常識の壁の向こうに本物はあるのかもしれない

2019.5.31

livest!編集部

映画「キングダム」を鑑賞して(エンタメ観劇記録)

上質なエンタテインメント観劇やスポーツ観戦、アート鑑賞から人生を豊かにする教訓を探るlivest!流エンタメブログ

中国春秋戦国時代を舞台にした原泰久のベストセラー漫画日本映画としては破格のスケールで描かれた大ヒット漫画を映画化した「キングダム」。

そのスケール感の一番の源泉は予算や登場した騎馬戦士たちの数だけでなく、日本を代表するクリエイターたちが集結して製作された点にある。

史実に基づいたストーリーでありながら漫画ならではファンタジーの要素もあり、そのフィクションのさじ加減は細心の注意が払われた印象だが、それでも受け入れられないという意見もあるかもしれない。

そんな時は思い出してみたい。子ども時代、目の前には実在しない架空の仲間たちと実現不可能なアクロバティックな技で空想上の強敵たちをなぎ倒してきた頃を。

私たちの目の前にあるものは本当にあるのだろうか。その常識は本当なのか。もしかすると、あると信じたいだけなのではないだろうか。

2019年5月31日

映画「キングダム」

「子どもは哲学者」

哲学者カントは同じものを見ても人それぞれ捉え方が違うため、誰もそれ「そのもの」は見てはいないと論じた。
目の前のリンゴを見ても、人それぞれ捉え方は違う。見る角度が違えば色や凹凸も違って見える。もしかするとリンゴではないのかもしれない。ただ多くの人は経験と知識を踏まえて「これはリンゴだ」と判断しているに過ぎない。

映画「キングダム」は中国の歴史の史実にある程度則りつつも、至るところにフィクションを織り交ぜている。
無味乾燥気味になってしまう歴史ドキュメントを史実を尊重しつつ、エンタテインメントとして表情豊かに深掘りされた、見るものの想像力を掻き立てる素晴らしい作品だ。

中国の史実を詳しく知る人から見ると、もしかするとツッコミどころも多いかもしれない。人生経験が長い人ほど「そんなわけないよな」と思う場面もあるかもしれない。

山崎賢人演じる主人公の信は人間離れした跳躍力を鍛錬の中で身につけ、2m超えの長身の怪物を頭上から斬りつける。「山の民」という架空の民族の精鋭部隊は、弓矢で身体中を射られても戦い続ける。
中国史に残る実在の人物や実在した国や都市がストーリーの中心になるぶん、CGを駆使した戦闘場面や架空の建造物はファンタジーをどれだけ削ぎ落としても不自然に捉える人もいるだろう。

しかし、そんな人でも子どもの頃は、きっとこの物語のファンタジーの世界にすんなりと入り込み、登場人物に気持ちが乗り移ったり、空想の中でともに戦ったりしただろう。

「こんなことはあり得ない」「こんな生き物はいない」「こんな建物は作れるはずがない」ーー現代の常識に当てはめてみれば、そう感じるのも無理はない。
しかし、その捉え方はもしかすると単に「自分だけが見ている世界の常識」なだけで、「そんなことはあり得えない」と一笑するそんな空想の世界の方が真実に近いことだってあるかもしれない。

その昔、何メートルもジャンプできる超人的な人がいたかもしれない。未開の深林の中に山の民のような民族はいたのかもしれない……。ピラミッドがなぜ、どのようにして作られたのか。現代の常識では解明できないのと同じように。


子どもはものごとを見たまま捉える天才だ。自分が見たもの、感じたことをそのまま受け入れ、その世界観に自身を合わせることができる。

歳を重ね、たくさんのことを経験し学んだことで、私たちは気がつけば目の前にいくつもの「常識の壁」を勝手に築き、その中で汲々と生きているのかもしれない。

哲学者ジル・ドゥルーズは著書『哲学とは何か』の中で、「思考という積極的意志が、人間の中にあると想定するのは、哲学の犯す誤りである」と記す。

「人間は考える葦」ではなく「人間は出来るだけ考えたくない生き物」なのだと論じている。
自分が勝手に決めた「常識の壁」の外側を一方的に無視したり攻撃したりするのは、知的行動ではなく、思考停止の反射なのかもしれない。

だからこそ、映画「キングダム」の魅力溢れる登場人物たちは、案外本当に実在したのかもしれないと思った方が人生は楽しい。これこそ「子どもの心を忘れない」ということなのだろう。

映画「キングダム」

<スタッフ>

監督:佐藤信介
原作:原泰久
脚本:黒岩勉、佐藤信介、原泰久
製作:北畠輝幸、今村司、市川南、谷和男、森田圭、田中祐介、小泉貴裕、弓矢政法、林誠、山本浩、本間道幸
エグゼクティブプロデューサー:木下暢起、伊藤響
企画:稗田晋、村田千恵子
プロデューサー:松橋真三、北島直明、森亮介、平野宏治
アソシエイトプロデューサー:高秀蘭
ラインプロデューサー:小沢禎二
中国ユニットラインプロデューサー:角田道明
撮影監督:河津太郎
撮影:島秀樹
照明:小林仁
録音:横野一氏
工美術監督:斎藤岩男
美術:瀬下幸治
装飾:秋田谷宣博
衣装デザイン:宮本まさ江
ヘアメイク:本田真理子
編集:今井剛
音楽:やまだ豊
音楽プロデューサー:千田耕平
主題歌:ONE OK ROCK
アクション監督:下村勇二
キャラクター特殊メイクデザイン:藤原カクセイ
特殊造形統括:藤原カクセイ
VFXスーパーバイザー:神谷誠、小坂一順
かつら:濱中尋吉
コンセプチュアルデザイン(山の民):田島光二
DIプロデューサー:齋藤精二
カラーグレーダー:齋藤精二
スクリプター:田口良子
助監督:李相國
制作担当:吉田信一郎
中国ユニット制作担当:濱崎林太郎
テクニカルプロデューサー:大屋哲男
中国史監修:鶴間和幸

 

<キャスト>

山崎賢人(信)
吉沢亮(えい政/漂)
長澤まさみ(楊端和)
橋本環奈(河了貂)
本郷奏多(成きょう)
満島真之介(壁)
高嶋政宏(昌文君)
阿部進之介(バジオウ)
一ノ瀬ワタル(タジフ)
六平直政(里典)
深水元基(朱凶)
橋本じゅん(ムタ)
坂口拓(左慈)
阿見201(ランカイ)
宇梶剛士(魏興)
加藤雅也(肆氏)
石橋蓮司(竭氏)
要潤(騰)
大沢たかお(王騎)

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