僕が始めた「スポーツメンター」について話そう

2020.7.24

安彦考真

安彦考真新規プロジェクト「スポーツメンター」について vol.1

僕が始めた「スポーツメンター」について話そう

安彦考真

 

先日、急遽行った〝スポーツメンター〟のお試しモニター募集は、すぐに定員5名の希望者が集まった。

そして、すぐに全員とリモートでの面談が実現。

それぞれのプロフィールなど知らない状態で始めたリモート面談だったが、結果的に全員が現役サッカー選手だった。

しかも、うち3名は現在海外でプレーしている現役選手。それほど多くの日本人選手が海外に飛び出してプレーしていることに改めて驚くとともに、インターネットによって彼らと直接繋がり、語り合える便利さも感じた。

ここまで書き始めたが、そもそも〝スポーツメンター〟とは何か?

僕が創り出したオリジナルのアスリートサポートの名称だが、ここで改めて簡単に説明しようと思う。

「スポーツメンターとは?」

最近はビジネスパーソンに広く知られている〝メンター〟の存在を、スポーツに特化して僕が創出したものだ。

個人競技であれ、チーム競技であれ、最終的には1人で戦うアスリートたちの不安や悩みを聞き、その対処法を伝授したり、解決の方向性を見出すきづきを与えることで、試行錯誤するアスリートたちのさらなる飛躍を促す、というのが僕なりの解釈。

アスリート、特にプロの立場になると、選択の必要に迫られる機会が増える。そのたびに悩みや不安が増大する。

しかし、プロアスリート、特に常に状況が変化し続ける現代の選手たちは同じような立場を経験した人が少ない。それに加えて、それぞれの事案が非常に個別性が高く、守秘義務なども関係するため、周囲に相談できる相手がなかなかいないというのが共通の問題だった。

僕は今、42歳。40歳でプロサッカー選手となり、3シーズン目を迎えている。

そして、Jリーガーになるまでは、社会人としてたくさんの経験をし、さまざまな事業やプロジェクトで成功を数多く掴んできたという自負もある。

さらに、学生時代からプロサッカー選手をめざして真剣に競技に取り組んできたという経験もあるため、現役のJリーガーたちが悩むことや抱える課題も理解しやすい立場にいる。

そして、その解決策も、サッカー界を超えて一般社会での経験を踏まえて幅広く提案できる知見も持っている。

だから、悩めるアスリートたちに対して、〝スポーツメンター〟という名称で彼らを精神的に支え、壁を突破するきっかけを与え、大きくステップアップするための助言を行う活動をスタートすることを決めた。

スポーツメンターを始めようとしたきっかけは、僕が発信するSNSを見た選手たちからの相談が激増したことがきっかけだった。

最初は、チームメイトの若手選手たちだった。

食事の合間などに「そういえば、アビさんに聞きたいんですけど……」的な感じで相談を受け始めたところから始まったが、そのうち面識のない別のクラブの若手選手からSNSを通じてダイレクトに相談の打診を受けることが最近特に増えてきた。

彼らの悩みは大きな視点で見ると同じ根っこを持っていて、「次のステップにアップするために、今どうすればいいか」というものだった。

中には「サッカー選手として、よりレベルアップしたい」というアスリートらしい悩みの段階もあるが、それ以上に多いのは「1人の人間として、よりレベルアップしたい」というもの。

サッカーだけが人生のすべてでなく、サッカーと並行して自分の人間性を高めたいと考える選手や、現役を引退した後のことを今から考えて準備を始めたいという長期的視野に立って考えている選手たちが意外と多いことを、選手たちの悩みを聞くことで知った。

そして、彼ら(ほとんどの選手は所属クラブで主力として活躍するようなトッププレイヤーだ)の身近に、そういったことを気軽に相談できる相手がいないということも知ることになった。

サッカー選手は孤独だ。

普段はチームメイトと一致団結してチームの勝利をめざし、一緒に泥まみれになりながら練習をしているが、個々の立場で見るとポジションを争うライバル同士でもある。

そして、チームにいる指導者やスタッフは、あくまでサッカーの上達を促し、勝利に貢献するための環境や指導を提供してくれるだけで、人間性の向上やセカンドキャリアの準備のサポートをしてくれる環境は整備されていない。

だから、サッカー選手は、日々サッカーの練習をしながら、個人が自主的にそのことについて考えたり、解決策を見出さなければならない。

変な話、一緒にボールを蹴る仲間が、実際に幾ら稼いでいるのかお互い知らない。そんなレベルで人生についてやセカンドキャリアについてを深く話すことは非常に難しいのだ。

僕は42年生きてきて、たくさんの仕事を経験した。

それこそ、高校時代は卒業後にブラジルに行くための資金集めのために新聞配達をしたし、その後もいくつかサッカーとは関係のない仕事で少なくないお金を稼いだこともある。

ブラジルから帰国後は、Jリーグクラブで通訳の仕事をやったり、サッカースクールのコーチなど、サッカーに直接関わる仕事もたくさんやった。

その後はサッカーには関わるけれど、スポーツイベントのディレクションや新規事業の立ち上げ、アスリートのマネジメントなど、ジャージでなくスーツを着てネクタイを締める仕事がめいんとなっていった。もちろんそこでも高い評価とじゅうぶんな報酬も得てきた。

そこで得た経験や学んだことは、新卒後に1つの会社にずっと勤めているビジネスパーソンと比べると圧倒的に幅が広いことは間違いない。

さまざまな立場に立って指揮を執ったぶん、経験の高低差や深度も並大抵ではないという自負がある。

そして、そこで出会ったさまざまなタイプの人たちとのやり取りから、いろんな人間がいるということも学んだ。

失敗もした。騙されることもあった。しかし、そんな挫折を自分の力で乗り越えてきた経験値は現役Jリーガーの中でも屈指だという確信はある。

そんな多種多様な経験から得た経験や学びをもとに、若手選手たちの悩みを聞き、その解決策を一緒に探ることができる現役Jリーガーは、古今東西数えきれないほどのJリーガーの中でも僕くらいだろう。

唯一無二の存在として、若手選手のさらなる飛躍のサポートをすることで、愛してやまないサッカー界に恩返しがしたいという思いが、スポーツメンターを創出するきっかけとなったのだ。

僕には社会人経験が豊富だ。

しかし、それこそ世の中には社会人経験が豊富な人は星の数ほど存在する。

その中で、僕が〝特別〟なのは現役Jリーガーであるということだ。

基本的に、現役Jリーガーは部外者に対して警戒心が強い一方、同じJリーガーに対しては仲間意識が強い。

それは過去の経験に基づいたJリーガーの無意識に身についた処世術でもある。

現役Jリーガーたちは有名であり、若い頃から目立ってきたこともあって、いろいろな人が近寄ってきて、いろいろなことを耳元で囁やれた経験を持つ者も多い。

中には悪いヤツもいて「Jリーガーはお金を持っているだろう」と思い、怪しい投資案件を持ちかけたり、不必要に高い保険に加入させようとするセールスマンも存在する。

世間知らずで人を疑うことを知らなかった若い時に、お金の面で痛い思いをした経験を持つ現役Jリーガーもじつは少なくない。

彼らは、基本的に近寄ってくる大人に過剰に警戒する。それは、過去のそんな経験の影響なのだ。

だからJリーガーの多くはまだアマチュアだった学生時代のチームメイトや先輩後輩、そして同級生たちに絶大な信頼を置く。

それはまだお金を稼ぐプロサッカー選手になる前に仲良くなった素性の知れた仲間であり、若い頃から腹を割って話せる関係性を築いた同志だからだ。

同じ高校サッカー部出身者、特に名門と言われる強豪チームの出身者たちは、卒業しても先輩後輩関係なく頻繁に会い、親交を深め続けている。

一方で、Jリーガーになってから部外者と仲良くなるということは少ない。それは、そもそもサッカーとはまったく関係のない場所で知らない人と出会う機会が少ないということもあるが、彼らの警戒心がそうさせているのは間違いない。

その中で、僕は一般社会人としての経験が豊富であり、また同じJリーガーとして辛苦をともにしている仲間でもある。そんな二面性を兼ね備えた点が、若手選手にとって相談者として適しているのではないかと、僕は考えている。

話は戻って、お試しモニター版「スポーツメンター」の実施について。

僕はモニターを募集した際、特に条件や制限は設けず発進した。だからどんな人たちから連絡があるか予想がつかなかった。

しかし、実際は日本だけでなく海外でプレーする現役サッカー選手たちから真剣なメッセージがすぐに届いた。

定員をとりあえず5名に設定していたが、その枠は募集後すぐに埋まった。

勇気を出して応募してきてくれた選手たちは、全員過去に面識のない「はじめまして」の人たちばかりだった。

そんな選手たちは全員サッカーを仕事とし、もしくは仕事とするため、日々精進し、ボールを蹴り続けている若者たちだった。

応募者の状況を見て、僕は改めて「今のサッカー界には身近に相談できる大人がいない」ということ、そして「僕がスポーツメンターを始めるべき」だという思いが間違っていなかったことを再確認した。

今、スポーツ界には僕のような存在が必要とされている。それは僕の妄想でなく、現実だということに自信を深めたのだった。

(つづく)