人生を楽しむ大人たちは「自分の遊び場」を持っている

2019.2.13

musicalover

あなたは夢中になれる自分だけの〝非日常〟空間を持っていますか?

人生を楽しむ

ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイズ」

日生劇場

2019.2.12

 

人生を楽しむ大人たちは「自分の遊び場」を持っている

「ジーザス・クライスト・スーパースター」(初演1970年)や「「エビータ」(1976年)、「キャッツ」(1981年)などのミュージカルの世界的名作を数多く生み出したアンドリュー・ロイド・ウェバー。

彼の代表作の1つ「オペラ座の怪人」(1986年)の続編として誕生したのが「ラヴ・ネバー・ダイズ」(2010年)。2014年の初演以来の日本での再演が、2019年1月から日生劇場で上演されている。

「オペラ座の怪人」でラウル役を演じた石丸幹二さんが、今回から新たにファントム役としてキャストに加わった「ラブ・ネバー・ダイズ」。2014年の初演以上に豪華なセットや衣装に加えて、舞台の奥行きだけでなく高さも存分に使った非常に凝った演出で、ミュージカルの最高峰といえる密度の濃い約2時間30分だ。

この作品の最大の見どころの1つは、初演に引き続いてクリスティーヌとして出演した平原綾香さんが「愛は死なず」を歌う場面。
観客全員が平原さんの歌唱に引き込まれ、まるでスカラ座にいるような気持ちになったこの瞬間。誰一人身動きせず、まるで会場内の時間が止まったかのような特別な時間を体験すれば、これだけでチケット代のもとは取れたという気持ちになれるほど。

この曲を筆頭に、この作品は本当に素晴らしい楽曲ばかりで、コンサートとしてだけでもじゅうぶん堪能できる素晴らしさ。ミュージカル界の巨匠、アンドリュー・ロイド=ウェバーのすごさを改めて再認識する作品と言えるのが「ラブ・ネバー・ダイズ」だ。

 

未知の世界に人生を楽しくさせるきっかけが潜む

 

今回の日生劇場や帝国劇場、ブロードウェイ・ミュージカルの上演も多い東急シアターオーブでミュージカルが上演される時、会場内には圧倒的に40代前後の特に女性客で埋め尽くされる。
彼女たちがミュージカル会場に足を運ぶ目的はさまざまで、純粋にミュージカル作品を楽しみに来る人以外にも、お目当ての俳優を見に来る人や同じ趣味を持つ仲間との社交の場として会場に集まる人もいるように見える。

もちろん数は圧倒的に少ないけれど、男性客の姿もある。女性を同伴して来た人以外は少し居心地悪そうにしながらも、静かに自分の趣味の世界を楽しんでいて、その秘めた想いは女性ファンにも負けないように見える。

今、ミュージカルの人気は上昇の一途を辿っていると感じる。
毎日人気公演が行われる主要劇場は、2000ほどの客席が常に埋まり、観劇を楽しみに訪れたファンの熱量で満ちている。
人気公演のチケットは、ロングラン公演にも関わらず入手困難で、ミュージカルファンなら誰もがそのプレミア具合は日を追うごとに増している感覚を持つだろう。
テレビ番組の音楽特番でミュージカルの楽曲が披露されたり、ミュージカルの人気俳優がテレビドラマに出演する機会も増えた。今後しばらくこの過熱ぶりは拍車が掛かる一方だろう。

なぜ今、ミュージカルに人が集まるのか。
特に40代を中心とした大人たちが集まっているのか。

その理由は多々あるが、1つにはミュージカルを劇場を「大人の遊び場」として活用している人が増えていることがあるように思える。
これは最近、音楽ライブの人気が高まっているのと同じ現状だと言えるだろう。
都会の真ん中で仕事終わりに2時間前後、非日常をライブ体感できる場所として。画面越しでなく、好きな俳優たちのパフォーマンスを目の前で堪能できる場所として。彼ら彼女たちは荘厳な非日常空間を有する帝国劇場や日生劇場を、趣味を満喫できる「大人の遊び場」として非日常を楽しんでいる。

しかも、同じ非日常を提供するディズニーランドやユニバーサルスタジオのようなアミューズメントパークとは違い、チケットを手に入れてさえいれば、開演ギリギリに会場に着いても自分の座席は確保されている。
長時間並んだり、観れるかどうかわからない一か八かだったりせず、確実に目的のエンタテインメントをじっくり体験することができる。
歳を重ねるにつれて、行列の必要や未確定の要素があるエンタテインメントは、特に仕事終わりにはハードルが高くなってくる。どうなるかわからないハプニングより、少し高額な出費をしてでも、多くの大人は確実性を優先する。

そして、ミュージカルを楽しくなるもう1つの大きな要素として「連続性」が挙げられる。
名作が数年おきに再演され、毎回出演する俳優たちの変わらない素晴らしい演技を楽しんだり、新たに起用された若手俳優の中から自分だけの期待の星を見つけたり、公演を重ねるにつれてキャストたちの信頼感が高まるなど公演自体の成長の軌跡を追ったり……。
ミュージカルは歌あり演技ありダンスありの総合エンタテインメントであり、同じ台本でも毎公演変わってくるライブ感を持ってる。だからこそ観劇を重ねれば重ねるほど、楽しめる要素が増えてくる。

今回の「ラブ・ネバー・ダイズ」は、そういう意味でも、アンドリュー・ロイド・ウェバーという多数の名作ミュージカルを生み出したレジェンドの作品であり、名作「オペラ座の怪人」の続編ということもあり、また2014年以来の再演であり、連続して出演する俳優たちと新たに起用された俳優たちの新たな融合もあり、ミュージカルを楽しめる連続性に満ちた作品の代表格といえる。

しかし、だからこそ途中参加が難しいと思ってしまう人も多いだろう。
確かにその心配は、観劇すれば実際に起こりうる可能性は高い。作品として優れた名作ミュージカルであっても、初めての観劇の時は面白みを把握しづらいのは事実だ。

しかし、趣味にする最初の一歩というのはそもそもそういうものだ。
40代、大人になってから足を踏み込む趣味の世界のハードルは低くはない。ただ、私たちには時間がある。最初はうまく面白みを掴めなくても、直感的にワクワクを感じたのなら、何度か続けて体験することで、少しずつその楽しみ方を掴んでいけるはずだ。
実際、それぞれスタートラインに立った時期はバラバラな大勢の大人たちが、今日もワクワクしながら劇場に足を運んでいる。彼ら彼女たちも最初の一歩は、同じように不確かだったかはずだから。

ミュージカル「ラヴ・ネバー・ダイズ」
日生劇場
2019年1月15日(火)~2月26日(火)

<キャスト>
ファントム:市村正親/石丸幹二
クリスティーヌ・ダーエ:濱田めぐみ/平原綾香
ラウル・シャニュイ子爵:田代万里生/小野田龍之介
メグ・ジリー:夢咲ねね/咲妃みゆ
マダム・ジリー:鳳蘭/香寿たつき
グスタフ:大前優樹/加藤憲史郎/熊谷俊輝
ミス・フレック:知念紗耶
ミスター・スケルチ:辰巳智秋
ドクター・ガングル:重松直樹

<クリエイト・スタッフ>

オリジナル版製作・音楽・脚本:アンドリュー・ロイド=ウェバー
作詞:グレン・スレーター
脚本:ベン・エルトン
作詞・脚本:グレン・スレーター
原作:フレデリック・フォーサイス(小説「マンハッタンの怪人」)
追加歌詞:チャールズ・ハート
演出:サイモン・フィリップス
翻訳・訳詞:竜真知子
照明デザイン:ニック・シュリーパー
音響デザイン:ミック・ポッター
オーケストラ編成:デヴィッド・カレン
音楽監督・歌唱指導:山口琇也
主催:TBS/ホリプロ/読売新聞社
企画・制作:ホリプロ