アラフォーからの舞台&ミュージカル鑑賞
ミュージカル「エビータ」
2018年7月23日(月)
昔から好きだった。ちょくちょくは気になる作品は観に行っていた。けれど、映画と違い、舞台やミュージカル、特に人気の演目は前もってチケットを予約確保しておかなければ、上演が始まってからでは「観たい」と思いついても観れないことが多い「事前の入念な計画が必要となる」趣味だ。
ミュージカル「レ・ミゼラブル」に感動し、ロンドンではクイーンズシアター劇場で本場の「Les Misérables」を鑑賞したし、ニューヨーク・ブロードウェイでは「キャッツ」や「ライオンキング」も鑑賞した。けれど、そういった海外出張のついでに観る舞台と違い、日本でのミュージカル&舞台鑑賞は初心者には敷居が高いと感じさせる何かがあった。
アラフォーとなり、時間とお金をかけて何かに没頭したいと考えた時、改めて「しばらくは舞台やミュージカルを観まくるぞ!」と決意。時に開演の半年以上前、チケット発売初日にほとんどの作品のチケットを予約しまくった。そして2016年から最低週1回ペースで舞台やミュージカルを観まくる日々を続けている。
これは何の基礎知識もない、ヲタクでもない、舞台&ミュージカルのアラフォー初心者が綴った鑑賞日記だ。ここから学べることは1つ。「アラフォーになってからも趣味は始められる」ということ。
さあ初心者だからこそ書ける見当違いかもしれない舞台&ミュージカル鑑賞記録を始めよう。
ミュージカル「エビータ」
2018年7月23日(月) 開演時刻:14:00
劇場:東急シアターオーブ
座席:S席 1階8列
購入先:ぴあ
チケット代:計 14,338円
<スタッフ>
作詞:ティム・ライス
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
演出:ハロルド・プリンス
<出演>
エヴァ・ペロン:エマ・キングストン
チェ:ラミン・カリムルー
ホワン・ペロン:マーク・リチャードソン
マガルディ:アントン・レイティン
ミストレス:イザベラ・ジェーン
エヴァ・ペロン/アンサンブル:LJ・ニールソン、ダニエル・ビトン
EVA : Emma Kingston
CHE : Ramin Karimloo
PERON : Mark Richardson
MAGALDI : Anton Luitingh
MISTRESS : Isabella Jane
今年一番の暑さと報道された炎天下の中、一番暑い時間帯の渋谷に向かう。渋谷ヒカリエの上階に位置する東急シアターオーブは基本、海外アーティストによる名作公演がメインの劇場で独特の雰囲気を持っている。
例えば、東急シアターオーブと帝国劇場は客層の雰囲気がなんとなく違う印象がある。
シアターオーブが東急っぽいとすれば、帝劇含めた日比谷は阪急っぽい? 少しタカラヅカの雰囲気がする日比谷に比べて、東急は綺麗にパッケージされた舶来物セレクトショップの匂いがする(悪い意味でなく)。どちらにしても、渋谷駅前にそびえる真新しい高層ビルの中の、すぐそばの猥雑な渋谷スクランブル交差点の雰囲気とは縁遠い、古き良きものを愛する落ち着いた雰囲気を持つ人たちが集まる場所だ。
今回の座席は前から8列目の上手ブロック最中央寄りの端の席。自分の席の舞台中央側(つまり左側)が通路で人がいないし、舞台上上手側に設置してある翻訳電子掲示板も首を振らずに視界に入れやすい。自分的にはベストポジションだ。
東急シアターオーブの観客席の作りは、8列目まではフラットで、その後、1列ごとに段差がついている。つまり1列目から7列目までの席は段差がないので、もし予約の際、7列目と8列目が空いていれば、「少しでも前の席を予約しよう」と思うより、8列目以降の方が見やすいということに気づいた。次回からの座席指定予約の際の備忘録にしておこう。
「エビータ」はアルゼンチンを舞台にした大人気ミュージカルで、ペロン大統領夫人のエヴァ・ペロン(愛称エビータ)が田舎の貧乏生活から成り上がり、ついには一国のNo.2(大統領夫人でありながら副大統領に立候補した)にまで上り詰めたサクセスストーリーがベースだ。
当時のアルゼンチンは、それまでの輸出による好景気が大戦によって一変し、不況のどん底に陥っていた。民衆の不満が高まり、政治不信が巻き起こる中、庶民の味方となる政策を唱えたペロン大統領と、貧乏な庶民階級から大統領夫人にまで成り上がったエビータの2人を民衆たちは歓迎し、特に貧乏な下層階級向けの福祉政策に力を入れたエビータに民衆は熱狂した。
しかし作品の中では、エビータを決して清廉潔白な聖人として祭り上げるわけではなく、成り上がるまでの権力ある男性に擦り寄ることでステップアップしていく生々しい様や、福祉政策のための資金を自身の美や生活に流用する不正の様子も垣間見せることで、エビータの泥臭い人間的魅力をより引き立たせている。
ラミン・カリムルー
「レ・ミゼラブル」ウエストエンド公演とブロードウェイ公演でジャン・バルジャン役を演じ、トニー賞主演男優賞にノミネート。2007年にウエスト・エンド史上最年少の28歳で名作「オペラ座の怪人』」の主役に抜擢されるなど、アンドリュー・ロイド=ウェバーの作品に多く出演。「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」「オペラ座の怪人25周年記念公演」でも主役を演じた。2010年の「レ・ミゼラブル25周年記念コンサート」のアンジョルラス役、2011年の「オペラ座の怪人25周年記念公演」のファントム役など、出演多数の超人気俳優。
海外トップアーティストによる圧倒的な表現力
海外のミュージカル公演ツアーは例外なくその出演者たちのレベルが半端なく高いが、今回のエビータ役の女優エマ・キングストン、そして物語の進行役となるチェ役の俳優ラミン・カリムルーの歌唱力が半端なく高い。
主役を演じるエマは今回、初のエビータ役を務めるらしい。今回の海外公演に向けてアンドリュー・ロイド=ウェバー自らがキャスティングしたという彼女は、低音でも声量が衰えることなく安定感があり、技術的には(当たり前だが)ピカイチ。加えて、エビータとしての栄光の裏にある自身の血筋の悪さに対する後ろめたさを感じさせる自信と哀しみの両面を1つの歌唱で同時に見せる圧倒的な表現力は、日本のミュージカルではなかなか見れない高いレベルで心の琴線を一気に揺さぶる強烈なパワーを持つ女優だ。
また場面場面で状況やバックグラウンドをセリフの中でさりげなく伝え、ストーリーを展開するチェ役のラミンは、歴代名作ミュージカルで主役級を長年務めた経験と表現力が圧倒的で、「やはり世界のトップクラスで活躍し続ける俳優とはこういう人を指すのだろう」と思わせる存在感が素晴らしかった。
ただ、あくまで主役はエビータ。チェはそのサクセスストーリーの進行役がメインでもあるので、自身が飛び抜けて目立っては作品が台無しになる。自身の魅力が消えすぎず、かといって主役を食うほど出過ぎず、の塩梅が最高レベルに高いバランスで発揮できるところが、超一流俳優の技と経験なのだろう。
この「エビータ」の特徴は、全体的に史実に基づいた構成で、名作ミュージカルには不可欠なロマンスや青春シーンといった定番のエッセンスはまったくない。さらにはミュージカルには必須の主人公の成長物語という雰囲気もほとんどない。
最初から最後まで、向上心、権力欲の強いエビータが成り上がること、自身の欲望を叶えることに燃えて走り続け、最後には燃え尽きる……までを追った物語というのが少し特殊な作品のように感じた。
それでも、そんな主人公の内面の成長はあまり感じられなくても、周囲の環境が最低から最高に変わっていくごとに、主人公の内面が単なる一直線の上昇志向から人間らしさを見せていく変化が面白さでもあるように感じた。
本気で成り上がりたければ、かっこ悪さを気にしてはいけない
この舞台の一番有名であり、クライマックスとも言えるのがペロン大統領就任演説時のベランダ越しのエビータの演説シーン。「私のために泣かないで、アルゼンチン」はミュージカルソングとしても超有名で、印象的な素晴らしい名曲。
この名曲はミュージカル界の巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバー関係のコンサートなどでも必ず歌われる超定番曲だが、やはりストーリーの中でエビータの格好をした女優がベランダの上から歌う場面を見ると、その感慨深さも何倍にも感じられた。
この歌はただうまく歌えばOKというものではなく、人間くさいエビータの心の声でもあり、民衆の心を掴むための演出がかった扇動曲であり、しかしどこかエビータの本音も混じった切なさも感じる曲で、やはり作品の中のクライマックスで聞くと、歌の良さが何十倍にも増して感じるということを今回実感した。
権力欲を隠さず、15歳で成り上がるという人生目標のために積極的に動き始め、人をたらし込み(権力者に取り入り)、26歳で大統領夫人にまでのし上がったエビータ。親なし、コネなし、金なし、手に職なし、の無い無い尽くしのスタートから、たった11年で国の最高権力者のパートナーにまで上り詰めたアルゼンチンドリーム。
既存の権力層や金持ち層、古くからの政治家たちからはやっかみや陰口を叩かれながら、自分の欲を隠すことなく、自分が目指すポジションまで一直線に駆け上がったエビータを見て、「やりたいこと」「夢」がある人は、コツコツなんて考えるよりも、もっと恥を捨て、使える権力者をに擦り寄り、気に入られて一気に引っ張り上げてもらうという考え方や生き方もとても大事ではないかと感じた。
どうせ上り詰めたら批判は受けまくる、だったら手段や過程は気にせず一刻も早く上がれる手段を選ぶ。そして上り詰めてからの行動で、批判を評価に変えていくーーエビータのように……。
エマ・キングストン
主な出演作として「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役、「屋根の上のヴァイオリン弾き」のホーデル役など多数出演。今回の「エビータ」日本公演で、アンドリュー・ロイド=ウェバーから直接エヴァ役にキャスティングされた。