第2回、第3回と、お仕事をさせていただいたサッカー選手関連の経験を振り返ったが、もうひとり忘れられない選手がいる。
柏レイソルや名古屋グランパス、そしてV・ファーレン長崎で活躍した玉田圭司選手だ。
引退後は昌平高校のサッカー部監督に就任し、夏のインターハイで優勝を飾るなど、指導者としても実力を発揮。
今シーズンから古巣名古屋グランパスのコーチとして、新たなチャレンジをスタートしている。
現役時代、サッカー日本代表としても数多く出場、ドイツ・ワールドカップでブラジル相手に決めたゴールが非常に印象深い日本を代表する名ドリブラー。
そんな彼とは柏レイソル時代に知り合い、名古屋グランパスに移籍後は特に親しくさせてもらった。
きっかけは、彼の本の制作に携わったことだった。
もともと面識はあったが、特別親しいというほどでもなかった。
けれど、当時彼が所属していた柏レイソルから「玉田圭司選手の本の出版のオファーがあるので手伝ってもらえないか」と声をかけられたところから関係性が深まった。
もともと柏レイソルとは、公式イヤーブックの制作を数年担当させていただいた縁でとてもよくしていただいていた。
そこで、人気が爆発し、チームの顔になりつつあった玉田圭司選手の本を作るとなった際、クラブ関係者から制作協力の打診をいただくことになったのだ。
その時はあくまでクラブからのオファーであり、玉田選手本人からの希望ではなかった。
所属クラブだけでなく日本代表としてもプレーする多忙の中、制作に与えられた時間は限られていた。
普通の本の制作ではあり合えない無茶苦茶な時間制限に加えて、玉田圭司選手自身はそれほど乗り気ではないという状況に、クラブ側も出版社も「本当にできるのか……」という雰囲気の中、玉田圭司選手とのやりとりは始まった。
その当時の僕は、通常ではあり得ない時間制限の中で企画を実行したり、何冊も本を制作したりしていたので「なんとかなる」とは思っていたが、結果はそれ以上に良好なものとなった。
その後、玉田圭司選手は名古屋グランパスに移籍したが、本の制作以降もとても親しくさせてもらうことができたのは、玉田選手の仁義深い人柄はもちろんだが、厳しい条件の中でミッションを完遂したことも評価してくれたのかなと思っている。
今回の教訓
アイデアや企画の発想自体はもちろん大事だ。
みんなが思いもよらなかった相乗効果が期待できるアイデアを出すことができれば、多くの人にとって良い効果をもたらす道筋ができることになる。
けれど、発想だけでは「企画」段階で終わってしまう可能性も多々ある。
アイデアや企画が形になるための「場」を手に入れなければ、発想は「夢想」で終わってしまう。
企画を制作し、プロデュースができるところまで持っていくためには、実現の「場」を生み出す、作り出す必要が不可欠だ。
自分だけでできることもある。
時には、賛同者を集める前に、自分で全部抱えて見切り発車することも大事だ。
けれど、せっかくのアイデアや企画なら、できるだけ多くの人を巻き込んで、大きな成果を生み出せる「場」を持てた方が自分の「思い」を大きな形にしやすい。
その「きっかけ」は普段の生活の中でも至るところに転がっている。
それを見つけるか、それに自分を見つけてもらうか。
改めて振り返ると、アイデアや企画を実現するためには、なにより「縁」というものが大切だということを実感する。
自分だけでもやろうとする姿勢は重要だ。
その上で、「縁」が集まってくると、アイデアや企画の実現のチャンスが数倍広がっていくことを、これからも忘れないようにしたい。