現代社会を暗喩する恐るべき近未来映画

2020.3.16

musicalover

【エンタメ鑑賞】アカデミー賞受賞作品「パラサイト 半地下の家族」

もしアカデミー賞の選考メンバーが市井の人たちが中心であったなら、果たしてこの作品を選んだであろうか? それでもやはり作品の力によって選ばれたなら、彼ら彼女たちはいったいどのような気持ちで一票を投じただろうか?

生き延びるため「勝ち組」のパク一家に寄生するキム一家には、一貫して悪意や怨恨の意識はなかった。それでも寄生された大樹は徐々に幹から腐り続け、最後には大黒柱もろとも倒壊してしまう。

現代社会を生き抜く多くの普通の人にとって、キム一家の貧乏ぶりを大げさだと笑い、衝撃的な結末にエンタテインメントだと割り切ることができるだろうか。
そこには一歩先の自分たちの「足を踏み外した暗い未来」が垣間見えるようで、とても重く切ない読後感が私たちを包み込む。

誰もがたった一度のアクシデントで奈落の底へ落ちていく不安感を抱え、半地下同然の場所で暮らす暗い未来予感に目を瞑りながら、日々懸命に生きている。

少し前までこんな映画も娯楽として笑って見れたかもしれない。しかし今の日本で暮らす多くの市井の人たちにとって、とてもこの映画をフィクションだと笑う余裕がなくなってきつつあるように思えて仕方ない。

私たちはもしかすると日々、心のうちに広がっていく暗い思いについて、モールス信号のように静かに密かに発信し続けているのかもしれない。誰かに気づいてほしいと願いながら……。それでも、きっとか細いSOSは誰にも気づかれることなどないということを薄々感じながら……。

「パラサイト 半地下の家族」

監督 ポン・ジュノ
脚本 ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン
製作 クァク・シネ、ムン・ヤングォン、ポン・ジュノ、チャン・ヨンファン
音楽 チョン・ジェイル
撮影 ホン・ギョンピョ
製作会社 パルンソンE&A
配給 CJエンタテインメント、ビターズ・エンド、NEON
上映時間 132分

出演者
ソン・ガンホ
イ・ソンギュン
チョ・ヨジョン
チェ・ウシク
パク・ソダム