「自分の人生の主人公である」と胸を張って言えるか

2020.4.14

安彦考真

シリーズ「安彦考真という生き方」--40代で無謀な挑戦に挑んだ男の横顔vol.1

ある本の中で、糸井重里さんの言葉が紹介されていた。

コピーライターとして活躍し、現在は株式会社ほぼ日の代表取締役社長として新しい可能性を生み出し続けている糸井重里さん。彼がなぜ50歳を前に、人気コピーライターというポジションを捨て、新しい挑戦したのか。その思いを語っていた。

 

◇◇◇◇

「40歳になった時は暗いトンネルに入ったみたいで辛かった。その辛さは自分がまだ何者でもないことに悩む30代の時の辛さとはまったくの別物だった」

 

「40歳までは『自分の万能感』が自分の中に満ち満ちていたのに、40歳を越えた途端『今までの円の中だけにいる』ことができなくなってしまった。自分でも『今のままでは通用しない』と薄々感づく時だった」

 

「このままではいけない。別のコンパスで新しい円を描き、その中に入っていって、今までとは全然違うタイプの力を発揮しなければいけないと気づいた。その時、自分は決して万能なんかではなく、世の中で役に立っていない存在だということに気付かされた」

 

「40代までは他人の要求に応える形で仕事をしていたが、50代になって『他人の要求に応えてやらなきゃいけないことだけをやっていたら、人生終わっちゃうな』と気づいた。『自分の人生の主人公は自分だ』と気付くのが50代だと思う」

◇◇◇◇

 

10代を勉強も人間関係もそつなくこなして過ごした人の多くにとって、20代は根拠のない「自分の万能感」で自信に満ち溢れ、自身に秘める無限の可能性を信じることができる年代といえる。

そして、所属する会社から与えられる数々の難しいミッションを達成し、上司に認められ続けることに全力を注ぐことが、無意識にその自信と可能性の支えとなっていた。

 

しかし、30代も後半を迎えると、その自信と可能性は「自分が所属する円の中」だけしか通用しないことに薄々気づき始める。

少なくない人はそのことに危機感を持って葛藤する。けれど大多数はそのことを見ないように日々の業務により没頭することを選択する。

その結果、40代も半ばを過ぎたある時、すでに自分はその円の中だけでしか通用しない人間になっているということに気づく。そして、もう自分はその円から出ることができないということを徐々に受け入れていく。

 

20代、30代、自分の可能性を信じて突っ走ることができた人が、40代になると不安に駆られてなぜか立ち止まる。

その時思い切って軌道修正できる人が成功を掴むとは限らない。もちろんそのまま円の中で生きると決めることも間違いではない。

しかし立ち止まってこれから先の自分の人生の残りを想像した時、疑問を持ったままでは次一歩を踏み出せないという人も何割かいる。

 

安彦考真はその何割かのうちの1人だった。自分を偽り続けることができなかった。

そして、懸命に掴んだ仕事を捨て、新しい円を描く決心をした。そこに一般的な目で見ると、決して社会的な成功を掴んだとは言い切れないかもしれない。

しかし、彼が自分で描き直した新しい円の中では、彼は自分の人生の主人公となっている。そして、彼はその円の中に生きることを心から楽しんでいる。

ただし経済的には好転したとは言えない状況でもある。どちらが幸せと感じるか。最後は好みの問題でしかない。

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