絶対に見るべき映画「国宝」 【映画感想】
何歳で見るかで、この映画に対する共感度はきっと変わるだろう。
夢が行く先を照らす10代・20代で見た人は、出演者たちの芸術的な演技に魅了され、自分もさらなる高みをめざそうと、勇気と希望をもらえるはずだ。
30代なら、その人の立ち位置や状況によって、この映画から受ける印象も大きく変わるかもしれない。
充実した社会人生活を過ごしている人にとって、この映画は芸術作品であり、自分の心の奥底を揺るがすような衝撃を与える優れたエンタテインメントとして、長く記憶されるかもしれない。
一方で、迷い、戸惑い、彷徨う心を抱えている人ならば、登場人物の誰かに自己投影し、ともに苦しみ、ともに嘆き、人生の辛苦を共有するかもしれない。

40代、そして50代の人がこの映画を見た時には、言葉にできない圧迫感で胸が締め付けられる苦しみを感じるだろうか。
人生の折り返し地点を過ぎた者として、もう人生のやり直しが難しいだろうと感じている者として、歌舞伎という一つの「道」で精進し続ける者たちの生き様は、あまりにも美しく、濃く、そしてあまりに重くて暗く。
スクリーン越しでありながら、抱えることができないほどの濃縮された時の重みの塊を胸の上に感じてしまう。
果たして、これまでの自分の「道」は正しかったのだろうか。
このあとの、目の前に続く「道」に進んでよいのだろうか。
単純な善悪や良し悪しではなく、長い人生の中で、自分ではコントロールできない浮き沈みが何度もあって、そのたびにうぬぼれ、世の中を憎む。
そんな、人生という名の長く苦しい航海を、この映画は見事に描き切っている。

「あの時、ああすればよかった」
「あの人との出会いの意味に気づけなかった」
この映画を見た者の中には、その時々でベストな選択をし尽くして進んできたはずだと信じてきたこれまでの自分の歩みを振り返り、その選択は、じつは自分勝手な甘い見込みで、常に半身の状態で、魂を注ぎ込むことを避け続け、少しでも楽できる道を選んでここまで歩いてきたのではないかと感じ、自己嫌悪に陥る人もいるだろう。
自分の生まれ持った境遇を嘆き、自分の努力不足から目を逸らし、恵まれた才能に嫉妬し、スポットライトを浴びる人に媚び、人生のすべての地点で中途半端な生き方をしていたことを後悔するかもしれない。
この映画の登場人物は、誰もがありきたりな予定調和な人生を歩めない。
たった一つの「良かれ」と判断した選択によって、誰もがその後の人生を大きく狂わせる。

しかし、喜久雄と俊介は、大きく狂った人生の航路の舵を、ひとりは「血」で、もうひとりは「技」で取り戻す。
人生は思い通りにいかない。
けれど、人生の結末は、自分次第。
どんなに苦しい道のりでも、結末くらいは自分らしく、納得できるものにできるはずだと、この映画は教えてくれているのかもしれない。
今が苦しくても、辛くても、投げたしたくなっても。
きっと誰もが、いつか「見たことのない景色」に出会う瞬間があると信じて。

映画「国宝」
日本/2025年製作
配給/東宝
公開日/2025年6月6日
上映時間/175分
<スタッフ>
監督:李相日
原作:吉田修一
脚本:奥寺佐渡子
製作:岩上敦宏 伊藤伸彦 荒木宏幸 市川南 渡辺章仁 松橋真三
企画:村田千恵子
プロデュース:村田千恵子
プロデューサー:松橋真三
撮影:ソフィアン・エル・ファニ
照明:中村裕樹
音響:白取貢
音響効果:北田雅也
美術監督:種田陽平
特機:上野隆治
美術:下山奈緒
装飾:酒井拓磨
衣装デザイン:小川久美子
衣装:松田和夫
ヘアメイク:豊川京子
特殊メイク:JIRO
床山:荒井孝治 宮本のどか
肌絵師:田中光司
VFXスーパーバイザー:白石哲也
編集:今井剛
音楽:原摩利彦
音楽プロデューサー:杉田寿宏
主題歌:原摩利彦 井口理
助監督:岸塚祐季
スクリプター:田口良子
キャスティングディレクター:元川益暢
振付:谷口裕和 吾妻徳陽
歌舞伎指導:中村鴈治郎
<キャスト>
立花喜久雄(花井東一郎):吉沢亮
大垣俊介(花井半弥):横浜流星
福田春江:高畑充希
大垣幸子:寺島しのぶ
彰子:森七菜
竹野:三浦貴大
藤駒:見上愛
少年・喜久雄:黒川想矢
少年・俊介:越山敬達
立花権五郎:永瀬正敏
梅木:嶋田久作
立花マツ:宮澤エマ
吾妻千五郎:中村鴈治郎
小野川万菊:田中泯
花井半二郎:渡辺謙
















