「やる気はあるのに行動できない」という悩みを解消する5つの心理学的アプローチ

2025.4.15

伊部塁 「人生再構成」BLUEPRINT代表

「やる気はあるのに行動できない」という悩みを解消する心理学的アプローチ

「やる気はあるのに、なかなか行動に移せない」 — 多くの人が感じるこのジレンマの背景には、心理学的な要因が複数関係していると考えられます。

その一つとして注目したいのが、「挑戦の具体化ができていない」という視点。

人は、目指すものが明確でなければ、そこに向かうエネルギーも方向も見失いやすくなります。

そこで、「目標の具体化」が行動にどう影響を与えるのか、また、その道筋を明確に描くためにどう考えればよいかを、心理学の理論に基づいて考察してみたいと思います。

 

1. なぜ「やる気があるのに行動できない」のか?

まず、「やる気」と実際に行動に移すことの間には明確なギャップがあることを理解する必要があります。

心理学者ピーター・ゴルヴィッツァーによる「実行意図理論(Implementation Intention)」では、単に「目標を持つ」だけでは行動に結びつかないことが指摘されています。

たとえば「ダイエットをしたい」と思っても、具体的な計画や目標設定がなければ、人はなかなか実際の行動には移せないというのは誰もが経験している失敗例だと思います。

このように「やる気」と行動とのギャップを生む原因のひとつとして最初に考えられるのが、「目標が漠然としている」ことです。

脳にとって「目標が曖昧」という状況は大きな負担となります。そのため、「どこから始めればいいのか」「何をすればいいのか」が不明瞭なまま、行動そのものが始められないという状況に陥ってしまいます。

 

2. 目標の明確化と「SMART」モデル

そこで考えたいのは、目標を明確にするための心理学的フレームワークとしてよく知られている「SMARTモデル」です。

これは、目標が以下の5つの要素を備えているかを確認する方法です。

Specific(具体的である)

Measurable(測定可能である)

Achievable(達成可能である)

Relevant(自分にとって意味がある)

Time-bound(期限がある)

たとえば「英語を話せるようになりたい」という目標は、いくら「やる気」があったとしても目標としては漠然としていてどこから手をつけていいかが難しいですが、「3ヶ月でTOEICを100点アップさせる」というようにSMARTの要素を取り入れることで、目標が実際に行動可能な「指針」へと変えることができます。

 

3. 「自己効力感(Self-Efficacy)」の重要性

ほかにも効果的ではないかと考えられるのは、アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感(self-efficacy)」という理論です。

これは「自分にはできる」という感覚のことで、この思考が目標に向かって実際に行動を起こす際の大きな後押しになってくれます。

この「自己効力感」を高めることで、たとえ困難に直面しても、簡単に諦めることなく柔軟に対応することができ、粘り強く努力を続けることが可能になると考えられます。

逆に、「自分には難しすぎる」と考えてしまうと、どれほどやる気があっても、最初の一歩が踏み出せない状態に陥ってしまいがちです。

そんな時に採用したい解決策として、「段階的目標設定」を設定すること。

大きな目標をいくつかの小さなステップに分解していき、まったくやる気がなくてもできるレベルの些細なことを始めることをきっかえに、少しずつ成功体験を積むことで、自己効力感を高めていくという方法をぜひ取り入れてみるのもよいでしょう。

 

4. 「イメージの具体化」が行動を促す

さらに、「メンタル・シミュレーション(mental simulation)」という考え方も行動の明確化に有効です。

これは、目標達成の過程や成功後の姿を頭の中でリアルに想像することで、脳がそれを現実的なものとして認識し、行動に対する準備が整うというもの。

心理学の実験でも、試験の直前に「合格する自分の姿」だけでなく、「どうテスト用紙と向き合うか」「試験時間をどう配分するか」などを事前に細かくシミュレーションした学生のほうが、成績が高かったという結果があります。

つまり、「挑戦の具体化」とは、目標達成の“プロセス”までもイメージすることに他ならないということです。

 

5. 行動を引き出す「環境設計」

また、行動の背後には環境要因も大きく関わっていることも忘れてはいけません。

行動経済学では、行動を促すためには「ナッジ(nudge)」と呼ばれる工夫が有効とされています。

これは、選択肢の提示方法を変えることで、より良い行動を“自然に”選ばせるという仕組みです。

たとえば、勉強したいのにスマホを見てしまう場合、スマホを別室に置くだけでも行動が変わります。

目標達成に向けて、自分が「行動しやすい環境」を作り出すことも、挑戦の具体化の一部だといえるでしょう。

 

挑戦の前に「思考の整理」をすることから始める

やる気があっても行動できないという状態は、「気持ちはあるが、行き先が見えない旅」のようなものです。

目標を明確にし、道筋を具体的に描くことで初めて、やる気はエネルギーとなって実際の行動へと変わっていきます。

SMARTモデルで目標を具体化し、自己効力感を育み、イメージのシミュレーションと環境整備を行う — この一連のプロセスが、心理学的に「行動できる自分」をつくる鍵だと考えます。

挑戦とは、思考の整理を始めることで、初めて実行することが可能なアクションです。

自分の目指すものがどれだけ明確に描けているかが、行動の第一歩を決定づけるということを、まずは大前提に考え、チャレンジに臨んではいかがでしょうか。

 

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