日本に住むブラジル人がサッカーを諦めざるを得ない理由とは?

2020.4.13

安彦考真

安彦考真「教育」プロジェクト<移民たちのリアルリサーチ>第3回

「サッカースクールW5 SPORTS 愛川町」ホームページより(https://www.w5sportsjp.com

 

「安彦考真×ブラジル 移民と教育を考えるプロジェクト (仮)」

第3回 安彦考真の取材リポート

 

「愛川町の少年サッカーコーチから聞いた子どもたちのリアル」

 

前回(http://www.livest.net/real/4767.html)、愛川町役場に訪問したが、その際に出会った岩根さんからブラジル人サンバダンサーのヘナータを紹介してもらった。

早速、彼女と連絡を取り、「愛川町に住む南米系移民の子どもたちがどうサッカーと向き合っているのか知りたいんだけど」と相談を持ちかけた。

僕の相談を聞いたヘナータは、すぐに愛川町にある「W5」というサッカースクールでコーチをしているダニエルを紹介してくれると言って、会うセッティングをしてくれた。

 

みんなで集まった場所は、以前(http://www.livest.net/real/4743.html)も少し紹介をしたブラジルレストラン「Nays RestoBar」。

そこには、ヘナータとダニエルがいた。そして彼ら以外にもW5のコーチ人がわざわざ集まり、僕のことを待っていてくれていた。

 

初対面にもかかわらず、簡単な自己紹介だけで一気に打ち解けることができたのは、僕が大好きなブラジル人特有のノリの良さのおかげ。

そして、僕がポルトガル語を話し、ブラジルで暮らしていた経験があること、そして現役のプロサッカー選手であることが、彼ら彼女らに受け入れてもらいやすかったのかもしれない。

早速、僕のブラジルでの経験談を話したり、そこに少し笑いを入れることで、彼ら彼女たちとは一気に距離感は縮まった。

「Nays RestoBar」にて。手前左がヘナータ、右奥がダニエル

 

そこで本題に入った。

「そもそも僕がこうしてダニエルに会いに来たのは理由がある」と切り出し、僕が取り組んでいる「移民問題」をできるだけわかりやすくポルトガル語で伝えた。

その上で、「何故、日本代表にブラジル人ハーフがいないのか」という疑問にもぶつかり、その背景には社会システムの問題などもあるのではないか、と考え、実際に目の前で子どもたちを教えているコーチはどう考えているのかを聞いてみたかった。

すると、それまで笑顔が絶えなかったダニエルの顔が少し厳しくなった。そして静かに、けれど感情のこもった口調で、今彼らが実際に抱えている問題を話してくれた。

 

ひとつ目は、少年サッカースクール「W5」の運営を通じて感じる交わることの難しさ。

W5には多くの外国籍の選手がいる。もちろん、そこには日本人の子どももいるが、大半は外国籍だという。チームの大多数を占める外国籍の子どもがJFAへの選手登録ができず、その結果、チームとしての活動範囲が限られてくるとのこと。

また、W5は小学生クラスしかないので、中学生になると地元の中学校の部活動に所属するしかプレーする選択肢がない。

中体連が管轄する公式戦や行事では外国籍の選手の人数制限がないので問題ないが、JFA管轄の公式戦や行事になると、彼ら彼女たちには大会出場の資格がなくなってしまう。高い目標を見据える選手ほど、この大きな壁があることを知ることで、どうしてもやる気を持続することが難しくなってしまう状況に陥るという。

親が日本国籍を持っていない限り、いくら日本で生まれても日本人にはなれない。その結果、移民の子は移民のまま在留資格が与えられるだけになる。

「『労働力としては認められるが、国民としては認められない』という現実を受け入れながら生きている」と彼らは口にしていたが、それはそんなに簡単ではなさそうだ。

ダニエルはブラジル人。奥さんはフィリピン人だ。

二人の間には子どもがいる。その子は、日本国籍を持っていないが、現在は大学に通っている。

一方、サンバダンサーのヘナータはブラジル人で、旦那さんは日系ブラジル人。子どもの国籍は日本ではなく、ブラジル人とのこと。父親が日系人の場合、その子どもは日本国籍にはならないようだ。

 

ヘナータは息子がいじめにあったりすることがある、と言っていた。一方、ダニエルの方は一度もいじめあったことがないという。

その違いは、子育てをする上で、日本式を取るか、自分たちの母国式を取るかということがポイントのようだ。

ダニエル家は幼稚園から日本式で育て、家庭環境も日本を選択したとのこと。ヘナータは旦那さんが日系人ではあるが、育て方はブラジル式。その結果、日本で馴染めない部分もあったようだ。

このように、家庭環境と学校での環境のギャップが生じることで、そこに嫌がらせや偏見が生まれてしまうことがあるようだ。

しかし、これはどちらがいいという問題ではなく、社会と共存していくには、どのように子どもの未来を捉え、何を選択するが重要である。

子どもたちはJリーガーになりたいという夢があるそうだ。W5のスタッフもそんな選手を育てたい想いが強くあるようだ。

しかし、現状では日本のサッカーシステムの中に入り込めていない。これはJFAだけの問題ではなく、移民をどう捉えていくかという国の問題でもある。

W5の活動が始まったら直接子どもたちと触れ、夢や希望、弊害や障害を聞いてみたいと思う。それまでに、群馬の大泉や、静岡の浜松などで、今この現状で困っていることなどを調査してみたいと思う。

コロナウィルスが色々なことを制限しているが、僕らの思考は制限されてはいけない。ベストを追求することが難しい現状だが、こんな状況でも諦めることなくベターをめざして数多く行動に移したいと思う。

「サッカースクールW5 SPORTS 愛川町」ホームページより(https://www.w5sportsjp.com

 

 

第1回はこちら→ http://www.livest.net/real/4743.html

第2回はこちら→ http://www.livest.net/real/4767.html