今こそベテランの経験が必要な時だ

2019.5.22

安彦考真

安彦考真のリアルアンサー「J3リーグ第9節を終えて」2019年5月22日

5月19日(日)、ニッパツ三ツ沢球技場でJ3リーグ第9節「Y.S.C.C.横浜 vs. SC相模原」の試合が行われ、1-3でホームの横浜が敗戦。安彦考真選手に出番は訪れないまま、ベンチで試合終了を迎えた。

〝神奈川ダービー〟となったこの試合に敗れたYS横浜は現在16位。しかし今シーズンのJ3は拮抗しており、横浜と同勝ち点差±3以内に10チームがひしめく混戦状態。連勝すれば一気に上位に顔を出せるが、逆に連敗すると一気に下位にまで落ちてしまうジェットコースターのようなリーグとなっている。

ここまで横浜はリーグ最多得点2位という攻撃力を誇る一方で、リーグ唯一の20点超えの最多失点という極端なチーム状態。ゲームスコアを見れば面白い試合をするチームとも言えるが、勝負強さの面で弱点を持つ未完成なチームと言える。

特に近隣のライバルチームとの〝神奈川ダービー〟に敗れたこの試合について、安彦考真選手は課題が多いと試合を振り返った。
ブラジルでも数多くダービーを経験した安彦考真選手が感じた、この試合のチームの問題点は?そして安彦考真選手が考える改善策とは?

 

リアルアンサー
2019年5月22日

Y.S.C.C.横浜

安彦考真

「ベテランの経験がチームを活性化させる」

負けた試合はどれも悔しい。
試合に出ているいないに関わらず、選手にとって負けた後の悔しさはつきものだ。
今節の相模原戦はその悔しさに不甲斐なさも相まって、改めて自分の中で「覚悟」を決めるものとなった。

相模原との試合は〝神奈川ダービー〟だった。
ダービーやクラシコという試合は、海外では絶対に負けられない戦いだ。
しかし、残念ながらこの〝神奈川ダービー〟を戦う我々の姿には、海外でダービーと呼ばれる試合のような「特別な試合を戦っている」という気迫や殺気はまったくなかった。

僕にとってダービーの試合はいつでも特別な試合だ。
この僕のダービーのイメージは僕がブラジルにいた時の強烈な経験がもとになっている。もう20年も前のことだ。これを「古い考え」と取るか、これこそ「伝統、歴史だ」と取るかは人によるかもしれない。
けれどブラジルでのダービーは僕のサッカー観に大きな影響を与えた強烈な経験だったことは間違いない。

ブラジルで経験したダービーはその週の練習から始まっていた。
普段の紅白戦では、白熱し過ぎて削り合うようなプレーが出始めると、レギュラー組のケガを恐れて監督がリザーブ組に対して自制を求めることも少なくない。

しかし、ダービー前の紅白戦は違った。
リザーブ組が普段とは比較にならない気迫と殺気を前面に出し、レギュラー組に対して削りに行くことを監督も容認する。もちろんわざと削りに行くのではなく、チーム全体にそのくらいの覚悟があるという意味だ。

翻って、今回。僕らのダービー前はどうだったか。
誰も手を抜いて練習はしていない。いつもと変わらない練習風景だった。
変わらないどころか、リザーブ組には気迫も殺気も皆無だった。

ダービーというには程遠い雰囲気の練習、そして紅白戦。僕のイメージするダービーという絶対に負けられない試合の前の、普段と一変するような殺気立った雰囲気はまったくなかった。

もちろんダービーだけ真剣になればいいという意味でなく、常に全力で取り組むということは大前提だ。
その上で、例えばダービーという重要な試合になれば、その意味や託された責任を理解し、より一層熱くなるのが本物のプロフェッショナルだと僕は思っている。
けれど、悲しいことに僕たちは真のプロフェッショナルとは言えない姿を、試合前も試合中も晒してしまった。それだけでなくプロとして結果を出すこともできなかった。

対戦相手の相模原の背番号10番を背負った選手はブラジル人。チームの中心的存在の選手だ。
彼のプレーを天皇杯の神奈川予選で見たが、この日のダービーはまったく次元の違うプレーをしていた。
僕たちは彼に負けたと言ってもいい。
それはプレーのレベルやチームへの貢献度という意味だけでなく、この試合(=ダービー)にかける特別な意気込みやプロフェッショナルとして培われてきた(ダービーに対する熱さを生む)DNAに大きな差があったと個人的に考えている。

一方で、我々のチームのリザーブ組には、残念ながらそういった熱いDNAを感じることはなかった。

「ダービーだから」単純に闘志が湧くことはない。そんな外的要因からではなく、選手個々の胸の内から「プロフェッショナル」としての強烈な自我が吹き出すことで初めてダービーはダービーとなると僕は思う。

僕たちにはいつもと同じ空気の中で試合をし、逆転負けを食らった。この敗戦は僕を含めたリザーブ組の責任が小さくないと思う。試合の意味を捉え、体現した選手がいなかった。

こういったことを書くと僕の独断による「チーム批判」だと捉える人もいるかもしれないが、実際に多くの選手もそう感じたと言っていた。
「この雰囲気をこのままにしてはいけない」
僕が今、あえて厳しい言葉を吐き出すのはそんな危機感からだ。

今、僕は覚悟する。それは”嫌われる勇気"だ。
若手が萎縮するくらい言うべきことは伝えようと思う。それは暴言や怒りではなく、本気の想いと覚悟で伝えるということ。

もしかすると一瞬の感情で生まれる暴言などとは比べ物にならないくらいの破壊力となるかもしれない。
しかし「本当の戦いとはどういうことか?」「真のプロフェッショナルとはどういう存在か?」ーーそういうことをチーム全体で理解し、共有し合わなければ、どれだけいい戦術を用いても、どれだけ伸びしろのある選手がいても、このチームはこれ以上劇的な変化は見られないだろう。

そう僕は考える。

だから僕は問う。選手たちに「今こそ変わるべき時ではないか」と。

僕が本気で問う姿勢に対して、本気で応える覚悟のある選手はどれだけいるか。言い訳を探すか戦意喪失になる選手はいないか。それがこのチームの今後を大きく左右するはずだ。

あえて嫌われることでも、真正面から伝えるのも僕のこのチームでの重要な任務の1つだ。ぜひ真のプロフェッショナルとしてチームと向き合い、その思いを伝えたい。

最後にY.S.C.C.横浜の最大の魅力と言ってもいい試合後のファン対応について少しだけ話をしておきたい。
YSCC横浜は試合後、必ず全選手がスタジアムの外で待ってくれているファンのみなさんのところに行って交流をはかる。
子どもたちも含めた多くの人たちが待ち望んでくれている。どんなに情けない試合をしてもそれはチームとして必ず実行する決まりごとだ。
これはきっとJリーグクラブで唯一であろう行いであり、そこで築く選手とファンとの絆が今のYSCCを支えていると思う。

選手は必死にプレーし、試合後に真剣にファンと向き合う。その姿勢がサポーターとの信頼を生み、応援してくれる人が増えるきっかけになる。もちろんクラブとしてもサポーターのことを大切にすることが、チームスポンサーや年間シート購入者が増えることにつながるだろう。それぞれがそれぞれのできることをやり切ることでしか、クラブの価値は上がっていかない。
だからまず僕たち選手が本気になる。そしてサポーターに僕たちの本気を見てもらう。クラブにも僕たちの本気を感じてもらう。
勝敗は自分たちだけでどうにかできることではない。けれど、本気になることは個々でできること。僕たちは変わる。次の試合で僕たちの変化を見て欲しい。

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