安彦考真「人生の先輩から20代に向けてのリアルアンサー」12
ブルーインパルス、都心ど真ん中を初飛行 医療に感謝
(朝日新聞より)
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200529001998.html
ブルーインパルスを飛ばすことに意味はあったのか?
安彦考真
2020年6月12日
5月29日、航空自衛隊のブルーインパルスが東京の都心上空で編隊飛行を行った。
「ブルーインパルスを飛ばすのは医療従事者への感謝と敬意だ」と河野太郎大臣は言っていたが、僕個人は都庁やスカイツリーを青く点灯させるのと同じことだと捉えている。
僕が常々こういうムーブメントがあるときに思うのは「当事者(今回の場合は医療従事者)の方々は本当に喜んでくれるのか?」ということ。
少し前に大流行した「アイス・バケツ・チャレンジ」も同様だ。
これを不特定多数の人たちがSNS上で伝播させていくことで、伝えたい先(この場合は筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究関係者)の人たちはそれを知ってどう思っていたのか。
他にも、このコロナウイルス感傷患者の治療に従事する医療関係者を応援するという趣旨で、SNSでバトンタッチが広がった「プッシュアップ・チャレンジ」なども同じだと思う。
そもそも「プッシュアップ・チャレンジ」は、アメリカの退役軍人を激励するために始まったものらしい。それを今回どういう経緯かきっかけかはわからないが、日本でもバトンタッチリレーが一部の人たちの間で広がっていた。
そんな経緯を見ても、何かの啓蒙のきっかけとして実施されるイベントの多くは、その内容自体に深い意味はないはずだ。
今回のブルーインパルスの件も飛行したこと自体に直接の意味はない。
では、やること自体にも意味はなかったのだろうか?
僕自身、このようなことをやることが無駄だとは思っていない。何もしないまま無関心でいるより「何かしたい」と行動に移すことはとても大事だと思っている。
しかし、単純にやっている側の自己満足で終わってないだろうかと考えることがこれまでも多かった。
「それ自体に意味はあるのだろうか?」
これまでは、いつもこの問いかけが僕の頭の中を占めていた。
そして、今回、防衛大臣の指示のもと、東京都上空にブルーインパルスが飛行した。
その姿を見て、僕の中で1つの答えが出た。
「意味はある」と。
ただし、この結論には注釈がつく。
これらのことをやっても、直接的に伝えたい人たちに勇気を与えたり、大変さが軽減されるということではないということは紛れもない事実だということ。
それを前提に、それでも僕が「意味はある」と考えるのはなぜか。
それはブルーインパルスが飛ぶことで、またそのニュースを見ることで、これまでほとんど当事者意識を持っていなかった人たちの中で、医療従事者のことを考えたり、日本のことを考えたりするきっかけを提供している可能性があると思うからだ。
僕らは自分の周りで起きていることを他人事と捉えてしまうことが多い。
それを何かわかりやすい象徴的なイベントを起こすことで「他人事」を「自分ごと」に変え、当事者意識を持たせる効果は相応にあるのではないかと考える。
「ブルーインパルスを飛ばすことにそんなお金を使うなら医療従事者に使え」という批判もあるようだ。
しかし、そんなふうになんでも批判的に考えてしまう人は、直接的な効果だけでなく、一見遠回りに見えるが、薄く広く効果を導くというやり方もあるという視点を持つべきだ。
医療従事者の方々が自身が感染するリスクを負ってまで最前線で戦ってくれているのは「仕事だから」ということより、医療に関わる人としての使命感や信念に基づいていると思う。
そんな尊い信念や使命感に対して、現時点では治療を受けていない多くの人たちも「自分ごと」として感謝の念を贈るという意味で、わかりやすい話題になりやすいイベントを実施するという意図であったとすれば、今回のブルーインパルスの件は成功の部類に入ると感じる。
僕らが忘れてしまっている大事なこと。
それを最前線で働く医療従事者の方々が命をかけて戦い続けてくれているということ。
そして、彼ら彼女たちの頑張りが防波堤となり、僕たちが感染する可能性を軽減してくれているということ。
そういったことをブルーインパルスの一件から、国民全員がもう一度しっかりと考え、個々ができる最善の感染予防対策について気を引き締め直すことが重要になる。
大事なのは、ブルーインパルスを飛ばすことの是非やその費用についての議論ではない。
僕らが自粛するなどしてコロナウイルス感染を回避している最中も、危険な現場で日々コロナウイルスと対峙し戦っている方々がいるということを認識し、その上で自分たちにできる最大限の努力をしなければいけないということを再認識すること。そして徹底し続ける気持ちを継続すること。
僕らはこの非常事態の現実とどう向き合い、何を考え、どう行動するのか。
ブルーインパルスの飛行は、まだ危機は続いていることを思い出させるを与えてくれていると僕は感じているし、そう捉えるようにしている。
どんなことでも、当事者になったつもりで起きている現象を捉える意識を持てば、僕らは相手を思いやれることができるはずだ。
ブルーインパルスが空を飛んでいるのを見た感想ではなく、その背景に何があるのかを考え、国民1人ひとりがその根底にあるメッセージに対して想いを巡らせることが大切だ。
まだまだ余談を許さぬ状況だが、コロナ前の生活はもう戻ってこない。
「コロナ以後の世界を自分はどう生きるか?」
それを考えるきっかけを国民の多くに広められたとしたら、今回の件はじゅうぶん意味はあった。
僕はこのニュースを見てそう考えた。