「スタミナ切れする選手は走り込み量が足りないから」は本当か?
勝つために身体を鍛える
筋トレする前に知っておくべき5つのこと
スポーツ選手にとって、競技の質を高め、試合に勝つために筋力アップは重要だ。
特に中学が高校で部活をしている選手や、趣味でランニングなどを行っているアマチュア選手に、筋トレに取り組む前に知っておいてほしい「5つのヒント」を紹介する企画。
4回目は、「スタミナ切れは走り込みが足りない」は本当か?
走る時間が長ければ長いほど持久力は上がるという考えは正しいのか、思い込みなのか。
特に長距離走競技をする選手以外にとって、長い時間ランニングすることは競技レベルの向上に効果的なのかを探る。
【その4】
「スタミナ切れは走り込みが足りない」は本当か?
野球部やサッカー部の経験者の中には、部活の練習の一環として黙々と走り込みを経験した人も多いだろう。
走り込んだ結果、下半身が大きくなって安定感が増したり、持久力がつくという考えで、苦しい長距離走を続けている部活動は今でもあるかもしれない。
もちろん長距離を走ることで心肺機能を鍛えるという効果はあるかもしれない。しかし、それ以上に精神力を鍛える意味で長距離をトレーニングに取り入れる場合が少なくないように思う。
マラソンなどの長距離を時間をかけて走る競技以外の多くの競技は、ダッシュとジョグを繰り返す「間欠的持久運動」の要素を持つものが多い。
実際のプレー中に黙々と長距離を長く走るというシーンは、ほとんどのスポーツ競技では皆無と言える。
つまり、長距離走というトレーニングメニューは実践的なトレーニングではなく、身体能力の向上のためのものだという考えに異を唱える人は多くはないはずだ。
「持久的体力は鍛えれば伸びる」は間違った考え
「スタミナ=足腰の強さ」と定義するとして、「足腰を鍛える」という筋力増強を目的にするなら、長距離を走り込むよりも、じつはダッシュ系のトレーニングで足腰に強い負荷をかける方が適している。
ほとんどのスポーツ競技は一方向に一定のペースで長く走るという場面は皆無であり、短い距離を全力ダッシュを繰り返すことが多いことを踏まえると、強い負荷が下肢にかかるダッシュ系のトレーニングの方が下半身のパワー発揮能力の向上が見込めるのは間違いない。
そもそも「スタミナ」という言葉自体も曖昧なものであり、スタミナ強化に直結する筋肉を鍛えるために走り込みをするというのは非効率的なのだ。
さらに、「持久的体力」というものは「鍛えれば伸びる」というのはスポーツ医学的には正しくないと考えられる。
「スタミナ切れする選手は走り込みが足りない」という固定観念が指導者の中にあり、そのような考えに基づく指導を行っていることも特に学生の部活動では少なくない。
しかし、持久的体力は先天的の差異に比べて、トレーニングによる変化が大きくないという。つまり、「スタミナがあるかどうか」は生まれつきの特性による部分が大きく、たくさん走れば走るほどどんどんスタミナがつき、人より長い距離を走れるようになるわけではないということ。
長距離走を除いた多くのスポーツ競技で「運動量の多い選手」となるためには、ダラダラとジョギングを続けるよりも、ダッシュ系トレーニングで下半身を強化し、何度も鋭いダッシュを試合中繰り返せる筋力を身につける方が近道だと言える。
多くの人にとってジョギングよりもダッシュ系トレーニングの方がつらいと感じるだろう。しかし逆に考えれば、苦しいぶん身体が鍛えれていると言える。
本当にレベルアップしたい、試合に勝ちたいと思うなら、昔ながらの練習メニューをただ受け入れるのではなく、自分がもっとも必要としている筋力強化に最適なトレーニングメニューを選択することが大事だ。
参考図書
「使える筋肉・使えない筋肉 アスリートのための筋力トレーニングバイブル」
ナツメ社 (2018年11月発行)
著 :谷本道哉(近畿大学生物理工学部准教授)
荒川裕志(国際武道大学体育学部准教授)
監修:石井直方(東京大学大学院総合文化研究科教授)