安彦考真「人生の先輩から20代に向けてのリアルアンサー」7
40代ともなれば組織を束ねるリーダー的ポジションに就くことも増えてくる。
結果を出し続けることを期待される立場を任される40代。
大事な場面で取引先の前に立ち、信頼してついてきてくれる部下たちの目の前で悠然とパフォーマンスを発揮する。そんな理想を描きながらも、実際にできる人はなかなかいないのが実情かもしれない。
勝負の場面で最大のパフォーマンスを発揮し、最高の結果を出す。
これは一流のプロアスリートにとって必須条件となるが、同じことはビジネスパーソンにも当てはまると言える。
40歳でJリーガーとなった安彦考真選手は、テスト生として毎日のサバイバルをどんな心境で勝ち残っていったのか。そして実際にプロになってから、公式戦に出場する場面でどんな心境だったのか。
結果を求められるすべての社会人に共通する課題について、安彦考真選手がリアルアンサーする。
安彦考真の「人生の先輩から20代に向けてのリアルアンサー」7
2020年5月7日
Q. プロアスリートの勝負の場に向けての意識の高め方を教えてください。
20代会社員
Jリーグは毎週のように公式戦があり、勝っても負けても翌週また大事な試合が続く環境だと思います。
短いスパンで続く勝負の瞬間に気持ちを高めることや、高いモチベーションを持続することは、決して簡単なことではないと思います。
会社員でも、毎週のように大事な会議やプレゼンテーションが続くこともあり、本番前の気持ちの作り方や継続方法などをぜひ知りたいと思います。
A. 「緊張」は敵。
「いい緊張感」を味方につける
安彦考真
プロアスリートでも試合の前に緊張して本来のパフォーマンスが出せない人は大勢います。
でも、プロとして結果を出し続けなければならない。
僕たちプロアスリートは常に緊張との向き合い方を試され続けていると言ってもいいかもしれません。
では「そもそもなぜ人は緊張するのか?」ということから考えてみたいと思います。
ここで言う緊張とは2種類あると思います。
1つは「緊張」。
もう1つは「いい緊張感」。
同じようで違う、この2つ。
前者の「緊張」はただの緊張で、後者の「いい緊張感」とは緊張していない状態。
似ているようで、両者は全然違う結果をもたらす場合が多いんです。
「緊張」とは、体や心が張り詰めた状態にあること。
ちなみに、心理学では「これから物事が起きることに対して『待ち受けている心の状態』のこと」を指し、生理学においては「筋肉の収縮運動のこと」を指すとのこと。
要するに、緊張そのものは、大事な場面での心身の状態として、決していい状態ではないとこいうことです。
緊張は、体や心が張り詰めた状態。
こうなると、心理的にも肉体的にも普段の自分ではない自分を感じることになり、それは脳が不安を感じることにも繋がります。
不安や心配が人の成長の妨げになると言われていますが、これは本当にその通りで、不安や心配の根っこにあるものは「失敗したどうしよう」「上司に怒られれる」「恥ずかしい」などの自己防衛本能です。
この自己防衛本能が働くことで、心身ともにガチガチな状態になり、ベストパフォーマンスを発揮できないだけでなく、なんとかその場を無難にやり過ごそうと低いパフォーマンス対応になってしまうこともあります。
一方で、もう1つの「いい緊張感」とは、僕なりの解釈で説明すると、心地良い状態の時のことで、それは「高揚感」にも近いと考えています。
ガチガチに固まってしまう「緊張」状態とは真逆で、視野が広くなり、体の可動域が広がり、心身ともにもっともベストパフォーマンスを発揮しやすい状態です。
そして、心身ともに勝負の場に最適な臨戦体制になれることで、対戦相手や観客を冷静にみる余裕ができるようになる。
場合によっては、むしろ勝負の場を楽しめる余裕さえ生まれる時もあります。
イチロー選手のバッティング前の動きや、ラグビーの五郎丸歩選手のキック前の決まった動作など、誰でも知っている動きがあります。
クリスティアーノ・ロナウド選手がフリーキック前にゴールを見つめて仁王立ちになり、一度大きく息を吐く動作も同じかもしれません。
スポーツ選手でプレー前にルーティンを行う人は、不安や心配を消すためにやる場合が多いです。
ルーティンでプラスを作るという考え方ではなく、マイナスをなくしプラスマイナスゼロをつくる、要するに平常心を保たせるためのものということです。
僕は2018年の1月から水戸ホーリーホックで練習生として練習に参加しました。
この時は、いつ「明日から来なくていいよ」と言われるかわからない日々で、毎日が最終テストを受けているような状態でした。
実際、同じ立場で練習生として参加した他の選手たちは、気がつくと1人また1人といつの間にか練習に姿を見せなくなっていきました。
僕の年齢の半分ほどの若い選手が、高校サッカーの名門高校で活躍したキャリアを持つ選手が、J1でのプレー経験がある現役選手が、1人また1人といなくなっていく状況は(たとえはよくないかもしれませんが)参加している僕にとっては、まさに映画「バトルロワイアル」」状態でした。
でも、当時39歳の僕には毎日が新鮮で、そんな状況下でも前向きでした。
緊張はせず、毎日が高揚感でいっぱいでした。
もちろん、練習は苦しかったので、身体はきつかったですが、脳みそはいつもフレッシュでした。
周りから見たら、40歳になろうというおっさんが何を必死になっているんだ、全然動けてないじゃないか、というような批判的な意見も散見されたようですが、僕は全く気にならなかった。
それは、不安や心配がそこにはほぼ存在しなかったということです。
このときの僕は、その結果どうなるというまだ起きてもいない未来を気にすることよりも、今このときに必死だったんだと思います。
それが、悲願叶って2018年3月31日にプロ契約を結んだ後、Jリーガーと呼ばれる立場になった途端、イップスになるくらいまで追い込まれることになります。
当時僕は40歳になっていました。
40歳でJリーガーになると豪語して無謀な挑戦までして、見事に花を咲かせたにも関わらず、今度は不安と心配の毎日を送ることになってしまうのです。
いつしかまだ何も起きてない暗い未来を気にするようになり、せっかく手に入れたJリーガーというポジションが1年でクビになってしまうのではないかという不安と心配に苛まれ始め、僕は練習をすることすら怖くなっていたのです。
「いい緊張感」とただの「緊張」はここまで人のパフォーマンス影響します。
その上で、どのようにしたら不安と心配をなくせて、いざ勝負というときに最高のパフォーマンスが発揮できるのかということをお伝えします。
例えば、僕は2019年41歳でJリーグ最年長デビューを果たした時。
その時は、途中出場だったのですが、交代を言い渡されピッチ脇で交代を待っている時から、ずっと自分にスポットライトが当たっているイメージでした。
「主役は僕だ」
「みんな見ていてくれて」
そんな思いでピッチに入ったので、一切緊張はなく、自分でも納得できるプレーができました。
その時、「いい緊張感」とは、いい準備で生まれるもと同時に「自分の人生の主人公は自分である」という自覚が必要だと感じました。
これは常日頃からデビュー日をずっと想像してきたからこそ、その想いになれたと思っています。
そこにどんなプレーをしようとか、ゴールを奪おうとかそんな欲はなかったのです。
ただただ、41歳の男が無謀な挑戦の中でしてきた努力を思いっきり表現したい、その思いだけでした。
大事なのは、結果や未来を想像しないことです。
来る日に向け、最善の準備を行う。来る日に向け、自分の物語を歩む。
そんな思いで日々取り組むことで「いい緊張感」が作れると思います。
それから、どうしても本番の弱くからいざというときにパフォーマンスが発揮できない場合は、不安と心配と向き合い、その事実から逃げないことです。
その上で、先程も述べましたが、その不安と心配を消すためのルーティンをすることが大事です。
どんなルーティンでもいい。
毎朝15分走る。
朝一でトイレの掃除をする。
会社に入るときは利き足から入る。
机に座ってから先ずコーヒー飲む。
などなど、自分なりにこれが「気持ちいい」というものを選び、とにかく継続することです。
まだ何も起きてない未来を考えて不安心配に苛まれるより、今できる「気持ちいい」ことに集中すれば、平常心になれるはずです。
来るその日のために、最善の準備をしましょう!