舞台「リトル・ヴォイス」

2017.5.20

livest!編集部

ライブ体験記

舞台「リトル・ヴォイス」

 

「不器用な登場人物たちの愛すべき葛藤物語」

 

映画でも人気となった名作を、アーティストの大原櫻子さん主演で舞台化した「リトル・ヴォイス」。

1992年にロンドンで初演された作品であり、1998年に映画化もされた多くの人に愛された「リトル・ヴォイス」。多くの女性客で埋まった天王洲銀河劇場で、コミュニケーションが苦手な女の子が歌を通じてさまざまな人と出会い、成長する物語をライブ体験した。

 

映画「カノジョは嘘を愛しすぎている」のヒロイン役でメジャーデビューした大原櫻子さんだが、もともとミュージカル「アニー」を観て芸能界をめざしたということで、舞台「わたしは慎吾」でも素晴らしい演技と激しい踊りが印象的だったが、今回は主役の舞台ということで、大原さんのこの舞台に賭ける想い、本気度が舞台上からひしひしと伝わる熱演と熱唱だった。

 

大原さん演じるヒロインの「リトル・ヴォイス」「エルブイ」は、人と話すことが苦手で、大好きだった父親が残したレコードを聴くこととその曲に合わせて歌うことだけが楽しい時間の女の子。

エルブイが歌うシーンでは、大原さんが曲ごとにマリリン・モンローら往年のスターたちが実際に歌っているかのような歌い方や声で伸びやかに歌い、観客を魅了。

それまでの背中を丸めてオドオドしていた少女が、歌う時だけ別人のように堂々を歌い、踊る様子を、大原さんが見事に表現し、舞台と大原さんのコンサートを同時に楽しめるようなライブ体験だった。

 

今回、印象的だったのが、エルブイを見出すプロューサー「レイ・セイ」役の高橋和也さん。

野心家でエンタテインメント界で成り上がろうとアーティストの原石を探していた中で、素晴らしい歌声を持つエルブイと出会い、表舞台に引っ張り出すも、その夢の途中で挫折し、人生の階段から転げ落ちる様を、見事に表現していた。

そんなギラギラしたレイ・セイ役を演じた高橋さんだったが、公演後に実施されたトークショーでは優しく誠実な様子だったように、自己中心的で人を踏み台にしてでも成り上がろうとするレイ・セイの中にどこか高橋さんの人の良さが滲み出ていて、嫌味のない上品な高橋和也版レイ・セイが舞台の印象を爽やかにしていたように感じた。

 

例えば、同じような野心家で誰かを踏み台にしてでも成り上がろうとする役でいうと、舞台「ミス・サイゴン」でのエンジニア役のジョン・ジョン・ブリオネスは、もっと下品さや人間の汚い部分を出しつつも、どこか憎めない人間味のあるエンジニアを素晴らしい演技で表現していて非常に印象深かった。高橋和也さん演じるレイ・セイもそれに劣らぬ演技だった。

 

単なる才能を秘めた少女の成功物語ではなく、1人の少女の成長を通じて、彼女に関わる何人もの登場人物がどこかで諦め受け入れていた環境を変えようとし、人生が変わっていく様子を描く「リトル・ヴォイス」。

大原櫻子さんの素晴らしい歌声と合わせて、まさに「人生を変えるようなライブ体験」と言える舞台だ。

 

舞台「リトル・ヴォイス」

<スケジュール>

東京・天王洲銀河劇場 2017年5月18日から28日

富山・富山県民会館 2017年6月3日、4日

北九州・北九州ソレイユホール 2017年6月24日

 

<キャスト&スタッフ>

大原櫻子 リトル・ヴォイス

安蘭けい マリー・ホフ

山本涼介 ビリー

池谷のぶえ セイデイ

鳥山昌克 ミスター・ブー

高橋和也 レイ・セイ

 

作:ジム・カートライト

演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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