孤独な先駆者が語り合えるのは自分自身だけ

2019.4.5

安彦考真

誰も手本がいない未知なる挑戦の先頭を走る者の道の切り拓き方

リアルアンサー

2019年4月5日

3月10日に開幕したJ3は今週末早くも第5節を迎える。しかしJリーグ最年長初出場記録を塗り替えた安彦考真選手にとって、初めて戦力として経験する長いシーズンはまだ始まったばかり。

20年のブランクを経て40代でデビューした選手は過去に皆無。Jリーグの歴史上、誰の足跡もないまっさらな未開拓の道を安彦選手は歩き続けている。

参考にできる手本はない。だからすべて自分で試し、失敗し、また違うやり方を試し、少しずつ正解を見つけていくしか方法はない。

まだ5節、もう5節。戦った4試合中2試合に途中出場。そして試合翌日の練習試合に毎回出場する。その高負荷の戦いの中で40代の肉体は未知なる挑戦にどこまで耐えきれるのだろうか?

その限界値を1日でも伸ばし続けるため、それ以上に試合でのパフォーマンスの極限まで上げるため、安彦選手は日々自分の身体と会話し続けているという。そのやりとりを安彦選手は「臨床実験」とたとえる。

実験は続く。指先の1センチ先にあると信じる求める結果を掴み取るために。

安彦考真

自分の体を使った「臨床実験」を続ける意味

明日のザスパクサツ群馬戦に向けて、チームとしてはもちろん選手各々が何かをやり切る必要があることは言うまでもない。
既に飛ぶことができた高さのハードルをずっと飛んでるとどうなるか。気がつけば、そのハードルの高さですら失敗することが増える。それは後退を意味する。
未だ乗り越えたことのない高さへの挑戦を繰り返すことでしか人の身体は成長しない。

今、練習中はもちろん普段の生活、食事、睡眠……すべてに置いて「進化するためのトライアンドエラー」を繰り返す日々を積み重ねている。
そんな僕の毎日は例えるなら自分自身の身体を使った「臨床実験」だ。その意味で僕の人生は実験の積み重ねでできていると言えるだろう。

20年のブランクを経て40歳でJリーガーになれたことは、大げさに言えば少し前まで誰もが無理だと考えていた「iPS細胞を発見する」みたいなものだ。
人類史上最大級の偉業と並べるのはおこがましいが、開幕戦でJリーグ創設以来の最年長プロデビュー記録を塗り替えた。少なくとも日本サッカー界ではそのくらい稀有なことだとは言っても許されるだろう。

誰も手本がない。だからやり方が正しいのかどうかわからない。それでも手応えがつかめるまで「現時点でのベスト」だと信じられることを、自分の身体を使って臨床実験のように繰り返すしかしかない。
その中で数多くの失敗に出くわす。けれどそれらの失敗が僕の道標となって、少しずつ正解に近づいていく。そう信じて一歩ずつ歩き続けるしかない。

 

ここまで大きなケガなく試合を重ねている。もちろん手を抜いているわけではないし、昨シーズンと練習の量に差があるわけでもない。
ケガなくここまで来れたのは自分の身体との会話と臨床実験の積み重ねの成果だ。

特に朝起きた時の身体との会話は非常に重要だ。
ベッドから起き上がるとすぐに、どこが痛い。どこがダルい。どこが重い。様々な部位に神経を通わせてファインチューニング(微調整)をする。その上で湯船に浸かって血行を良くしたあと、更にもっと深く細かい会話を身体とする。これが毎朝のルーティンだ。

そこで自分なりに掴んだ自身の身体の最新情報を練習前にトレーナーに伝え、プロの手を介して客観的な診断を行ってもらう。その上で、今日はいくつまでギアを上げていいかなど話し合い、自分の限界を少しでも超えて行けるように努力をしている。

 

この世の中に「ケガを防ぐ魔法」もなければ「万能のゴッドハンド」もいない。
どんな素晴らしいトレーナーでもできることは限られる。しかし自分の身体に対する理解度の深さでトレーナーのできることが大きく変わってくる。少しでも魔法に近づくことはできる。
大事なのは選手自身が自らの心身を知り尽くした上で、自分だけでは聞き取れない「身体が発する微かなメッセージ」をキャッチするためにトレーナーに診てもらうという意識が重要だ。
今日はパーソナルトレーナーの奥村氏が自分の良いときの身体の状態を思い出させてくれた。奥村トレーナーには感謝の気持ちしかない。同時に自らの身体に対して日々「臨床実験」を繰り返した成果だと思いたい。

 

今、こうして携帯電話で文字を打つときにも僕は多くの筋肉を使っている。全ての行動に対して脳と身体は小さな小さなバランスを必死にとっている。
奇跡を起こすような挑戦に挑む際、重要なことは限界を超えることができる身体の状態を自分が知っているということだ。
だから僕は今日も細かく「臨床実験」を繰り返す。手に届きそうで届かない指先1センチ先にある(と信じる)結果を掴み取るために。

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