秋元康プロデュース「劇団4ドル50セント」が持つ可能性

2018.8.5

musicalover

アラフォーからの舞台&ミュージカル鑑賞

舞台「劇団4ドル50セント 夜明けのスプリット」

2018年8月3日(金)

昔から好きだった。ちょくちょくは気になる作品は観に行っていた。けれど、映画と違い、舞台やミュージカル、特に人気の演目は前もってチケットを予約確保しておかなければ、上演が始まってからでは「観たい」と思いついても観れないことが多い「事前の入念な計画が必要となる」趣味だ。

アラフォーとなり、時間とお金をかけて何かに没頭したいと考えた時、改めて「しばらくは舞台やミュージカルを観まくるぞ!」と決意。時に開演の半年以上前、チケット発売初日にほとんどの作品のチケットを予約しまくった。そして2016年から最低週1回ペースで舞台やミュージカルを観まくる日々を続けている。

これは何の基礎知識もない、ヲタクでもない、舞台&ミュージカルのアラフォー初心者が綴った鑑賞日記だ。ここから学べることは1つ。「アラフォーになってからも趣味は始められる」ということ。

初心者だからこそ書ける見当違いかもしれない舞台&ミュージカル鑑賞記録。

「劇団4ドル50セント 週末定期公演Vol.1「夜明けのスプリット」選抜シャッフル公演」
2018年8月3日(金)19時開演

劇場:Key Studio(新宿アルタ) 座席:A列 17番

購入先:ローチケ(チケット代:4,324円)

STAFF

・トータルプロデューサー:秋元 康
・脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
・振付:CRE8BOY
・クリエイティブディレクター:近山知史

 

8月3日(金)選抜シャッフル公演キャスト

リツコ :福島雪菜
アマノ役 :岡田帆乃佳
メガネ役 :本西彩希帆
サマンサ :長谷川晴奈
鉄男 :中村碧十
イモコ :堀口紗奈
ジュン :うえきやサトシ

予備知識ゼロのまま初めての劇団4ドル50セントの舞台へ

秋元康さんがトータルプロデューサーとして2017年秋に立ち上げた劇団4ドル50セント。
気になっていた劇団ということで、予備知識ゼロ状態で初の鑑賞へ。

会場は新宿アルタ7階の「key studio」。もともとのスタジオアルタがあった場所だが、外壁に設置されたモニターは見上げることは何度もあったが、「笑っていいとも」をやってる頃もアルタに入ったことがなかった。今回、東京在住20年以上を経て記念すべき初アルタ入館。

秋元康プロデュースということでAKB劇場のイメージが強く、「狭くて汚くて新参者にはちょっと居心地悪い」的なイメージを持って少し構えた気持ちでエレベーターを7階で降りた。しかし、エントランスに出た瞬間「意外とキレイ」というのが第一印象。同劇団の専用劇場ではないので、劇団のコンセプトイメージでの装飾があるわけではなく、シンプルな内装にポスターなどで装飾されている感じだった。

普段よく行く劇場(帝劇、東急シアターオーブとか)と違って、スタジオのスタッフでなく、主催者が準備したスタッフが受付などの対応業務しているようで、あまり慣れていない感じでたどたどしいアテンド。でも、それがまだ1年前に立ち上げたばかりの劇団の劇場っぽくて良いのかもしれない。少なくとも慣れたベテランヲタクの方たちが跋扈する印象が強いAKB劇場よりは、初心者も入りやすくてホッとする(笑)。

チケット以外にドリンクチケットが販売されていて、特に強制ではなかったようだが、応援の気持ちを込めて購入。ペットボトルが1本500円。会場内にはここで購入した飲み物しか持ち込み禁止のようだが、特に会場内でチェックする人もおらず、ペットボトルの水くらいなら、持ち込みを飲んでも怒られなさそう。

ドリンクを受け取るカウンター横には物販ブースがあり、その真横に劇場員たち一同が並んでお出迎えしてくれていて、ギラギラ(キラキラ?)した目で入場客を見つめてくれるが、残念ながらこちらは誰1人知らない状態で来てるので、劇団のみなさんのファンサービスが逆にツライです……申し訳ないです。

初心者でも入りやすい雰囲気とわかりやすい脚本

今回の公園「夜明けのスプリット」は劇団メンバーが甲乙丙の3チームに別れて、同じ演目をそれぞれ行い、各公演後に観客が「良かった3人」を投票するシステムになっているらしい。
今日のシャッフル公演は、その投票の上位メンバーが甲乙丙のグループの垣根を超えて集まって1日限りで行う公演らしく、劇団4ドル50セントを初めて観るにはちょっとイレギュラーな回となったかもしれない。

通路から会場内に入ると、広さはAKB48劇場より少し広いくらい?だが、AKB48劇場は天井が低く圧迫感が強かった印象があるが、ここは天井までの高さもじゅうぶんあり、窮屈な気持ちにはならない観やすそうな会場だった。

座席はなんと最前列!ファンでもないのに申し訳ない気持ちと、「もしAKB48劇場のように、始まったら観客もノリノリで盛り上げなければいけないスタイルだっただどうしよう」……と心配しながら着席する。
座席はパイプ椅子的なイスで、隣との距離が近く、隣のサラリーマン的な太ったおじさんと肩が触れ合うくらいで落ち着かないが、逆側は細身の女性だったので、息がつまるほどの狭苦しさはラッキーなことに感じずに済んだ。

最前列だが上手側の端の方だったので、あまり目立たず静かに鑑賞できそうで良かったと思っていたが、最前列の端なので、舞台上で行われている特に下手側の演技を見るのは首が辛かった。最近、指定予約していないのに最前列の端のチケットが当たることが多く、偶然なのか、たくさんチケットを買う人向けのサービスなのかわからないが、毎回2時間程度の公演の鑑賞後に首が痛くなるのはちょっと困る。(かといって、最後列の端よりは嬉しいが)

「夜明けのスプリット」という作品は、「リツコ」の声かけで高校のボウリング部だった仲間「アマノ」「メガネ」「サマンサ」「鉄男」の5人がひさびさに集まり、ボウリングをしながら、過去を告白し合い、避けていた事件(ボウリング部の仲間「イモコ」の死)の真実に迫るストーリー。
過去と現在が、ボウリングのゲームを挟んで行き来するストーリーで、謎の死を遂げたメンバーの有無やメンバーが上着を着るかどうか、ボウリング部のバッチをつけているかどうかで、今行われている演技が過去か現在かを示すようになっている。

冒頭にナレーションを行った1人のメンバーが謎の死を遂げた「イモコ」で、すでに死んでいて舞台上でセリフも語るが、仲間からは見えてないということが徐々にわかってくる。
残された5人の仲間がそれぞれ今まで語らなかったイモコとの過去の秘密を告白していくことで、観客が徐々にイモコについてを知り、ボウリング部の仲間たちの悩みや関係性について知ることができ、最後には死の真相が判明するというストーリー構成。

脚本としてとてもうまくできていて、まったく予備知識がない観客でも、見ているうちに理解でき、物語に入り込めるパワーを持った作品だった。役者の高い演技力が必須の物語ではないので、役者も自分らしい演技を出しやすいだろう。まだ立ち上げ1年の劇団の公演とは思えないじゅうぶんなクオリティの脚本に感じた。

劇団員たちの劇団の一員としての顔と個人としての顔

「劇団4ドル50セント」という劇団名は、秋元康さんが、「1960年代を代表するシンガー 、ジャニス・ジョプリンの亡骸の手に握られていた4ドル50セント。ジャニスが手にしたかったのは釣銭なんかじゃない。ジャニスの代わりに夢を掴む!!そんな思いを込めて」命名したとのこと(公式サイトより)。
全国から集まった入団希望者によるオーディションで選ばれた28名(現時点に公式サイトに掲載されているメンバー)が、映画やドラマなどの俳優業以外にも各劇団員の個性に合わせてバラエティ、モデル、音楽など多岐に渡る芸能活動を目指して、演技経験がほぼゼロの状態からスタートしたとのこと(公式サイトより)。

しかし、舞台上でのパフォーマンスに目をこらすと、それぞれ「この人はもともとシンガー志望だったんだろうなぁ」とか、「ダンサー経験があるのかも」とか、なんらかの素養を持った人も多いイメージだった。少なくとも途中途中でダンス&歌唱があるが、ダンスはある程度みんなできていても歌唱面では優劣の差が目立ったので、(劇団に応募するのだから当然だが)シンガー志望よりは俳優志望の人の方が多いのだろう。

そういう意味もあるのだろう、公演後の劇団全員によるダンスパフォーマンスが迫力があって一番良かった。(この最後の全員参加のダンスパフォーマンスが恒例なのか、今回特別行われたのかは不明)
演技をすることにまだ気を取られている演劇タイムと違い、ダンスパフォーマンスは劇団員それぞれが自分の良さや気持ちをパフォーマンスにダイレクトに出していて、それぞれの個性や特徴がとてもよくわかる素晴らしいパフォーマンスで、この劇団の個性派集団というポテンシャルを感じることができた。
特に劇団最年長27歳のうえきやサトシさんのパフォーマンスは、「今人、生かけてチャレンジしています」感がヒシヒシと感じられてとても印象深かった。秋元康というビッグネームはあるけれど、この先どうなるか分からない劇団に27歳で飛び込む決意は並々ならないものがあるはず。「夜明けのスプリット」でも伝説のプロボウラー「ジュン」役で今日一番たくさんの笑いをとっていた。彼の今後に注目したい。

帰国子女「サマンサ」役の長谷川晴奈さんも印象に残った1人。身長が低く、最初は舞台映えしないなと思いながら見ていた。本人も低身長をカバーすべく大きな演技をしていたが、それが逆に大げさでちょっとわざとらしい印象だったが、歌唱シーンでは一番良いパフォーマンスをしていた。おそらくこのサマンサ役は彼女の性格にあまり近くないのだろう。頑張って演じている感が全面に出過ぎていたが、公演を見る中でその頑張りを応援したい気持ちになった1人だった。

秋元康プロデュースという劇団の可能性

ここまで書いて、こういう夢を追う途上の若者の未完成でも全力パフォーマンスを見せることで、知らず知らずに応援したくなる気持ちが湧き、知らず知らずにファンになっているという、AKB48グループと同じ仕組みだということを改めて理解した。
帝劇やタカラヅカの舞台上では完璧で最高の演技を見たいと思うが、ここkey studioでは若者の全力パフォーマンスと可能性を感じることが秋元康プロデューサーが提供する楽しみ方なのだろう。

ただ素朴な疑問として、例え毎公演違うユニットで違う配役で公演するといっても、同じ演目を何度も続けてみるのはちょっとツライかも。そこは同じ公演でも、その中に何曲も歌がありダンスがあり、MCがあるAKB劇場とは楽しみ方が偏ってしまうようにも感じた。そのあたりはたった1度の鑑賞だけではなんとも言えない。また改めて見てみたいと思う。

秋元康さんプロデュースの仕組みは、夢を持つ若者を集めてチャンスの舞台を提供する代わりに、参加者に無償に近い形で肖像権やコンテンツを提供させる。ブレイクしたらマネジメントで儲けを回収するという真っ当なビジネスモデルだが、なかなかないチャンスをもらえる仕組みの一方で、若者の夢を追う気持ちを使った少し残酷な仕組みでもある。

もちろん海外のアーティストやパフォーマーたちはもっと過酷な条件のもと、個人の力で勝負し続ける。無償の端役でもまずは「見つけてもらう」ことを優先して出演したり、厳しいオーディションを受けまくる日々の中から勝ち上がり、一握りの成功者をめざしている。だからこそ過酷な生き残りゲームの成功者は輝くし、強く称えられる。
一方で、秋元康さんの仕組みは、もちろん劇団やAKBグループに加入するためのオーディションを勝ち抜くことは大変だが、選ばれさえすればそれなりの長い期間特権的にチャンスを与えられるという、夢を追う若者にとってはある意味優しい有難い仕組みだ。しかし、その中でブレイクして世間に認められても、AKBグループから簡単には抜けられない。ある程度長い時間を事務所の回収期間として奪われることになる。AKBグループ内でブレイクしてもしばらくはグループの活動が最優先されるため、個人活動がなかなかできずに結局は旬の時期を逃すということも少なくない。

夢をめざす若者をサポートする仕組みは、一方で裏にいる大人たちのビジネスの側面を無視できない。著名な人がマネジメントする(プロデュースする)グループは注目を集めやすい反面、個人の特徴や個性を消してしまう副作用もある。
果たして、劇団4ドル50セントから敵劇の主役を張るようなスター、ヒロインは現れるのか、注目していきたい。