カープの躍進がブームで終わらない知られざる根拠

2019.2.14

livest!編集部

リーグ3連覇の広島カープはなぜ劇的な躍進を遂げることができたのか?

スポーツビジネス最前線

迫勝則著

「カープを蘇らせた男 球団オーナーのどえらい着想力」を読んで

 

「顧客満足度最優先」のスポーツビジネス

リーグ3連覇など新たなプロ野球界のリーダー的存在となりつつある広島東洋カープ。
シーズンの成績だけでなく、新たなスタジアムの特性を最大限に生かし、「カープ女子」と呼ばれる若いファン層も激増。スポーツビジネス的な観点からプロ野球界の価値を大きく変えたカープについて、これまで何冊も著書を出している迫勝則さんによる新たなカープ分析本。

現球団オーナーである松田元さんとは、自動車メーカーのマツダに勤務していた頃に同僚だった迫さん。松田さんがカープのオーナーに就任して着手した球団の改革を、常に間近で見続けた著者によるカープ躍進の要因の分析論。スポーツビジネスに関わる人にとっては、とても興味深い内容となっています。

カープの躍進の秘話を競技的観点で見るのではなく、経営・マーケティングの観点から分析しているこの本。松田オーナーによる改革の数々の手法やその成果を紹介している中で、頻繁に出てくるのがディズニーランドとの比較。
著者は、カープの改革の成功の秘密をプロ野球の枠組みを超えたエンタテインメント的着眼点によるものだと捉え、その比較対象としてディズニーランドの例を頻繁に出しています。

プロ野球やJリーグなど日本のプロスポーツの中枢には、かつてプレイヤーだったレジェンドたちが数多く属しています。選手目線でのリーグやチーム経営の良さは認めつつも、スポーツをエンタテインメントビジネスとして捉え、勝敗の面以外でファンをどうやって喜ばせるかに比重を置いている松田オーナーと、ディズニーの生みの親ウォルト・ディズニーを重ねる著者の分析は非常に興味深いところです。

「カープを蘇らせた男」名文ピックアップ

※編集部による要約

 

「ディズニーランドに完成形はない。この世から人間の想像力がなくならない限り、ディズニーランドは進化し続ける」

ウォルト・ディズニー

 

カープ女子の楽しみ方

ところが今のカープ女子は勝ち負けにこだわるのではなく、個々の思いを全身で発散させて「カープで」楽しんでいるのではないかと思われる。
つまりカープというのは、楽しみの直接の対象物ではなく、自分たちの楽しみを実現するための間接の対象物になっているのだ。

「カープに点が入ると周囲360度の人たちとハイタッチします。まわりの人たちと喜びを分かち合う。もちろんスクワットもします。日頃のストレスを忘れて、アスリート気分になれますから」

 

スポーツは〝非日常〟ではなく日常の一コマである

お祭りみたいなカープの応援は、当初一種のブームとして取り扱われてきた。ブームだからいつか沈静化していくだろうと。
しかし、現在のカープブームは日本の社会そのものを暗示・象徴しているのではないか。
これまでは、これを地方の挑戦だとか、地域活性化モデルだとか、人々は何かになぞらえることによって理解しようとしてきた。人々はカープを社会の本流とは異質の存在として捉えることによって理解しようとしてきた。
その証拠に必ずといっていいくらい「非日常」という言葉を使ってきた。
しかし、これは日常なのではないか。
じつは広く一律にディズニー化していく日本社会の中で、カープはそこに素直にハマっているだけなのだ。

 

カープ躍進の原点はディズニーランド

カープ球団は「世界一の顧客満足度」を誇るディズニーランドをベンチマーク(質的な目標基準)にして、それに負けないくらいの努力を重ねてきた。だから今日の姿がある。
あなたの会社にも問いかけてみてほしい。
「あなたの会社は、どんな会社になることを目指していますか?そして、どんな努力をしていますか?」
この投げかけに即座に答えられなければ、まだスタートラインに立っていないと認識するべきだ。

 

著者が考えるカープ成功の3つの要因

カープ成功の要因を3つの側面から捉えている。
①トレンドを読む
サラリーマン中心の男性をターゲットにしていたら、このような状況は生まれてこなかったはず。

②ターゲットが何を求めているのか、その「ニーズ」を正確に把握すること。
特に14〜17歳くらいの女子たちが、近未来の社会のトレンドを創る傾向にある。

③「遊び心」
子供のための遊び心ではなく、大人のための遊び心。今の社会には大人の遊び場が少ない。ディズニーランドにしてもカープにしても、その受け皿になることに成功している。そしてその型破りな遊び心が、いっそう大人たちの心を惹きつけている。

大切なのは「ディズニーな心」なのだ。
今、アパレルやレストラン業界でも、そういう会社だけが繁盛している。街で見かける行列の先には、必ずそういう会社があり、経営者がいる。
今の社会は、小手先だけのマーケティングは通用しない。全人格をかけた本気度が必要なのだ。

 

著者が考える〝循環型マーケティング〟というビジネスモデル

〝循環型マーケティング〟というのは「金は天下の回りもの」の言葉通り、日々の人々の生活や活動の合間を行き交うのがお金であり、その活動が活発になればなるほどそこで行き交うお金の量も増える。
この流れの中にしっかりと自分たちの身を置いてその循環の一部に参画すること。この際、心から人々の生活を豊かにして社会に役立とうと思う気持ちから出てくる行動が、そのエネルギーとなる。長い目で見ると、その想いの量によって、自然に入ってくるお金の量が決まってくる。
この循環型マーケティングの対極が、刹那的な販売・利益至上主義のマーケティングだ。「今すぐお電話を!」「今なら特別キャンペーン実施中!」などという言葉は聞くだけでうんざりする。
社会というのはもっとどっしりと構え、本気で大局的、長期的に取り組んでいかなければならない。
健全な活動には、それに伴って健全なお金が動く。そのことを時間軸で考えてみると、大切なことに気づく。

 

ディズニーランドで使われる言葉の定義の真意

ディズニーランドで使われる言葉の定義は一般のテーマパークとかなり異なるものだ。
①「オンステージ」=客の目に触れるすべてのエリアのこと
②「ゲスト」=ディズニーランドに入場したすべての客のこと
③「キャスト」=園内で働くすべての社員とアルバイトたちのこと
④「ショー」=施設、働く人も含めた、ディズニーランド内すべてのこと
ディズニーランド内では清掃員がゴミを拾うシーンでも「オンステージ」の「ショー」ということになる。
このためキャストは次に言葉が続かない「いらっしゃいませ」という言葉を使わないで、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」の3つの言葉を使う。
この3つの言葉は何かしらの言葉を返したくなる。言葉を返すことでリラックスでき、リフレッシュできることにつながる。

「我々は前進し続け、新しいドアを開け、新しいことをやっていく。なぜなら我々は好奇心旺盛で、好奇心こそが我々を新しい道に導いてくれるからだ」

ウォルト・ディズニー

「カープを蘇らせた男 球団オーナーのどえらい着想力」

迫勝則

宝島社

2018 年10月25日発行

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