マンガ「巨人の星」星飛雄馬の「大リーグボール養成ギブス」は有効なのか?
勝つために身体を鍛える
筋トレする前に知っておくべき5つのこと
スポーツ選手にとって、競技の質を高め、試合に勝つために筋力アップは重要だ。
特に中学が高校で部活をしている選手や、趣味でランニングなどを行っているアマチュア選手に、筋トレに取り組む前に知っておいてほしい「5つのヒント」を紹介する企画。
3回目は、「『巨人の星』の大リーグボール養成ギブスは有効なのか?」について考える。
実際のプレーの動きに負荷をかけたトレーニングは本当に効果が上がるのだろうか?
【その3】
「『巨人の星』の大リーグボール養成ギブス」は有効か?
古いたとえなので、知らない人もいるかもしれないが、映像や画像(上)を見れば40代の人の多くは見たことがあるだろう。
マンガ「巨人の星」の主人公・星飛雄馬がより早い豪速球を投げられるようになるため、父が自作した強化ギブスが「大リーグボール養成ギブス」。この強い負荷が全身にかかるギブスつけて通常の投球練習を行うことで、ボールを投げるために重要な筋肉がより鍛えられ、豪速球が投げる体に鍛えるというものだ。
ここまで大袈裟ではなくても、負荷をかけて投球フォームやボールを蹴るフォームを行うことで、プレーに必要な筋力の強化を図るというトレーニングは見たり聞いたりしたことがあるかもしれない。
プレーレベルの差は筋力の差よりも「体の使い方の差」
「筋トレで鍛えた筋肉と実践で使える筋肉は別物」だから、実践の中でしか使える筋肉は養えないと考える人もいる。だからこそ、実際のプレーのフォームを負荷をかけながら筋トレを行うことは有効だと捉えるかもしれない。
しかし、人間の筋肉はもともと「縮んで力を発揮する」という働きしかなく、用途別に「使える」「使えない」という使い分けができるはずがない。
武道や格闘技の指導の中で、「バーベルなどのトレーニング器具を持ち上げる筋力と対戦相手を持ち上げる筋力は別」という意見が出ることがある。しかし、よく考えてみれば当たり前だが、筋肉には用途別の使い分けはできないので、上記の考え方は別の意味が含まれていると考えるべきだ。
同じ筋力を有するにも関わらず、人間を持ち上げられる選手と持ち上げられない選手がいるのは、両者の違いが筋力や筋肉の差ではなく、持ち上げる技術や経験、身体の使い方の差なのだ。
筋トレの2つの大前提の基本
筋トレは「安定した姿勢でしっかりと筋肉に強い負荷がかけられる」こと、そして「関節に無理な負担が極力かからないフォームで行うこと」というのが大前提の基本となる。
例えば、競技動作に直結させたいと言う意図のもと、ケーブルマシンなどを用いて「投げる、打つ」など競技の動きに直接負荷をかけていく筋トレは、不安定な姿勢となるため、筋肉に負荷をかけにくく、また関節に無理な負担がかかってケガのリスクが高まるという逆効果の危険性を多く孕んだ「効果的ではないトレーニング方法」といえる。
筋トレはあくまで「筋肉を大きく強くする」ためのものだ。「大リーグボール養成ギブス」は、その意味で筋トレ本来の目的達成に適した方法とは言えない。
強くなりたければ、試合に勝ちたければ、「実践練習」と「筋力アップトレーニング」をそれぞれ効果的に行うこと。両方をごっちゃに行っても効果は半減する。レベルアップに近道はないと考えることが大事だ。
参考図書
「使える筋肉・使えない筋肉 アスリートのための筋力トレーニングバイブル」
ナツメ社 (2018年11月発行)
著 :谷本道哉(近畿大学生物理工学部准教授)
荒川裕志(国際武道大学体育学部准教授)
監修:石井直方(東京大学大学院総合文化研究科教授)