プロサッカー選手に必要なセカンドキャリア設計について

2025.4.16

伊部塁 「人生再構成」BLUEPRINT代表

ピッチの上では、自分の存在価値を証明する方法が確かにあった。

ゴールを決める、仲間にパスをつなぐ、守備で身体を張る――そこに確かな「正解」があった。しかし、引退後の人生には、その正解がない。

プロサッカー選手が現役を終えたとき、多くの人がぶつかる「セカンドキャリア」という壁。その壁の高さは想像以上に高く、険しい。

1.30代で「新しい仕事」を始めるという現実

多くの人が社会人としてようやく安定する30代。しかしプロサッカー選手にとっては、まさに「次のキャリアをゼロから始めなければならない時期」だ。

これまでボールを追い続け、プレーに集中していた人生。それが突然、営業、企画、経営、マーケティング、起業…まったく未知の分野に飛び込む必要が出てくる。

何ができるか分からない。自分の強みが分からない。社会のルールも分からない。

しかもその不安を抱えるのが、30代、もしくは40代という、「周りがバリバリとキャリアを積んでいる」時期であることが、より不安を増加させる。

 

2.プレー以外でお金を稼ぐ難しさ

「ただ、好きなサッカーさえやっていればよかった」

この言葉に象徴されるように、プロとしてのキャリアを築けた選手たちは、極端に言えば“プレーすること”だけで価値を発揮できた。それはとても誇るべきことだ。

しかし、引退後、待っているのは「プレー以外で価値を提供し、対価を得る」という全く別のステージだ。

言い換えれば、自分の言葉、行動、知識、姿勢が「お金に変わる」かどうかを、厳しく問われる世界だ。

例えば、トークイベントで話す、ジュニアの指導をする、企業で働く、ビジネスを立ち上げる――どれも「自分を伝える力」と「相手に貢献する力」がなければ成立しない。

 

3.「チームが守ってくれる環境」の喪失

現役時代、チームという存在が、いわば「後ろ盾」になってくれていた。契約を交わした後は、専門のコーチやスタッフがいて、プレーに専念できるよう細かいマネジメントもしてくれた。困ったことがあれば相談できる人がいた。

でも、引退した瞬間、その鉄壁のシールドは消えてなくなる。

自分の価値は自分で生み出すしかないし、自分の身は自分で守らなけければならない。

個人事業主として、フリーランスとして、あるいは一人のビジネスパーソンとして「自分の足で立つ」ことが求められる。

孤独との戦い。決断の連続。これは想像以上に過酷だ。

 

4.正解のない「人生のゲーム」で勝ち続けるということ

サッカーにはルールがある。点を取れば勝ち、失点すれば負け。監督がいて、フォーメーションがあり、役割がある。

だが引退後の人生には、それがない。

どんな仕事を選ぶか、誰と組むか、どんなスタイルで生きるか。その答えは人によって違うし、常に変わる。

しかも、結果が出るまでに時間がかかる。成功の尺度も曖昧だ。ゴールラインすら見えにくい。

この「正解のない戦い」の中で、モチベーションを維持し、行動し続けることこそ、真のメンタルタフネスが求められる。

 

5.収入が突然ゼロになるという現実

契約が切れたら、いきなり収入がゼロになる。それがプロの厳しさだ。

「引退後、収入源がない」という状況に直面したとき、焦りから判断を誤る人も少なくない。

知人に誘われた事業に手を出して失敗、投資で損失、セカンドキャリアの迷走…。そんな情けないことにはなりたくない。

だからこそ、現役のうちから「収入の柱」を準備しておく必要がある。

 

だからこそ、現役中に“種”をまいておこう

現役中にはなかなか実感できないが、現役の時間は限られていて、「引退後の時間」はその何倍も長い。

人生100年時代。プロサッカー選手として20年プレーできたとしても、人生100年だとすれば、引退後も人生は60年続く。

だからこそ、今のうちから“種”をまいておくことが大事だ。

小さな仕事の経験でもいい。知識を学ぶでもいい。ビジネスを手伝ってみるのもいい。副業でも、ボランティアでもいい。

大切なのは、「自分にはサッカー以外にも価値がある」と実感できる体験を、現役中から積んでおくこと。

そして、それをきっかけに「自分らしいセカンドキャリア」の設計図を、少しずつ描きはじめること。

サッカー人生は、尊い。でも、それがすべてではない。

引退は「終わり」じゃなく、「新しい勝負の始まり」だ。