ピーダーセン世穏「自分がハーフだと意識したことはない」

2020.4.28

安彦考真

「教育」プロジェクト<移民たちのリアルリサーチ>第4回

「安彦考真×ブラジル 移民と教育を考えるプロジェクト (仮)」

第4回 安彦考真の取材リポート

安彦考真選手が「移民」というテーマを通じて、日本の教育の問題に切り込むプロジェクト。

今回は、安彦考真選手が所属するY.S.C.C.横浜のピーダーセン世穏(よおん)選手に、安彦選手がインタビューを行った。

日本生まれの日本育ちのピーダーセン世穏選手だが、父親がデンマーク人ということで、容姿やプレースタイルは日本人離れした特徴を持つ。

このYS横浜期待の若手選手について、チームメイトであり、またFWのポジション争いをするライバルとして、安彦選手が分析する。

 

第1回はこちら→ http://www.livest.net/real/4743.html

第2回はこちら→ http://www.livest.net/real/4767.html

第3回はこちら→ http://www.livest.net/real/4781.html

 

「日本で戦うハーフ選手たちの横顔」

デンマーク人ハーフ「ピーダーセン世穏(よおん)選手

Y.S.C.C.横浜

ピーダーは日本生まれの日本育ち。

父親がデンマーク人で、母親が日本人。小学校から大学まで慶應育ちで、端正な顔立ちと日本人離れした身体能力を持つピーダー。

人間的にも非常にしっかりと自分の意見を持っている素晴らしい選手だ。

 

彼は身体の大きさに反して、繊細なボールさばきができるプレーヤーであり、前線で待ち構える存在感は日本サッカー界には欠かせない。

ボールをおさめることができるし、前を向いてゴールを狙う嗅覚もある。

チームにとって非常に大きな戦力となることは間違いないが、FWでのスタメン奪取をめざしている僕にとってはポジション争いの厄介なライバルがまた1人増えたと言える(笑)

 

今回はそんな彼にハーフであることのプラスとマイナスを聞いてみた。

最初にその話を降ったときに彼は僕にこういった。

「あまり考えたことがなかったですね」と。

 

ただ、改めて僕の質問をきっかけにこれまでを思い返してみると、いくつか思い当たることがあるという。

「今までは『自分はハーフだ』という自覚があるので全然気にしていなかった。でもアビさんに改めて聞かれてよくよく考えてみれば、ハーフだからといって偏見をもたれることを容認してしまうのはおかしいですね」と笑顔で答えた。

 

彼が言うには「自分には国がない」と思わされることが多いという。

これは愛川町役場で働く岩根さんたちも言っていたが、ピーダーも同じことを話してくれた。

日本にいれば、どこかで外国人扱いをされ、デンマークに行けば日本人扱いとなる。気がつけば自分の心の中と周りとのギャップがあることに気がつく。

 

僕はこんな質問をしてみた。

「ワールドツアーカップで日本vsデンマークの試合があったらどっちを応援するか?」と。

すると彼は「120%で日本です」と答えた。

 

その時点で彼の心は日本人である。

確かに端正な顔立ちで純粋な日本人には見えないが、生まれも育ちも日本な彼は紛れもなく日本人であると言える。

僕らには無自覚に強い「日本人像」の固定観念があるのかも知れない。

それはそれで自然なことかもしれない。2000年以上も外国からの侵略を受けず、ほとんどの国民が単一言語を話す国は世界的にも珍しい。
それが当たり前になってしまっている今の日本国民にとって、ハーフの存在をどこか容易に受け入れられない感覚があるのかもしれない。

ちなみに僕は、周囲に米軍基地がある環境で育ったので、アメリカ人と接する機会が昔から頻繁にあったし、高校生でブラジルに行っているので、そのあたりの偏見は全然ない。

 

ブラジルは混血人種が多いので、黒人に対してブラックジョークを言うことが日常茶飯事。

黒人も白人に対して肌の色でジョークを言うこともある。

もちろんそれは信頼関係の元成り立っているという前提はあるが、お互いの違いを受け入れながらも、違うということの認識をちゃんとしている。

だからといって、それが偏見という捉え方にはならない。

共存、共生があるからこそ、その人たちの文化背景を無視しない友情がそこにはあった。

 

僕ら日本人も、同じようにその人の育った環境などを含め、違うということを受け入れながら、新たな価値観を構築していく時代に入ってきたと思う。

どこかでハーフの人の思考に対して、「あーアイツは外国人だからな」という言葉を使うことがあるが、それは日本人という絶対的な前提思考があり過ぎることで、そもそも受け入れることができてないことを示している。

 

ピーダーが言う「母国がない」という言葉を軽く捉えず、今一度「他者との違い」に対して真剣に考えていく必要があると思った。

せっかく日本人とは違うスペックを持って生まれた日本人なのだから、そんなハーフの選手たちが肩身の狭い想いをさせて、萎縮して能力を爆発できないような社会にしてはいけないと感じた。

 

今僕が所属しているY.S.C.C.横浜には数多くの背景を持っている選手が多い。

そんな選手たちから実情を聞きながら、この移民問題を深く掘り下げる入口にしていけたらと考えている。

こんな時だからこそ、先ずは自分にできることを率先してやり続けて行きたいと思う。

 

第1回はこちら→ http://www.livest.net/real/4743.html

第2回はこちら→ http://www.livest.net/real/4767.html

第3回はこちら→ http://www.livest.net/real/4781.html

 

ピーダーセン世穏

1997年12月12日生まれ
183cm/78kg
背番号:15
ポジション:FW
FCトリプレッタU-18→慶應義塾大