ルーティンから一歩外れた場所にワクワク感が眠っている

2019.1.25

musicalover

片目を閉じてもできることだけで1日を終えてしまっていないだろうか?

人生を楽しむ「教養を広げる」

ミュージカル「レベッカ」

2018年12月3日13時30分開演

THEATRE1010

ルーティンの生活から一歩外れた場所にワクワク感が眠っている

 

「1万時間の法則」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
出版する著書が200万部超の大ベストセラーを誇る人気コラムニストのマルコム・グッドウェルさんが「天才!成功する人々の法則」で提唱したもので、簡単に言うと「何かを身につけるためには1万時間程度が必要である」とという理論だ。

 

人生の折り返し地点がリアルに感じ始めた40代。新しく熱中する分野を作ろうと思った2017年。
まず思いついたチャレンジテーマの1つが「ミュージカルをたくさん観る」だった。それから週1〜2本ペースで観続けて、改めて振り返ってみると2017年、2018年の2年間で150回以上劇場での鑑賞経験を積み重ねていた。

 

もちろんミュージカル作品を鑑賞してエンタテインメントとしてライブ体験を楽しむだけでなく、作品の舞台となった時代背景や登場人物の史実関係を調べ、自分の頭の中で整理し、全体像の把握ができるようにした。
史実を詳しく頭に入れた上で、同じ作品をもう一度鑑賞してみると、さりげないセリフの1つや小道具、舞台設定まで、じつは史実を取り入れたさりげない演出が組み込まれていることに気づいたりして、初見とはまた違った楽しみかたができることを知った。

 

ミュージカル作品はヨーロッパの歴史上の人物や史実をテーマにしたものも多い。
これまでは深く掘り下げたことのなかったフランス革命前後の歴史の動きや登場人物たちを、関係資料を読み込んだ。ついには実際にウィーンやプラハに行って、現地の空気を感じたりもした。

そして今、何となく日本のミュージカル界全体が掴めるようになってきたように感じている。今、何となくミュージカル界というもの全体を掴み始めた気がする。
その仕組みや劇場&演目の特徴。チケットの取り方や鑑賞のコツなど、出演者の特徴や見どころ、演目の楽しみ方など、ミュージカルを楽しむための土台となる知識や経験が身についた気がする。

片目を閉じてもできることだけで1日を終えてしまっていないだろうか?

振り返って考えると、1つの趣味・興味に対して自分の中である程度初歩的な全体像が把握できるまでに、今回のテーマでいえば約2年の時間(1公演約3時間+移動、チケット入手や鑑賞後の考察などの時間)と1公演1万〜5000円程度するチケットを140枚以上購入するというお金(プラス過去に上演されたDVDの購入費、時代考察用書籍の購入など)、そしてかなりの労力を費やしていた。

改めて計算するとただの趣味の1つに対して、決して少なくない金額と時間を投資しているなと自分でも驚いてしまう。
しかし、そのぶん今手にしているこの分野に関する土台の基礎知識はある程度把握できたという手応えはあり、日本のミュージカル界全体についての把握は薄っぺらい上っ面なものではないという感覚を持てるようになった。
今ならもし日本ミュージカル界の第一線で活躍する俳優陣や制作スタッフの方とお会いする機会があっても、相手に失礼のない程度の最低限のコミュニケーションが取れると思う。
しかも、元々は得意ではなかった世界史の特にヨーロッパの歴史や芸術史についても、結果的に受験勉強レベルの知識ではなくそれなりに教養として身につけることができた。

 

もちろん対象によって、人によって、かかる(かける)労力や時間は千差万別だ。
しかし今回、2年かけて首都圏の主要な劇場を巡り、日本ミュージカル界を語る上で欠かせない俳優・女優をほぼ網羅し、公演鑑賞に合わせて時代や人物を考察するという積み重ねが、自分自身の中で「新しい興味・趣味の入門編をものにした」と実感できるまでの1つの指標となった。
また、この年齢になってもこうして何か興味を持つことができれば、そして情熱を持続できれば、まだまだ新たに学ぶことは可能だと再確認できたことも重要だ。
これからももっと多方面にアンテナを張り、いろいろ吸収し続けられるということ、そしてその楽しみを知れたということで、あと何年人生が続くかはわからないが、好奇心が続く限りさまざまなジャンルにチャレジしていこうと思えた。

ルーティンの生活から一歩外れた時間にワクワク感が眠っている

確かに、30代、40代で新しい趣味的なものを自分のものにすることが簡単ではないだろう。
仕事もプライベートも充実するアラサー&アラフォー世代にとって、直接仕事と関係ない趣味的なものにかなりの時間とそれなりのお金、そして労力を集中的にかけるということは容易なことではない。
しかし、人生は1回しかない。そう思えば、この年齢になって改めて純粋な好奇心が心の中にわき、その興味を追求するという気持ちは仕事と同等の価値があると個人的には考えている。
そして、仕事との両立で身につけた教養や知識が、もしかすると何年か後に仕事につながる可能性だってあるはずだ。
そう考えると、2019年からの目標は、この年齢から始めた趣味の追求が新たな仕事につながる、人生の幅を広げてくれる、人との出会いの機会を増やしてくれると証明することかも知れない。

今回の主演の1人である桜井玲香さんは乃木坂46の1期生で、アイドルとしてデビューして7年、今回この「レベッカ」での「わたし」役が初の本格ミュージカル作品の出演となったと聞く。
人気演目だから当然だが、普通にオーディションがあり、プロの審査をくぐり抜け、見事に主演の座を射止めたという。
たまたま鑑賞した今回が、彼女の初めての出演回だった。公演中は初めての主演舞台とは思えない堂々としたパフォーマンスだったが、開演からエンディングまでは何度も稽古してもカーテンコールの練習までは普通はしないだろう、初めてのカーテンコールの際、感極まった表情でどう動いていいかわからずあたふたする動きを見て、彼女が初めての大舞台だったということに気づかされた。
日本ミュージカル界のトップスターたち、山口祐一郎さん、涼風真世さん、そして森公美子さんに囲まれ、この世界の重鎮たちが彼女のカーテンコールでの初々しい立ち振る舞いに対して、笑顔で接していたのがとても印象的だった。

前述のマルコム・グッドウェルさんの「1万時間の法則」によると、あることに1日約10時間没頭すれば約3年で1万時間になるらしい。そう考えるとミュージカルを鑑賞し始めてまだやっと2年、しかも1日10時間もかけてはいないので、ミュージカルについてを語れるようになるまで、さらにはこの取り組みが何らかの形で「仕事」となるのはもっと先かもしれない。

しかし、だからと言ってどこかでスタートしなければ、いつまで経っても1万時間という積み重ねにはならない。
人生、挑戦を始めるのが遅いということなんてない。
見事にデビューを果たした24歳の若き女性と彼女を取り囲むベテラン俳優陣たちが、そう教えてくれたような気持ちになって、北千住の駅前の道を歩き始めた。

ミュージカル「レベッカ」

2018年12月1日〜2019年2月5日

シアタークリエ他

 

<STAFF>

脚本/歌詞:ミヒャエル・クンツェ

音楽/編曲:シルヴェスター・リーヴァイ

原作:ダフネ・デュ・モーリア

演出:山田和也

翻訳・訳詞:竜 真知子

音楽監督:甲斐正人

歌唱指導:山口正義、やまぐちあきこ

美術:松生紘子

照明:成瀬一裕

音響:山本浩一

衣裳:前田文子

ヘアメイク:川端恵理子(スタジオAD)

ステージング:桜木涼介

舞台監督:佐藤博

演出助手:末永陽一

オーケストラ:東宝ミュージック、ダット・ミュージック

稽古ピアノ:國井雅美、中條純子、宇賀村直佳

制作:渡邊隆

翻訳:長谷川真実

翻訳協力:迫光

プロダクション・コーディネーター:小熊節子

プロデューサー:岡本義、服部優希

宣伝写真:桑島智輝

撮影協力:AWABEES

製作:東宝

 

 

<CAST>

山口祐一郎:マキシム・ド・ウィンター

涼風真世 :ダンヴァース夫人

桜井玲香 :わたし

石川禅  :フランク・クロウリー

吉野圭吾 :ジャック・ファヴェル

今拓哉  :ジュリアン大佐

tekkan     :ベン

KENTARO :ジャイルズ

出雲綾  :ベアトリス

森公美子 :ヴァン・ホッパー夫人