め、大好きなサッカーをするために、周りの環境を整えた。
その環境は、無条件に与えられたヌクヌクした環境でなく、自ら行動し、自らの手で整備し、守り抜いたものだった。だから、僕自身はコロナの影響で世の中が激変しても不安に感じることは一切なかった。
むしろ、この機会だからこそ、新たな学び=「食」を学び直すことができ、肉体改造をすることができた。
僕は「好きなことをして生きていく」「生きたいように生きる」ためには、自分の時間を切り売りしてはならないと考えている。
だからこそ、ただ静かに自粛期間を過ごすのではなく、この期間をチャンスだと捉え、この期間しかできない新しいチャレンジに取り組むことで「自分の時間」として最大限に有効活用できた。
シーズン前の練習試合ではゴールを決めるなど、その成果は徐々に結果として現れ始めた。チームメイトの僕を見る目も変わってきた。
僕は自信を深めてシーズン開幕に臨む。それもこれも自分の時間を切り売りするのではなく、自分で考え行動することを大前提に生きているからこそだ。
多くの人が自粛している間により多くのものを手に入れることができた。あとはその成果をピッチで表現するだけだ。
僕はただピッチの上でサッカーをするだけでなく、Jリーガーとして「100年先のJリーガーの理想像」を常にイメージして行動しているつもりだ。
自分がこうしてJリーガーになれたのは、今の環境があったからこそだ。今の環境を与えてくれている関係者、サポーターのみんなには心から感謝している。
しかし、時代は流れ、社会も変化し続ける。その変化に合わせて自身も常にアジャストしていく意識を持つ。常に変化し続けなければ、僕が目標にする「理想像」には到底辿り着かない。
だからこそ今の環境をいつでも捨てられるつもりで、僕は常に前のめりに行動していく。
なぜなら、100年後もスポーツが多くの人にとって人生に欠かせない存在であり続けるためにも、アスリートたちは常に時代の変化を捉え、その変化に順応し行動し続ける必要があると僕は考えるからだ。
そして、そんな「時代を先取りする」アスリートたちの先頭に、僕は常に立っていたいと思う。
そんな思いでラストイヤー開幕を控える僕は「今シーズンこそ得点を決める」ことを大きな目標に掲げている。
理由は2つ。
1つめの理由は、結果を出せばメディアが取り上げてくれ、僕に注目してくれる人が増えるということ。
そしてもう1つの理由は、そのゴールで届けたい想いがあるからだ。
ゴールを決めた時に、ただ「最年長ゴールを記録!」という瞬間風速的な話題を提供するのではなく、40代で常に夢に向かってチャレンジし続ける「僕の生きざま」を多くの人に知ってもらうこと。
そしてそんな僕の姿をメディアを通して見てもらい「自分もやれる!」という気持ちを持ってもらいたいからだ。
自分だけでは乗り越えられない苦難を抱えた人もいる。突然の不幸で悲しみのどん底に突き落とされてもがき苦しみ続けている人もいる。
そんな人たちにとって一筋の光となるような奇跡を起こし続けたい。
そのためにも40代でJリーガーになった僕だからこそ、エリート街道を歩き続けたトップ選手とは対極の存在である僕だからこそ、雲の上の存在でしかない〝サッカーの神様〟とはまた違う形で、1人でも多くの人に勇気を与えたいと心から考えている。
僕は僕のためにサッカーをやっているのではない。
僕の言動を通じて、世の中の人が前を向き、誰よりも高く跳ぼうと挑戦し、自分らしい人生を歩み、大切な時間を有意義に過ごすことを優先する気持ちを持ってもらうためにやっている。
もちろん大好きだからサッカーをやっていることは間違いない。しかし、僕は社会を変えるため、「100年後の日本をより良いものにする」ためにサッカーに挑戦しているのだ。
(中編に続く)