「夢が持てない子どもたち」を救いたい

2020.5.8

安彦考真

「教育」プロジェクト<移民たちのリアルリサーチ>第6回

「なぜサッカー日本代表にはハーフ選手が少ないのか?」

他のサッカー強豪国と比べても、また他のオリンピック競技の日本代表の顔ぶれを見ても、国際化が進んでいる日本のサッカー界において、日本代表の中に多様なルーツを持つ選手がほとんどいないのはなぜ?

そんな素朴な疑問からスタートした安彦考真選手によるプロジェクト。

まずは自身の地元で暮らす外国人の実情を探ることに着手した安彦選手は、現在、市議会議員を務める学生時代からの友人を訪ねた。

自治体から見たリアルな現状について、安彦選手の「移民」に関する最新リポートの第2回。

 

前編はこちら→ http://www.livest.net/real/4990.html

市議会議員に聞く、地元に潜む「教育問題」とは?

相模原市議会議員、折笠正治氏を訪ねて

(第2回)

「夢が持てない子どもたち」を救いたい

 

相模原市議会議員の折笠正治とは高校時代の悪友だった。

しばらく顔を合わせていなかった彼とひさびさの再会を果たしたのは、折笠が市議会議員の選挙に立候補すると決めた時。

彼の力になりたいと思い、彼の支持者や他の議員たちが顔を揃えた集会に登壇し、彼の人となりや議員の資質などを僕なりに一生懸命アピールした。

そして、彼は見事に当選。市議会議員として、新たな人生をスタートさせていた。

 

それがだいたい1年前。

今回、彼が議員になってから初めて会うことになった。

(高校時代の僕と折笠。懐かしい・笑)

 

高校時代のヤンチャな彼を知っている僕からすれば別人のように、折笠は議員らしい誠実で丁寧だけれど、一本筋を通すことは忘れないというような凛々しいオーラを纏っていた。

僕はたった1年でこれほどまでに人の持つ雰囲気が劇的に変わるのかと少し驚いた。

 

僕は40代前半。そして折笠も同じ年齢だ。

僕はかなり前から、彼以外にも高校時代のクラスメートや仲が良かったメンバーとはLINEでグループで繋がっている。

そこでは互いの近況を報告し合ったり、必要な情報を共有し合ったり、同年代だからこそ阿吽の呼吸で分かり合える密なコミュニケーションが成立している。

そこではそれぞれのプライベートを伝え合い、困っている場合は全力でサポートし、幸せなことがあった人にはみんなで祝福したりした。

例えば、そのタイムラインには誰々の子どもの入学式があったとか、親が病気になったとか40代前半ならではのリアリティのある出来事についてメッセージが書き込まれる。

 

そのコミュニケーションの輪の中で、そんな同い年のメンバーたちの多くは、確実に40代前半らしい落ち着いたマイルドな雰囲気と生活を醸し出していた。

けれど、そんな大勢の中でも、折笠と僕は少し異端な存在となっていた。

 

40代で今までの仕事を辞めて市政に乗り出した折笠は、同年代の中でも圧倒的に濃い日常を過ごしていることが端々に伝わってきた。日々の時間の中に明確な意思と目的を持った生き方をしていた。

そして僕も、40代でうまくいっていた一切の仕事を捨てて「Jリーガーになる」という夢をめざし、実現させていた。

僕はみんなみたいにマイカーを買う予定もマイホームを買う予定もお金もないけれど、それと同様かそれ以上の自分らしい幸せな日々を過ごしていた。

 

つまり、僕と折笠は(折笠は一緒にして欲しくないだろうけれど・笑)一般的な40代前半の通常ルートから外れた人生を歩んでいるということを、そのLINEグループのタイムラインがはっきりと示していた。

それでも、僕も折笠も充実した日々を送り、たくさんのハッピーを手にしていた。

人生いろいろだ。

(選挙中の折笠。持っているユニフォームはサッカー日本代表吉田麻也選手から激励メッセージ入りのもの。残念ながら僕からのものではない・笑 :写真は本人より提供)

 

 

そんなこともあってか、1年近く会っていなくても折笠は近しい存在にように勝手に思っていた。

お互い波乱万丈な40歳を迎えての大きな人生の転換を乗り越えた者同士。

大きなチャレンジをし続けた同志として、1年ぶりに折笠の顔を見た時、やっぱり俺たちの魂は繋がっているんだなと直感した。

 

実際に会ってみると、いつもの彼と変わりはないが、話し方や思考や捉え方は地域を代表している自覚と責任が溢れ出ていた。

 

彼は僕が想像もできなかったほどたくさんの施策やプロジェクトを担当し、また多くの市政事業に携わっていた。

僕は1人の市議会議員がこれほど多くの仕事に日々向かっているということを恥ずかしながらこの時初めて知った。

そんな多忙な折笠だけれど、4年ほど前から無料塾ひばり学校という子どもたちの学習支援もしているという。

(「無料塾ひばり学校」ホームページ)

https://orikasa-masaharu.com/19.html

(ひばり学校の様子:折笠まさはる公式サイトより)

折笠まさはる公式サイト

https://orikasa-masaharu.com/19.html

 

(ひばり学校卒業式で登壇する折笠)

 

彼がこの取り組みを始めたのは、全ての子どもに均等な教育を受けてほしいという思いと、共働きなどで寂しさを感じる子どもたちの居場所を作りたいという思いからだという。

その話を聞いて、この教育格差は「移民問題」にも繋がることだと思い、折笠に僕が今やろうとしている「日本に住む南米系の子どもたちを教育面でサポートする」プロジェクトについて熱く語った。

「他のオリンピック競技の日本代表クラスには続々とハーフ選手が台頭しているのに、サッカー日本代表クラスにはほとんどハーフ選手がいないのはなぜだろう?」という素朴な疑問を持ったこと。

そして「それはもしかすると、両親が外国人、もしくは両親のどちらかが外国人の子どもたちのサッカー環境が良くないのかもしれない」という仮説となり、「もしかすると、そもそも日本で暮らす外国人のファミリーにとって、子どもにサッカーをやらせることに何かハードルがあるのでは?」というさらなる疑問を生んだこと。

だからこそ「まずは日本で暮らす外国人の子どもたちの環境を知ることから始めたい」と考えたこと。

(前回大会のサッカーW杯を優勝したフランス代表チームにはさまざまなルーツを持つ選手たちが集結していた)

 

僕は気がつけば長く熱弁を奮っていた。そんな僕を見て、折笠は真剣な表情でじっと耳を傾け続けてくれていた。

「日本人であっても起こってしまう教育格差の実態を知ることで、南米系移民の子どもたちがどんな実情なのかを考えることに繋がるかもしれないね」

折笠はそういうと、彼が今手掛けている数多くの案件の中から参考になる事例をいくつか挙げてくれた。

 

例えば、現在、彼が協力をしている児童養護施設の実情について。

「何らかの問題で親元を離れ児童養護施設で生活をしている子どもたちは、18歳までには施設を出なければならないという決まりがある。そうなると、施設の子どもは18歳になるまでに就職をしなければならないけれど、就職をすることが難しい。そして就ける仕事は厳しい環境の中での作業を必要とするものも多く、頑張りすぎて身体を酷使して壊したりなど、仕事を長く続けることが困難な状態になることが多い」

と話してくれた。

 

身体を壊してしまう以外に、長く仕事が続かない理由の1つに「夢を見る環境がない」「夢と触れる環境がない」ということもあると彼は続けた。

「そして、それは言い換えれば、彼ら彼女たちは『夢を持つ』ということ自体、想像ができないということもあるのではないかと思っている」

そう言うと、折笠は少し悲しそうな顔をした。

 

(つづく)

 

第1回→ http://www.livest.net/real/4743.html

第2回→ http://www.livest.net/real/4767.html

第3回→ http://www.livest.net/real/4781.html

第4回→ http://www.livest.net/real/4890.html

第5回→ http://www.livest.net/real/4990.html