エンタメの真髄は「観客を楽しませる」その一点にある

2018.10.30

musicalover

人生を楽しむ「教養を広げる」

個性派俳優たちの未知の魅力を引き出す監督の演出力

ミュージカル「シティ・オブ・エンジェルズ」

2018年9月1日(土)~17日(月・祝)

東京都 新国立劇場 中劇場

 

脚本:ラリー・ゲルバード

作詞:デヴィッド・ジッペル 

作曲:サイ・コールマン

演出・上演台本:福田雄一

出演:山田孝之、柿澤勇人、渡辺麻友、瀬奈じゅん、木南晴夏、山田優、佐藤二朗

「知る人ぞ知る」演劇の魅力にハマった人たちが集う異世界

秋しい心地よい夜風の中、初台駅から新国立劇場に向かう。

帰宅時間ながら同じ方向に向かう人も多く、その中でもおそらく同じ場所に向かっているのだろう女性が多い印象。

毎回、舞台やミュージカルの会場に向かうと感じるのが、演劇は女性に支えられているということ。もちろん平日の昼間や夕方に劇場に足を運ぶことが男性サラリーマンには難しいということもあるだろうが、演劇というエンタテインメントは特に女性向きなのだろう。1回の鑑賞で1万円前後、公演によっては1万3500円程度のチケット購入が必要でもあり、それなりの出費が必要な娯楽だが、女性にとっては好きな俳優や女優を生で鑑賞できるライブ感が大金を払う価値のある娯楽と受け入れられるということか。

例えば映画館に行っても、人気男性アイドル主演の映画以外で観客席が女性ばかりという経験はあまりない。人気男性アイドル主演の映画を映画館に見に行ったことがないので、その時は女性ばかりかどうかも実際は知らないが、極端な「主演のためのプロモーション的映画」以外で、自分の席の周囲が女性ばかりだったという映画は記憶にない。(逆に男性ばかりだったという経験の方が多い・笑)

今回も、観客席はほぼ女性ばかりで埋まっていた。もちろん山田孝之さんや柿澤勇人さん人気もあるだろうが、では彼らが主演の映画で映画館が女性ばかりになるということはないだろう。それだけミュージカルや舞台が男性にとっては敷居の高い「異世界のもの」であるという裏返しでもあるが。

〝カメレオン役者〟山田孝之の多才ぶり

この作品は1990年にトニー賞6部門、2015年にローレンス・オリヴィエ賞2部門を受賞したブロードウェイの人気ミュージカル作品。ストーリーの骨子がしっかりしていて、予想外な展開もあり、観客を飽きさせない脚本と演出はさすがトニー賞受賞作という印象。そんなエンタテインメント性の高い作品を福田雄一さんが相変わらずの「福田節」で演出し、日本人向けの小ネタを随所に盛り込んで笑いを誘うシーン満載の公演だった。

公演プログラムにはミュージカル出演経験が少ないと記載されていた山田孝之さんだが、歌唱シーンやダンスシーンも華麗にこなし、役者としてのポテンシャルの高さを今回も披露。クールな探偵役としてのカッコいい演技の合間に、ふんだんに散りばめられたコメディな演技も最高で、本当に素晴らしい俳優だと再認識させられた。

山田孝之さんは現在、34歳。アラフォー手前の世代ながら、出演作品(映画でもテレビドラマでも舞台でもテレビCMでも)のすべ手にすでにベテラン俳優のような安定感を感じさせる。

二枚目俳優のようで、どころどころあえて崩す一面を見せることで演じる役の幅をうんと広げている印象。イケメン枠の俳優がコメディを演じると時にイタさを感じることもあるが、山田孝之という俳優は、真面目な顔してコメディシーンを演じることにかけては群を抜いているように感じる。

今回の「シティ・オブ・エンジェルズ」もそんな山田さんの魅力を最大限に引き出す、福田雄一監督の演出により、舞台上で真面目な顔してコメディシーンを生き生きと演じていた。彼が今後、年齢と経験を重ねることでさらにどんな素晴らしい俳優に進化するのか興味津々だ。

制限のある空間から無限の可能性を引き出す演出力

今回の作品は、脚本面と舞台演出面が特に印象深かった。脚本家と、彼が書く映画の脚本の主人公を中心に2つのストーリーが展開していく「劇中劇」のこの作品。実際の世界の登場人物構成と映画の中の登場人物の構成がキレイにリンクしていて、映画の主人公役の山田孝之と現実世界の脚本家役の柿澤勇人以外、渡辺麻友、瀬奈じゅん、木南晴夏、山田優、佐藤二朗らはそれぞれの2つの世界の登場人物を演じ分けるという作りになっている。

一見、複雑で「今のシーンはどちらの世界?」と混乱しそうだが、そこはトニー賞受賞作。観る者を置いてきぼりにしないよう、見事な舞台上の場面転換で進行する見事な脚本だった。

また場面転換も、ワンシーンごとに暗転させて舞台転換するといったブツ切れ状態にならないよう、舞台上に小箱の舞台装置を出し入れすることで2つの世界の行き来を非常にスムーズに見せる演出が光った。小箱の舞台での場面と舞台全体を使っての場面の使い分けも見事で、ミュージカルを含む舞台の演出の無限の可能性を感じさせる作品と言えた。

また演奏を担当する生オケチームが、舞台上段に常設されたステージに位置していたが、単なる演奏のための配置でなく演出に活用されていたのは見事だった。演奏ステージの背景にあるハリウッドサインをバックに、照明の演出で時に演奏者たちのシルエットが浮かび上がったり、時に照明が管楽器に当たり黄金の光が乱反射したり。演奏者たちの存在が裏方ではなく、舞台を彩る一員として存在させる舞台演出にも、同じようにミュージカルを含む舞台の演出の無限の可能性を感じさせてくれた。

エンタメの真髄は、深く考えずシンプルに楽しませること

正直、福田雄一監督の演出作品は、作品によっては好みや評価が別れるものもあるように思う。

現在、放送中のテレビドラマ「今日から俺は!」(日本テレビ・日曜22時30分〜)も福田雄一監督が演出・脚本を担当する作品で、福田節がちょうどいい具合に炸裂したこの秋クール最高の快作ドラマだと個人的には思う。

しかし、昨年放送された「スーパーサラリーマン左江内氏」は少し福田監督の遊びが上滑りしている感もあったりして、福田監督が関わる作品の象徴とも言える〝出演者のふざけたアドリブ〟シーン満載の演出&脚本は嫌いな人も少なくないだろうと思う。

この「シティ・オブ・エンジェルズ」は作品本来のクオリティの高さと福田さんのおふざけがギリギリのラインで調和していて、「もう一度観たい」と思わせる作品だった。

何より出演者たちが一番楽しんで出演している感が滲み出ていて、チームワークの良さを感じさせた。これだけの個性的な人気俳優たちを1つに束ねて良い作品を生み出すという点で、演出家である福田さんが高い評価を得続ける理由の1つを改めて知ることができた。

深く考えることなく、単純に笑い、楽しむことができる、これぞ「ザ・エンタテインメント!」と言える良作に出会えて幸せを感じながら、新国立劇場を後にした。

 

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