6月14日
@帝国劇場
ミュージカル「レ・ミゼラブル」
ジャン・バルジャン 福井晶一、ヤン・ジュンモ、吉原光夫
ジャベール 川口竜也、吉原光夫、岸祐二
ファンテーヌ 知念里奈、和音美桜、二宮愛
エポニーヌ 昆夏美、唯月ふうか、松原凜子
マリウス 海宝直人、内藤大希、田村良太
コゼット 生田絵梨花、清水彩花、小南満佑子
アンジョルラス 上原理生、上山竜治、相葉裕樹
テナルディエ 駒田一、橋本じゅん、KENTARO
マダム・テナルディエ 森公美子、鈴木ほのか、谷口ゆうな
ガブローシュ:大西統眞、島田裕仁、廣田礼王恩
リトル・コゼット/リトル・エポニーヌ:井手柚花、岡田奈々、鈴木陽菜、禾本珠彩、宮島瑠南、山崎瑠奈
作●アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作●ヴィクトル・ユゴー 作詞●ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作●キャメロン・マッキントッシュ
演出●ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
翻訳●酒井洋子 訳詞●岩谷時子 プロデューサー●田口豪孝/坂本義和
製作●東宝
ザ王道ミュージカル「レ・ミゼラブル」。楽しみに過ぎて、年初のチケット発売時に思わず4公演もチケットをゲットしてしまい、その時はやり過ぎかと思っていたが、実際に公園が始まってみると4回も観れる喜びで、「自分、でかした」と思わず自分を褒めてあげたくなるほど、テンションが高まるミュージカル、それが「レミゼ」。
昨年、ロンドンに行った際に、クイーンズシアターで本場の「レミゼ」を観て以来の「レミゼ」。トータルでもかなりの回数をライブ鑑賞しているが、それでもやっぱり毎回ワクワクさせてくれるのが、王道のポテンシャルなんだろう。
今日は4枚中2枚目のチケットを使い、2回目の鑑賞。「30周年スペシャルウィーク」と銘打たれたスペシャルバージョンで、公演後に歴代の出演者たちが舞台に集い、トークショーと歌唱を披露してくれるということで、日本中のミュージカルファン、レミゼのファンが帝国劇場に集結したような、みんなの高揚感で帝国劇場の中が熱気であふれるほどだった。
最初の鑑賞に続き、ジャン・バルジャンは福井晶一、ジャベールは岸祐二のコンビ。せっかく4回も観るのに、そしてトリプルキャストなのに、自分のスケジュールに合わせて取ったチケットは、偶然にも2回連続で両名のコンビとなった。他の組みわせも観たい気もするが、個人的には岸さんファンなので(笑)、別に不満は無し。岸さんは、年初に上演されたロミオ&ジュリエットでもあのバリトンボイスに魅了された経緯もあり、今回もジャベール役での熱唱にどっぷりレミゼの世界にハマらせていただいた。
2回目ということで、ストーリー展開も把握していたので、1回目では気づけなかったことに着目する余裕はあったが、それでもやはり帝国劇場での公演ということで、劇団☆新感線のような毎回アドリブ差し込んでくる舞台とは違い、基本に忠実な舞台で、そのぶん、1度目観た時より、出演者同士の阿吽の呼吸が磨かれ、より洗練された舞台となっていたように感じた。
個人的には、前半部後半の、「民衆の歌」から、マリウスがコゼットに会いに行くシーンで、2人が愛を歌う中、エポニーヌがそれを遠巻きに見て悲しみの歌を歌うシーン、そしてマリウスとコゼット、エポニーヌ、アンジョルラスと学生・民衆たち、ジャベール、そしてテナルディエ夫妻も、それぞれの明日に思いを馳せる「ワン・デイ・モア」につながる部分、そしてその後のエポニーヌが雨の中、片思いの気持ちを歌う「オン・マイ・オウン」までの流れが大好きで、映画版の「レ・ミゼラブル」でもDVDでこの一連のシーンをずっと繰り返し見ていたほど。今回も、この休憩を挟んでの前半の終盤と後半の始まりの箇所は素晴らしかった。
エポニーヌは、映画「美女と野獣」で吹き替えを担当している昆夏美。個人的には、レミゼでは、このエポニーヌ役が一番の注目の配役で、今回の昆さんも叶わぬ思いを抱えながらも愛する人のためにすべてを捧げて命を落とすエポニーヌを素晴らしい演技と歌で演じていた。
レミゼの脚本的な素晴らしい点は、このエポニーヌは、子どもの頃、素敵な青い帽子が自慢の娘として大事に育てらて、預かり子として一緒に暮らしていたコゼットに意地悪な態度で接していた。時間が経ち、コゼットがジャンバルジャンに引き取られて優雅な暮らしをするようになった一方、大人になったエポニーヌは街で窃盗集団の1人としてみすぼらしい服装でその日暮らしの日々。立場は完全に逆転し、コゼットへの憎悪は募るばかり……というのが安っぽい脚本の鉄板だが、エポニーヌは最愛のマリウスがコゼットとの愛を成就するため、手紙を渡しに行ったり、父親が所属する窃盗団に襲われそうになった際は、大声を出してコゼットを救ったり……ただの単純なダメな娘として描かれず、自身の子どもの頃のコゼットへの態度を反省し、コゼットの幸せ(イコール最愛のマリウスの幸せ)を願う心温かい女性として描かれている。こういう部分が、複雑な人間関係とジャンバルジャンの1人の人生を時系列に追った長い話にもかかわらず、多くの人に長く愛される演目となっているのだと思う。
とにかく、レミゼは、人間関係が複雑で、しかもジャンバルジャンの半生を追い、何度も場面が変わるので、予備知識がないまま見ると、レミゼの面白さの半分も理解できないまま、下手するとレミゼを嫌いになるような、奥深いミュージカルだ。
そんな中、1回目の時は、高校の校外学習として、2校ほど高校生たちが鑑賞していたが、正直、どこまでレミゼを楽しめたか疑問に感じた。いきなり犯罪者として刑を務めていたジャンバルジャンが自身の状況を歌い始めるが、「病気の子どものためにパン1つ盗んだだけ」とかいうセリフが歌のために聞きづらく、???のままストーリーは進み、すぐに仮釈放されて街に出て……と最初からストーリーに入り込めないまま進んで行くのがレミゼであり、正直、ストーリーとして破綻しているだろうと思わせる部分がいくつもあるのがレミゼ。だからこそ、レミゼの予備知識も時代背景の知識なく、無理やり劇場に連れてこられた高校生には、楽しむにはハードルが高い演目のような気がする。
もちろん、ストーリー的破綻があるのは3時間で1人の波乱万丈な人生を描くには無理があって当然で、そんな破綻を超越した面白さがレミゼの魅力であり、破綻しているからこそ面白いとも言える。(もちろんそこまで思えるには、何度か鑑賞経験がないと難しいかもしれないが)
今回のように、ほとんどの観客がミュージカルファンでレミゼファンのようであれば問題ないが、ストーリーを知らないまま見た人は世界観に入り込めないまま話が進み、???のまま終わってしまう感もあり、ちょっと初心者置き去りな感じもした。例えば、開演前に、少し時代背景や人間関係など、簡単に解説する前説があるとかすれば、もっとレミゼファンを増やせる気がした。(劇団四季「アラジン」は開演前にジーニーが登場し、面白おかしく設定や状況を説明するところから始まる。こういうやり方は常連者には不要でも、初心者向けには有りだと思う)
終演後に開催された特別イベントは50名ほどの歴代出演者の登壇と、ロンドン公演のマリウス役のイギリス人がゲスト出演して歌った。
50名ほどが紹介され、特に中心となった配役の出演者には簡単な質疑応答などが行われた。しかし、せっかく歴代の名優が50名も集まり、さらにイギリスからトップ俳優を来日させたのだから、日本とイギリスのマリウス同士での共演など、もっといい演出法があったのではと思うほど、もったいない構成だった。ちょうど「ミス・サイゴン」の30周年記念を映画で見たからこそ(そこには終演後に30周年を記念して、歴代出演者が舞台に揃い、新旧の主役対決など見どころ満載だった)、配役の一番の見せ場の歌を、代違いの俳優同士の夢の共演とか、ファンを喜ばせることをすればよかったのにと、ちょっと残念に感じた。
川崎麻世、平野綾や、高橋由美子、鳳蘭ら、現在も活躍している人も多数出て、会場は大いに盛り上がった。が、それだけに、ファンを喜ばし、せっかく来たレジェンドたちを楽しませる構成はできなかったのか、と、東宝チームが壮大な無駄使いをした印象が強すぎた。