「無知の不在」が不幸を引き寄せる

2020.6.4

私たちは無知によって道に迷うことはない。

コロナウイルスの感染流行をきっかけに、世界中でこれまで覆い隠されてきた問題に対する亀裂が表出している。

アメリカでは黒人差別に対するデモが拡大。一部暴徒化する状況にもなっている。香港では一国二制度に関して中国との対立が激化しつつある。

コロナ問題について中国に本格的な調査依頼を表明したオーストラリアに対して、中国は豪州産の牛肉輸入規制という対抗処置に出た。また、ブラジルではウイルス感染予防のための外出自粛政策と経済優先の考えが対峙し、国と州との対立が深まっている。

一方で、テレビでは以前から続くバラエティ番組がリモート収録などの急場凌ぎで放送を続けられている。

世界中で多くの血が流れている現実が知らされないまま、プロスポーツを再開するかどうかや芸能人の話題などを垂れ流し続けるメディア。そして、在宅時間が増えた人たちは、明日には忘れているような内容の映像を無目的にダラダラと「ながら見」しているだけ。世の中の現実を知ろうともしない。

日本は平和だ。

けれど、それは空虚な幻想の上に立つ砂上の楼閣だ。

多くの人は生活が苦しいと感じているけれど、その原因の原理を理解しようとはしない。

どうすれば給付金がもらえるか。どうすれば出社しないままで給料がもらえるか。手のひらに落ちてくる施政者たちが操る黒魔術の最後のひとしずくを啜ることしか頭にない。

ルソーは言う。

「私たちは無知によって道に迷うことはない。自分が知っていると信じることによって迷うのだ」

私たちは迷い続ける。「何も知らない」ということに気づかないまま。

リアルな現実から目を背け、世界の大きな変化は自分と無関係だと思い込み、今日も会社に行くため心を無にして満員電車に乗り込む。

自分がウイルス感染しないことを祈りながら。

じつはもうウイルスより酷い呪いにかかっていることに気づかないまま……。