前回、書いた中田英寿選手の本の制作のご縁で、その後も中田英寿選手に関するプロジェクトや企画にいくつも関わらせてもらうことができた。
幸運なことに、中田英寿選手自身が運営するメディア「nakata.net TV」や、彼が所属していた湘南ベルマーレ(当時はベルマーレ平塚)関連の企画に関わらせてもらう機会をたくさん得た。
今でこそSNSやYouTube、ホームページなどでアスリート自身がダイレクトにファンに向けて情報発信することは当たり前になったが、その始まりは「nakata.net TV」だった。
当時、中田英寿選手が所属していたイタリア・セリエAの試合中継を行なっていたスカパー!内で、中田英寿選手が企画し、自身も出演する番組として、「nakata.net TV」が放送されていた。
nakata.net (http://nakata.net)
現在も変わらずだが、当時から中田英寿選手自身が非常にアイデアマンで、それまでになかったプロジェクトをいくつも実現していた。
その代表的な企画が「nakata.net TV」だった。
もともとは、その頃登場した新しいメディアであるブログを活用し、新聞や雑誌など経由ではなく、中田英寿自身が書いた文章をファンにダイレクトに届ける新しい取り組みが最初だった。
中田英寿選手の新しいアイデアと取り組みが発展し、彼のための取材チームが撮影した動画を放送するといういまだかつてなかった素晴らしい番組が「nakata.net TV」だった。
まったく新しいプロジェクトを体験
番組の取材スタッフと親しくさせてもらい、イタリアでの取材も何度も同行させてもらった。
多くのメディアがスタジアムに行って遠くから取材するしかない中、彼のオフィシャル・メディアである「nakata.net TV」チームは中田英寿選手に密着し、独占インタビューなどをすることができた。
その取材現場は非常にエキサイティングで、とても勉強になった。
選手が、テレビや新聞などの媒体を通すことなく、自らファンに向けてダイレクトにメッセージを伝える。
この挑戦は革命的だった。
そんなエキサイティングな現場に参加できたことは、僕にとって最高の経験となった。
中田英寿選手の思考とスタンスから学ぶ
そんな中田英寿選手の固定観念を吹き飛ばすチャレンジに触発されて、それまでの「オファーを受けてから動く」のではなく、「まず自分が動き、その後で自分からオファーを出す」というスタンスを意識するようになった。
「こういう企画があるので、アイデア出してください」
という、これまでの流れに沿って「受け身」でいるのではなく、仕事になるかわからない、実現できるかわからないけれど、まずは自発的に動き、そこでアイデアや企画を見つけ、それをこちらから提案する。
その意識は、自分が出せるアイデアや企画の質が何段階も上がることにつながった。
このスタンスを維持することで、その後の自分が関わることができるプロジェクトの質や規模が一気に大きく変わった。
意識を変えるきっかけをくれたこと、「能動的スタイル」を身をもって教えてくれたこと、中田英寿選手には感謝しても仕切れない。
今回の教訓
企画やアイデアは、究極的には「オファーを受けてから考える」ものではなく、常に自分が先に出しておく意識が大切だ。
自分の中の興味や疑問、憤りや感動など、心が動いたことに対して常にアンテナを張り、「なぜ心が動かされたのか?」を自分の中で深掘りし続ける。
アイデアという宝石の原石をいくつも頭の中で磨き続ける。いろんな角度から光を当てたり、力を加えたりして、アイデアの原石の一番輝く切り口を探し続ける。
そして、急にお題を出された時に、頭の中にいっぱい転がっている原石の中から、最適なものを即答する。
人によっては「お題をもらわないとアイデアなんて考えられない」と思うだろう。
しかし、それは厳密には「お題」とは、頭の中にあるたくさんのアイデアの原石の中から、どれをチョイスするかをジャッジするためにあると考えるべきだ。
アイデアが先で、お題が後。
常にいろんなことに興味を持ち、「なんでだろう?」と思いながら生活する。
答えは出さなくていい。
ただ、頭の中で転がし、磨き、いろんな角度から眺め続ける。
そうすることで、アイデアを求められた時に慌てなくて済むし、頭の中のたくさんの原石の中からどれを選ぶかを考えるという一番楽しい瞬間を味わえるのだ。