形式に選手が合わせるのではなく、選手ファーストに合わせた新たな形式の導入を
決勝戦を残すのみとなった「第101回全国高校野球選手権大会」。これまで酷暑の中で行われてきた夏の甲子園だが、今年の大会は後年「大きなターニングポイント」と呼ばれる大会になるかもしれない。
予選大会では、メジャーリーグ球団も注目する超高校生ピッチャーを決勝戦で温存した結果、甲子園出場を逃したことに大きな注目を集めた。未来あるピッチャーの体調を考慮して決断した監督への批判が巻き起こり、現役選手らも交えた賛否両論の意見が飛び交った。
そして全国大会。これまでの絶対的エースが1人で全試合を投げ抜く〝甲子園スタイル〟から、複数のピッチャーを併用して1人だけに負担をかけない新しい〝令和式〟の甲子園スタイルを採用したチームの上位進出が目立った。
高校サッカーでも夏休み期間にインターハイという高校生にとって重要な公式戦が行われるが、今年は夏の沖縄での開催に大会前からさまざまな意見が噴出した。現役の強豪高校の監督らからも、この時期の公式戦の開催、そして連戦が当たり前となっている大会形式に警笛を鳴らす声が多く上がった。
これまでも「夏の高校生スポーツ」は感動的な場面を多く生む陰で、表には出ない悲劇も数多く引き起こしてきた。そしてそのたびに改善の声が上がってきたが、それでもなかなか変わることはなかった。だが今夏はもっとも注目を集める高校野球が「変わること」を選択した。
小さくとも革新的なその変化を生んだという意味で、今夏はスポーツ界にとってターニングポイントとなったと言えるだろう。しかし、これはあくまで各チーム、各指導者が選手ファーストの意識による改善であり、組織全体、社会全体の改革はまだ未着手と言える。
高校生にとって、夏の甲子園でプレーすることは何物にも変えがたい夢舞台だ。その夢を叶えるためにある程度の犠牲を伴うことは仕方がないという諦めを捨て、真の意味での選手ファーストにするためにはどうすればいいだろうか。
高校時代は選手として、そしてかつては指導者として、公式戦上位進出を目指して何度も夏を過ごした経験を持つ安彦考真選手に、自身の経験をもとに、現役Jリーガーとして「夏の高校生スポーツ改革」についての意見を聞いた。
安彦考真のリアルアンサー
2019年8月21日
形式に選手が合わせるのではなく、選手ファーストに合わせた新たな形式の導入を
Y.S.C.C.横浜
安彦考真
僕が四季の中で好きなのは、子どものころからずっと夏だった。しかし、40歳になってからJリーグというプロの舞台で戦う今の僕にとっては、夏が一番の強敵となっている。
水戸ホーリーホックでプレーしていた昨夏は、コンディショニングコーチがWBGT(「暑さ指数」と呼ばれる環境省が発表する熱中症予防のための「湿球黒球温度」)を毎日細かく確認し、31度を超えていたら練習量をコントロールするという対策が取られていた。
そのほかにも最新の科学や設備をできる限り取り入れ、体調面を最優先した配慮で夏の練習は行われていた。それでもやはり夏の練習はきつかった。
そしてより厳しい暑さが報道される今夏。練習は主に午前中とはいえ、日差しと湿度は凄まじい。
それに加えて、水戸の練習場は天然芝だったが、今夏、僕がプレーするY.S.C.C.横浜の練習場は人工芝だ。強烈な日差しとその照り返し、そして熱がこもった人工芝からの熱気は、35度を超えることもある外気温をゆうに5度以上は上回っているように感じる。(人工芝自体の温度も60℃を超えると言われている)
尋常じゃない汗の量で体力も気力も奪われる。ときには暑いのに鳥肌が立っていることがある……もはや熱中症だな、これは(笑)。
だからずっと大好きだった夏が、今は嫌いだ(涙)。
さて、本題に入ろう。
高校野球や高校サッカーのインターハイといった公式戦が行われる夏休み期間。多くの人が高校生の夏の戦いに熱狂し熱中し夢中になる。
特に甲子園はスポーツという競技性の枠を超えたエンタメ要素が満載だ。(一方の高校サッカーのインターハイは、個人的にはエンタメ要素が皆無だと思う……)
甲子園を見て勇気をもらった人も多いだろう。ここから多くの野球選手を輩出していることを考えると、甲子園という価値が選手の能力を引き出すアイテムにもなっている気がする。
それはインターハイも同じだ。そこに出場するために選手は全身全霊をかけている。僕もかつて指導者としてインターハイに2度出場しているので、その想いや努力を間近で見てきた。
甲子園もそうかもしれないが、高校サッカー部員にとってインターハイという大会は、大学進学の可能性を掴むリクルーティングの場でもある。現に、横浜FCで活躍する中山克広はインターハイで目をつけられ大学へと進学した。
当時、彼を指導していた僕にとっては、インターハイ出場が大きなポイントになっていたと言える。
ただ、本当に日本で一番暑いこの夏という季節に大会を行う必要があるのか。
しかもインターハイはまさかの3連戦(試合時間は通常90分のところ70分となっているが)。サッカーの場合、試合から次の試合まで最低でも48時間空けないといけないというFIFAのルールがある。夏の連戦は、熱中症だけでなく、ケガにもつながる危険がある。
それでもインターハイに出場することは、高校サッカー部の選手にとって一つのステイタスになっているので、指導者も選手も保護者も、選手自身の未来よりインターハイの出場にすべてをかけているという一面があることは否定できない。
その結果、選手は自分の体調不良やケガを指導者に隠し、無理して戦うようになる。
指導者も言葉ではな「無理するな」というが、その選手が勝利に必要な場合、選手の意思を尊重したと言って、無理をさせるケースは少なくない。そこでサッカー選手としての将来を棒に振ってしまう選手もいる。
これらのことを考え、僕なりの改善策を提案したいと思う。あくまでも、これは僕の個人的な意見だと思ってもらいたい。
①夏の連戦廃止。
②時間帯は夜開催。
これをやるだけで一先ず選手の負担は解消できる。
問題は、グランド確保や宿泊費、滞在費の負担が増えるという点が考えられるが、例えば、大会に参加する全チームが一律で同じ金額を払い、そのプールしたお金を勝ち上がるチームのサポートとして使う。その代わりに、勝ち上がったチームは初戦敗退チームと練習試合を組む。
例えばそういった双方にとってプラスになるような新たな仕組みを取り入れてもいい。「選手ファースト」で考えるならば、決して大きな負担ではないと思う。
もしくは、全出場校がクラウドファンディングをして資金を募り、負担額をそこで賄う方法もある。
もちろん簡単なことではない。それでも、実際にクラウドファンディングを何度か行って成功した経験をもとにいえば、高校スポーツのクラウドファンディングを成功につなげる秘訣はある。
クラウドファンディングというのは、ただの資金集めではなく、誰に支援をしてもらえるかという普段からの信用、信頼が重要になる。だから、高校スポーツで取り入れるなら、例えば強豪校が普段から地域還元として子どもたちにサッカースクールをしたり、老人ホームを訪問して福祉に協力したりすることで、信用や信頼につなげる。
またこれは同時に、高校のプロモーションにもなるという副産物も生む。そして一番の副産物は、生徒がサッカー以外のことを体験できる機会にもなり、社会に出るための体験学習にもなることだ。僕は、クラウドファンディングを取り入れることは、良い連鎖が生まれる可能性を秘めていると確信する。
もちろん、いくら強くても地域やクラスメイトから信頼されてなければ、資金は集まらないから、普段からサッカーの練習以外でどんな生活を送っているかが何よりも大切になる。そういう面でも、高校生の意識改革を促すきっかけになるということも考えられる。
選手ファーストは、選手自身も自ら動くことで成り立つ、教育の一端を担っていなければならない。僕はそう考える。