「時間が経つのが早い」と感じる人が見失っている大切なこと

2018.12.20

musicalover

エンタメから人生を考える

「時間が経つのが早い」と感じる人が見失っている大切なこと

 

ミュージカル「マリー・アントワネット」

2018/11/13(火)18:00開演

@帝国劇場

 

<CAST>

マリー・アントワネット:花總まり

マルグリット・アルノー:ソニン

フェルセン伯爵:田代万里生

ルイ16世:原田優一

レオナール:駒田一

ローズ・ベルタン:彩吹真央

ジャック・エベール:坂元健児

オレルアン公:吉原光夫

歳を取ると時間が経つのが早く感じる理由

歳を取ると時間が経つのが早く感じることに対して、19世紀の哲学者・ポール・ジャネは心理学的アプローチでその理由を解いた。

ジャネー曰く、生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢に反比例するという。

つまり、40歳の人にとって1年の長さは人生の40分の1だが、4歳の子どもにとっては1年は人生の4分の1でしかないため、同じ365日でもアラフォーと幼児では感じ方が全然違うということになる。

この「ジャネーの法則」を踏まえれば、私たちが慌ただしく過ごす日々の中で、1ヶ月なんてあっという間に感じてしまうのも仕方のないことかもしれない。

腕時計やスマホに表示される時間は誰のものであっても同じだし、決まった時間に時報が鳴り、時刻表のほぼ通りにJRや地下鉄はプラットフォームに滑り込む。しかし、その人の心理面を考慮すると、時間の流れ方や感じ方は人それぞれ千差万別となってくる。

多くのビジネスパーソンは合言葉のように「時間が経つのが早い」「時間がない」と語り合う。

それは多くの場合、少し先の未来に達成すべき目標やノルマがいくつもあり、その準備や実行に費やす時間が常に不足しているという環境のせいかもしれない。

簡単にまとめると、私たちは常に「時間を先取り」して生きていると言える。

 

映画「ボヘミアン・ラプソディ」を観て

最近、映画「ボヘミアン・ラプソディ」を何度も映画館で鑑賞した。

伝説的ロックバンド「クイーン」のリード・ボーカル「フレディ・マーキュリー」がバンドに加わり、世界的な人気を集め、1985年に開催されたチャリティーコンサート「ライブ・エイド」で熱唱するまでの軌跡が描かれたこの映画。

この中でフレディ・マーキュリーは独創的な歌唱力と創造力を発揮し、クイーンというバンドを世界的なメジャーバンドへと導く。しかしその過程で徐々に自分を見失い、「ファミリー」と呼んで大切にしていたバンドを一度は裏切り、名声と金と酒と薬に溺れていく。

メジャーになる前のフレディたちは、世間の評判や権力者に屈することなく自分たちが表現したい音楽の追求だけを見据えて活動していたクリエイターだった。

しかし、コンサートツアーは毎回満席となり、出すアルバムは売れに売れるうち、知らず知らずのうちに職業的パフォーマー的な思考に変わっていく。

依頼されたノルマのために音楽を絞り出し、発売したアルバムを売るために長期間に及ぶ世界ツアーに出かけるという音楽活動の繰り返しに、初期の頃の独創的なオリジナリティや音楽的野心は徐々に失われ、職業的音楽家としての自分たちを受け入れていく。

高額なギャラと引き換えに2枚のソロアルバムを出すことを約束したフレディは、うわ言のように「2枚のアルバムを作らなければ」と疲れ切った表情で呟き続ける。

そこに時間を気にすることなく納得いく音楽作りを最優先していたデビュー当初の若きフレディの姿はなかった。

 

「今」しか見えていない人の強さ

今回のミュージカル「マリー・アントワネット」はタイトル通り、花總まりと笹本玲奈がダブルキャストを務めた主人公は悲劇の王妃マリー・アントワネットだ。

しかし実際のストーリーの軸となっているのは、史実には登場しない架空の人物マルグリット・アルノーだということは鑑賞した誰もが感じる率直な感想だろう。

今回鑑賞した公演回でマルグリットを演じたのはソニン。若くしてアイドルユニットとしてデビューしたものの、メンバーの不祥事などあり音楽グループとしては短命に終わった彼女。

しかし現在は、ミュージカル界では欠かせない実力派助演女優として不動の地位を築いている。

舞台上の彼女は、どの作品でも常に情熱的で攻撃的だ。舞台上を縦横無尽に舞い、パワフルに歌う彼女からは、毎回「今日で燃え尽きてしまうのでは」と感じさせるほどの激しい熱を発し続ける。

舞台上の彼女の目には観客を射抜く強い光があり、1つ1つの台詞にも歌唱にも彼女の全霊のメッセージが込められている。

彼女は「今」しか見ていない。

彼女の演技からは彼女の中に「今」という時間軸しか存在していないように感じさせる。

それは「この公演でどのように評価されるか」とか、「喉が枯れて次の公演に悪影響が出ないか」などという思いが一切ない、「今、この舞台だけにすべてを賭けている」という強い決意だ。

 

今よりも少し先の未来を優先する賢い生き方

人は大人になって知らず知らずのうちに計画性や効率性を身につける。

子どもの頃はぶっ倒れる寸前まで走り続けた人間が、大人になると「明日のこと」を考慮して、早めに体を休めようとする。

それは言い換えれば、「今よりも少し先の未来を優先する」という賢い選択だ。

今より未来を優先する結果、時間が過ぎるのが早く感じ、1年があっという間に過ぎていく(ように感じる)。

ソニンはいろいろな紆余曲折を経て、人にはわからない辛苦を経験し、今、この瞬間に生きるという生き方を見つけたように見える。

そういう生き様を見つけた人間の言動は自然と強いメッセージ性を帯びる。

ミュージカル「マリー・アントワネット」の中でソニン演じるマルグリットが生き生きとして見えるのは、そして観客に対して強いメッセージを伝えるのは、彼女が「今」しか見ていないからだろうと感じる。

まるでぶっ倒れる寸前まで全力でやりたいことに熱中した子どもの頃のように。

 

コップに入った半分の水は「多い」か「少ない」か

アーティストなら自身のパフォーマンスに反映させることができるだろう。

果たして、私たちビジネスパーソンたちが同じことを望むことは無理なことなのだろうか?

無理と決めつけているだけではないだろうか。

アラフォーにとって残りの人生は折り返し地点は過ぎつつあるかもしれないが、それでもまだ長い。

だからこそ少し先の未来や老後のために今を犠牲にして生きるのか。それともまだいつでも取り返せる時間はあると「今を生きる」ことに熱中するか。

コップに入った半分の水は、「半分しかない」のか「半分も残っているのか」。

子どもの頃にできたことが、大人になってできない理由とは一体何だろう?

そんなことを考えながら、帝国劇場を出てすっかり暗くなった有楽町の舗道を歩き始めた。

ミュージカル「マリー・アントワネット」

2018年9月14日(土)~2019年1月15日(火)

東京・帝国劇場ほか

原作:遠藤周作「王妃マリー・アントワネット」より
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出:ロバート・ヨハンソン
製作:東宝

 

<CAST>

マリー・アントワネット:花總まり、笹本玲奈
マルグリット・アルノー:ソニン、昆夏美
フェルセン伯爵:田代万里生、古川雄大
オルレアン公:吉原光夫
ルイ16世:佐藤隆紀、原田優一
レオナール:駒田一
ローズ・ベルタン:彩吹真央
ジャック・エベール:坂元健児
ランバル公爵夫人:彩乃かなみ

ロアン大司教:中山昇
ギヨタン博士:松澤重雄
ロベスピエール:青山航士
ラ・モット夫人:真記子

マリー・テレーズ:叶英奈/髙畠美野/吉田空
ルイ・シャルル:陳慶昭/寺崎柚空/長堀海琉

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