6月29日
「髑髏城の七人 season鳥」
【作】中島かずき 【演出】いのうえひでのり
【出演】阿部サダヲ 森山未來 早乙女太一 / 松雪泰子 /粟根まこと 福田転球 少路勇介 清水葉月 /右近健一 山本カナコ 村木仁 /梶原善 / 池田成志
【美術】堀尾幸男 【照明】原田保 【衣裳】堂本教子 【音楽】岡崎司 【作詞】森雪之丞 【振付】MIKIKO 【音響】井上哲司【音効】末谷あずさ 大木裕介 【殺陣指導】田尻茂一 川原正嗣 【アクション監督】川原正嗣 【ヘア&メイク】宮内宏明【小道具・甲冑製作】高橋岳蔵 【特殊効果】南義明 【映像】上田大樹 【大道具】俳優座劇場舞台美術部【歌唱指導】右近健一 【演出助手】加藤由紀子 木下マカイ 山﨑総司 【舞台監督】濵野貴彦 芳谷研
【制作プロデューサー】細川展裕 柴原智子
【主催】TBS ディスクガレージ ローソンHMVエンタテイメント 電通【後援】BS-TBS TBSラジオ 【制作】ヴィレッヂ 【企画・製作】TBS ヴィレッヂ 劇団☆新感線
season花に続き、「鳥」編の鑑賞。
「IHIステージアラウンド東京」での鑑賞も2度目ということで、勝手知ったる場所の一方で、2度目でもなかなか行くことに面倒を感じる会場でもある。
まず「市場前」という絶対に他では来る必要のない場所であり(豊洲市場が開場すれば、何か観光で来ることがあるかもしれないが)、乗ることの少ない「ゆりかもめ」の中でも親近感のない場所にある駅で、駅からは近いが、駅前には何もなく寂しい。
来場者の構成は、前回以上に女性客が多い印象。前回は、小栗旬や山本耕史といった人気俳優がいたが、彼らのファンっぽい人は目立たず、「劇団☆新感線」ファン、舞台ファンという雰囲気の人が目についた。今回は、それほど舞台ファンという感じでもなく、「なんか回転する劇場が話題になっているから一度観に行ってみようか」的な人が多い印象(あくまで印象)。
確かに注目されてもおかしくないと思うほど、このIHIステージアラウンド東京は今までの劇場の固定観念を壊す新しい劇場設計だ。劇場自体がエンタテインメント性満点で、まるでアミューズメントパークに遊びに行くような感覚になる。最近、270度スクリーンが広がる映画館ができるなど、エンタテインメント界にも、既存の施設の概念を超えた、お客さんを喜ばすこと優先のチャレンジが増えていることを改めて感じる。
ハード面が徐々に変化しているぶん、中身となるソフトも、もっとチャレンジ精神を旺盛にしなくてはいけないと感じる。その点、今回の「髑髏城の七人」は、初演時の脚本の面白さを残しつつ、このIHIステージアラウンド東京の特性をよく生かした演出に取り組んでいて、見て損はないエンタテインメントだ。
実際、「season花」の時より、このステージの特性をより生かした演出が盛りだくさんになっていて、このシリーズの残りあと2つで、どこまでこのステージの良さを最大限に引き出す舞台を見せてくれるのか、残りの「season風」と「season月」も今から楽しみだ。
今回の舞台でもっとも期待していた1つが、【振付】MIKIKO。言わずもがなperfumeやbabymetalなどを手がける(リオオリンピックの閉会式も素晴らしかった)超売れっ子振付師のMIKIKOさんが、劇団☆新感線の舞台をどう調理するのか、非常に楽しみにしていた。
もともと「season花」がオーソドックスな「髑髏城」で、「season鳥」はエンタテインメント性を盛り込んだ楽しい舞台にするというコンセプトで演出されていたのもあるが、森雪之丞 さん作詞の歌を出演者たちが歌いながらMIKIKOの振付を踊って、まるでミュージカルのような髑髏城となった。子どもの頃に見た温泉街の派手な劇場のショーを最高レベルにまで磨き上げたような(もちろん褒め言葉です)明るくバカバカしく派手なミュージカルシーンを、森山未來や松雪泰子、阿部サダヲらが真面目に演じている様子は、これだけでチケット代以上の価値を感じた。(もちろん自分が何よりミュージカル好きということもあるが)森山未來も松雪泰子も、意外にも阿部サダヲも、歌がめちゃめちゃ上手くて、めちゃめちゃカッコよくて、絵になるシーンの連続で、その時は劇団☆新感線の髑髏城を見ていることを忘れるほどだった。
もう1つの見どころは、早乙女太一の殺陣シーン。髑髏城の舞台は、殺陣シーンの連続で、セリフを覚えるより、殺陣の流れを覚える方が大変なんじゃないかと感じるほど殺陣シーンが多い舞台だが、早乙女太一の殺陣の美しさは改めて惚れ惚れするレベル。スピードがありながら正確で、体の軸が一定で、流れるような刀の動きを見ているだけで、チケット代以上の価値を感じた。
ということで、このミュージカルシーンと殺陣シーンだけでも、チケット2倍の価値がある「髑髏城の七人season鳥」だが、個人的に一番のオススメは「天魔王」役の森山未來の演技。もともとダンスをやっていたということで、殺陣シーンの体の動きも雄大でカッコ良いいが、セリフの言い回しやちょっとした仕草など、個人的には「森山未來バージョンの天魔王」が一番魅了された。
というのも、「season花」で天魔王を演じたのが、個人的に「出れば必ず観る舞台俳優」の評価付けをしている「成河」で、彼の天魔王は、まさに王道と言ってもいい、素晴らしい天魔王だったので、森山未來バージョンは期待と不安が混じった状態で舞台を鑑賞したのだが、期待以上の天魔王を見せてもらえた。
裏切り上等、人の悪い部分を凝縮したような天魔王の中に、ところどころさりげないギャグやお茶目な演技を盛り込むことで、親近感を感じる天魔王を演じた森山未來は、今回の舞台で自分の中で「出れば必ず観る俳優」にランクアップした(笑)。
まったくの余談だが、終盤、天魔王と捨乃介が、刀で対決するシーンで、天魔王の刀が折れてしまい、殺陣にならない状態になった。ライブの舞台らしいトラブルに「一流俳優たちはどう対処するか」と注目していたが、天魔王の森山未來は平然と何食わぬ顔で折れて短くなった刀で殺陣を進めつつ、途中から刀を捨て(おそらく)アドリブで捨乃介と対決シーンを素晴らしい演技のまま続けた。阿部サダヲも何もなかった風に森山未來の動きに合わせ、さも台本通りという感じでリアクションの演技を続けていた。
これは映画やテレビドラマでは絶対に見れない役者の器や才能を感じるライブの舞台ならではのシーン。しかもクライマックスでの最大の見どころでのトラブルにも平然とストーリーを進める2人の俳優に改めて感動した。
最後に、主役の阿部サダヲ。過去、捨乃介を演じた役者では最高齢とのことで、若々しさのない捨乃介になることを少し心配していたが、3時間強の上演中、誰よりも軽快な動きを見せ続けてくれて、阿部サダヲバージョン捨乃介を楽しめた。「season花」が小栗旬だったこともあり、捨乃介に対してその印象を持ちがちだが、今回は小栗バージョンとは別の役という目線で見ることで「season鳥」は一層楽しめると感じた。
週1回ペースで舞台やミュージカルを観に行っているが、(もちろん人気の演目ばかり選んでいるというのはあるが)それでも毎回、どの舞台も満席で、最後はスタンディングオベーションになるのを見て、日本の舞台ファン、ミュージカルファンの層の厚さを今回も改めて感じた。
チケット代で言えば、だいたい1万3000円くらいする。2時間程度のエンタテインメントで、映画の10倍ほどのチケット代を払ってでも舞台やミュージカルを観たいと思う人がこれほどたくさんいるなんて。日本の舞台&ミュージカル界の今後は明るいなと感じた。