安彦考真「インスタライブ配信成功の秘訣とは?」(第2回)
なぜライブ配信は成功することができたのか?
2020年5月15日
安彦考真
「ソーシャルディスタンス」という言葉が意識され、人と人との物理的距離が広がりつつある今。
気持ちの面まで人と人との距離が出来つつあるようで心配になる。
仕方なく始まったリモートワークも実際に一定期間やってみると利点も多いことがわかり、毎日オフィスに出社してみんなで机に向かうという「今までの当たり前」が近い将来なくなるかもしれない。
僕たちサッカー選手は1人では何もできない。
公式戦には通常11人のチームメイトと同数の相手、そしてレフェリーが必要となる。
プロサッカーとなればサポーターの存在は必須だし、取材してくれるメディアやテレビクルー、スタジアムを保安してくれる警備スタッフや芝を管理する施設管理のプロなどもいてもらわなければならない大切な存在だ。
だからこそ、「安全面から人と距離を取る」という意識が強くなっている中で、僕はあえて心理面で距離を縮めることを意識した行動をとっている。
例えば、サポーターやファンとの距離を縮めることを意識し、頻繁にSNSで発信し、行動を細かくブログや記事に書いて公開している。
これは今がリーグ中断(というよりJ3は開幕さえしていない……)期間であり、またチーム全体練習もできない状況で、個人でのトレーニング中心の生活だからということもある。
普段のシーズン中は、練習メニューや体調の状況など公開できないものが多いため、SNSでの発信なども気をつけて行っているが、今はあくまで僕個人の情報発信中心。
もちろん気をつけるポイントはあるが、それでも普通のシーズン中とは比べようのないほど自由に発信できることを生かして、サポーターやファンに僕の生の声をたくさん届けようと意識している。
また、普段は練習時間をともにしているチームメイトとも、普段のボールを介してのコミュニケーションではない、(電話を経由してだが)対話中心のコミュニケーションの機会を増やしている。
多くの選手と密にコミュニケーションをとっている中で、「せっかく普段はなかなか話さない内容の会話をしているのだから、これをサポーター向けに公開すればいいのでは……」と思いつき、早速チームの許可を得て、チームメイト全員とのインスタライブ配信をスタートしたのだった。
※田場ディエゴ選手とのインスタライブの様子
最初は要領を得なかったチームメイトたちも、徐々に僕のやり方に慣れ、回を追うごとに中身の濃い配信になっていた。
それは試聴しているサポーターやファンの方々の反応が大きくなってきただけでなく、メディアからの注目も大きくなってきたことで配信の評価を実感している。
もちろんこのライブ配信だけが理由でなく、僕個人でのSNS配信やブログ記事公開も相乗効果となっているのだろうが、最近の僕に対するメディアの注目度は、40歳でJリーガーとなった初年度以来の最高レベルとなっている気がする。
※日刊スポーツ
https://headlines.yahoo.co.jp/cm/main?d=20200504-25030359-nksports-socc
これも、自粛期間だとすべての行動を自粛するのでなく、このイレギュラーな期間をチャンスに変えようと意識してより多くのアクションを行い、より細かく発信し続けた成果だと考えている。
人はどんな環境の変化に陥っても、考え方、行動を少し変えれば、ピンチがチャンスになる好例だと受け取ってもらえれば僕としては嬉しい。
さて、チームメイトと1対1で毎日行うインスタライブ配信だが、いろいろ大変なこともあったが、ついにY.S.C.C.横浜すべての選手との対談配信を無事完走した。
僕なりにこのライブ配信を通じて感じたこと、得たことをまとめてみたいと思う。
普段から、僕はチームメイトに誰から構わず積極的に話しかけるようにしているので、全選手の特徴、良いところや悪いところのほとんどを把握しているつもりだ。
だからこそ、相手があまり喋らない場合でも、どんどん具体的な質問をして、相手が自分の言葉で喋りやすい状況を作ることで、良いライブ配信を提供できたと自負している。
そもそも僕ができるだけこちらから積極的に声をかけ、コミュニケーションを取ろうと心がけるやり方は、Jリーガーになる前のさまざまな場面でもずっと実践してきたことだ。
まだ正式に選手契約する前の水戸ホーリーホックで練習生として参加していた時もそうだった。実際にチームメイトになれるかどうか決まる前から選手全員の特徴を(プレーだけでなく、性格を含めて)つかむようにしていた。
そして、このことは発達障害を抱える子どもたちのスクールや不登校の子達を集めたサッカーコースを作った時も同じだった。
僕流のやり方はこうだ。
まずは一人ひとりの行動をじっくり観察をすること。
そして、その分析をもとに話すこと。
またそれと同時に、会話流れ始めたことで彼らの中から自然と出てくる言葉を的確に拾い、意外な方向に広げていく。
会話が心地よく進むことで、相手も僕とのコミュニケーションを楽しみ始め、徐々に本音を話してくれるようになる。
これは僕の中で熟成された技術なので、マニュアル化はできない。
でも、やり方のコツは伝えることができるのではと考えている。
(つづく)