安彦考真「人生の先輩から20代に向けてのリアルアンサー」15
100年先の未来に続く重要な一歩を刻む
今シーズンの個人的な抱負とコロナ後の日本スポーツ界にとっての今シーズンの意味について【中編】
安彦考真
2020年6月20日
【前編】→ http://www.livest.net/real/5375.html
日本スポーツ界にとって、このコロナとともに歩むことになる今シーズンは、非常に重要な役割を締めていると僕は考える。
それは、国民全員の生き方や生活様式が変わることが確実な中、試合開催に向けて実施されるさまざまな新たな施策は今年だけの応急処置ではない可能性が高いからだ。
来年以降もスペースを空けて観戦するやり方や、大声を上げることができない応援方法などが当たり前のこととなるかもしれない。街中でコロナ感染の可能性は拭えず、スタジアムまでの移動を躊躇う人もいるだろう。
そんな状況が続けば、今までJリーグを応援してくれた多くの人たちの中にも、大きな意識の変化が起こっていくはずだ。
多くのサラリーマンにとってリモート出勤は当たり前のものとなり、多くの学生にとってオンライン授業が定番化していけば、ライトなファン層にとっては「Jリーグをリモート観戦する」に対して違和感が薄れていくだろう。
すると何が起きるか。
「別にスタジアムでライブ観戦しなくても、Jリーグを楽しめる方法があるよね」
多くの人たちがそんなふうに考えるかもしれない。そして気がつけば一部熱狂的なサポーターを除けば、「サッカー観戦はリモートが当たり前」となる日がやって来る可能性がないとは言い切れない。
現状を踏まえて近未来を想像してみると、今シーズンは「数年後のJリーグの未来予想図」の最初期になるかもしれない。
僕たちJリーガーはそんな近未来への変化の序章を意識を持ちつつ、来週からの試合に臨む必要があるだろう。
もう「コロナ以前」の社会は戻ってこない。そしてサッカー界も同様だ。
そんな状況下で発展著しいヴァーチャル技術が世の中の変化に応じて、一層の日進月歩の進化を続けるだろう。
「コロナ以前」には心理的に受け入れづらいと考えていた人も、コロナによって一変した社会慣習によって気持ちは軟化していく。すると今までより何倍も加速度を上げて新しいVR技術が、一般の生活の一部に組み込まれていくはずだ。
進化したVR技術が組み込まれた近未来は、今の僕たちには想像もできないほどリアルとヴァーチャルが混在した世界になっているはずだ。
そして、近い将来のJリーグ観戦も、今シーズンに臨時で採用されるリモート観戦から飛躍的に発展したものになっていることは間違いない。
スタジアムに行かなくてもリアルな体験はできる時代。VR技術が発達すれば、まるでその場にいるような臨場感を味わい、歓声を耳にし、目の前で選手同士が激しくぶつかり合う音や衝撃を味わうことも簡単にできるようになる。
もっと言えば、VRでピッチの真ん中で試合を観戦することができるようになるかもしれない。
そんなことは今までのスタジアム観戦では絶対に味わえない感覚だ。一度体験したらもう中途半端な形での観戦スタイルでは物足りないと感じる人が続出するだろう。
そんな時代は遥か先のことではない。技術的にも、制度的にも、導入する流れができてしまえば、数年以内にも実現できるレベルにまで状況は迫ってきている。
「それでもやっぱりリアルがいい」という人がいるかも知れない。
しかし、大多数にとってそんなコロナ前の考え方は少数派となるだろう。
リアル感染には、スタジアム内だけでなく行き帰りを含めて感染リスクがあり、混雑した電車や渋滞がつきものだ。けれど、今まではそのストレス環境を含めてのスタジアム観戦だとみんなが納得するしかなかった。
しかし、さらに技術革新が進んだ上でのリモート観戦なら、感染リスクがなく、ストレスフリーで観戦を体感をできる。「ライブ観戦よりこっちのがいい」と多くの人が考えることはじゅうぶんに想像できる。
そんな近未来のスポーツ観戦スタイルに変わるきっかけとなる可能性を持つのが、今シーズンのJリーグだ。そんな意識が僕の中では強い。
万が一、スポーツ観戦の後、感染者が出てしまえば、再び多くのスポーツで無観客での試合開催に逆戻りすることはじゅうぶんあり得る。Jリーグが佳境になる秋に入る頃、世の中に再び感染者が広がることで、スポーツ観戦に対して自粛指導が入ることも想定できる。
今、なんとなくコロナが収束しつつあるムードが世の中に広がっている。多くの人が「これで普通にスポーツが楽しめる」と捉えているように見える。
しかし、これから始まる今シーズンは、今後、数ヶ月単位、数日単位で状況が一変し、そのたびにルールや対応がコロコロ変わる可能性を秘めた中での、じつは綱渡り状態の中での開催なのだ。
僕たち選手を含め、関係するすべての人間はそのことをひとときも忘れてはならない。
僕のJリーガーとしてのラストシーズンが、そんな大きなターニングポイントになると考えると、僕が40代でJリーガーをめざし、早々に最後のシーズンと宣言したのも何か深い因縁に導かれているのではないかと感じている。
(後編につづく)