「教育」を考えるJリーガー安彦考真が感じたことを書き留める vol.2
2017年に公開され大きな話題を読んだ映画「ワンダー 君は太陽」。
発行部数全世界800万部以上の大ベストセラー小説「ワンダー」を原作に、スティーブン・チョボウスキー監督が脚本も担当して映画化されたヒューマンドラマだ。
生まれつきの障がいのために人とは違う顔を持つ主人公の10歳の少年オギーは、幼い頃から学校には行かずに母イザベルによる自宅学習をしていた。小学5年時に初めて学校へ通うことにしたオギーだが、同級生たちは戸惑いを隠せない。しかし、オギーの日々の立ち振る舞いによって同級生たちの心境に変化が……。
この映画を観た安彦考真選手は、映画の中からさまざまな気づきを得たという。
「教育から社会を変える」ことをめざす安彦選手が、この映画から感じた思いを率直に記す。
映画「ワンダー 君は太陽」を観て
安彦考真
2020年4月13日
「僕は普通の10才の子どもじゃない」
そんな言葉から映画「ワンダー君は太陽」は始まる。この映画を純粋な気持ちで見た感想はとても素晴らしい涙、涙の感動映画だ。
しかし、少し視点を変えてみると、そこには家族のあり方や友だちとは何か、そして学校とは何か、強いては社会とは何かを改めて定義してみたくなるほど、メッセージ性の強い作品だった。
10才の少年が感じる周囲からの偏見。それは彼のそばにいる家族でもはっきりと感じてしまうものだった。
人間は物事を判断する上で視覚を80%以上使っているというエビデンスもある。僕らはどうしても人を見た目から入ってしまう。それはある種仕方のないことでもある。
ただ、そんな科学的な数値とは別に、見たもの自体を個々がどう解釈するかは、その人が受けてきた教育や育った環境によって大きく左右させられることは間違いない。
僕らは「他者の違い」を受け入れる前に、「違いそのもの」に瞬間的に拒否反応を持ってしまう。その結果、偏見が生まれ、差別が生まれる。
もちろん僕は「全員が平等で、誰も同じ人間なんだ」などという綺麗ごとを言いたいわけではない。
人は生まれながらにして不平等である。ただし、不平等とはネガティブな言葉ではなく、僕の中での不平等の解釈は、単純に「皆同じではない」ということだ。
それぞれが持って生まれてくる背景が違う。
王様の子は王様になるために凡人には想像もつかない多くの重圧も抱えながら育つだろうし、マフィアの子はマフィアの世界常識が自分の常識になる。
どんな人も、その環境を生まれながらにして選ぶことはできない。だからこそ他人に対して偏見を持つことは、根本的にナンセンスなことなんだ。
その子が選んだ道でないなら、責めようがない。ましてや、この映画の主人公のように生まれながらにして、顔つきが「ふつう」じゃない場合、誰に何ができるのだろうか。
僕らのそばにも障がいを抱える子どもたちがいると思う。
僕のいとこはダウン症という障がいを抱えている。しかし、彼自身には「障がいを抱えている」という認識はあるのだろうか。
もしかすると、周りがそう見てしまっていることで、「ふつうの枠の外」に身を置かざるを得ないということだってある。
以前、発達障害を抱えている子どもたちのサッカースクールをやっていたころは、どうすれば彼らを「ふつう」の子たちを一緒にできるだろうと考えながら、懸命に接してきた。
でもそれは大きな間違いだったと改めて気づいた。
「ふつう」とは何かを定義せずに、僕は「ふつう」を目指してしまっていた。
ふつうという当たり前の中に入れこもうとすれば、そこに弊害が生じる。そもそも、僕が彼らを「ふつう」という場に入れこもうとを思っていること自体が偏見であり、押し付けでもある。
彼らはいつも一生懸命だった。劣等感を抱えることなく、ありのままを表現してくれていた。
この映画もはじめはみんなが何とか彼を「ふつう」という輪の中に入れようとして、それを拒む子どもがいて、いじめが発生する。
それはそうだよね。彼を自分自身が受け入れる前に「ふつう」という何だか正体のわからない中に入れようとすれば、そこに争いが起きるのは必然な気がする。
大事なのは、そもそも違っていいし、違って当たり前、もっと言えば、人はわかり合えないこともあるという前提を持つことが大事で、その上で、自分自身がその子をしっかり見て、見て、見て、その上で受け入れることができれば、きっと「ふつう」の定義が変わるはずだ。
僕はこの映画を、ぜひ家族で見てもらいたいと思った。
そして映画を観終わった後、親は子どもになんて声をかけるのか。子どもは親に何を聞くのか。
この映画を通して、家族にとっての「ふつう」とは何かを話し合うキッカケになったらすごく意味あるStay Homeの時間が作れるのはないだろうか。
「ワンダー君は太陽」本当に素敵な映画でした。
「ワンダー 君は太陽」
配給
(アメリカ)ライオンズゲート
(日本)キノフィルムズ
公開
(アメリカ)2017年11月17日
(日本)2018年6月15日
<スタッフ>
監督 スティーブン・チョボスキー
脚本 ジャック・ソーン、スティーヴン・コンラッド、スティーブン・チョボスキー
製作 デヴィッド・ホバーマン、トッド・リーバーマン
音楽 マーセロ・ザーヴォス
撮影 ドン・バージェス
原作 R・J・パラシオ『ワンダー』(ほるぷ出版)
製作会社
ライオンズゲート
マンデヴィル・フィルムズ
パーティシパント・メディア
ウォールデン・メディア
TIKフィルムズ
<キャスト>
イザベル:ジュリア・ロバーツ
ネート:オーウェン・ウィルソン
オギー:ジェイコブ・トレンブレイ
トゥシュマン先生:マンディ・パティンキン
ブラウン先生:ダビード・ディグス
ヴィア:イザベラ・ビドビッチ
ミランダ:ダニエル・ローズ・ラッセル
ジャスティン:ナジ・ジーター