第4回|悩めるアスリートのための「セカンドキャリアの描き方」
――BLUEPRINT|伊部塁の人生再構成コンサルティングより
結果のためにすべてをかけてきた。
勝ち負けに人生を賭けるような時間を、誰よりも真剣に生きてきた。
日常のほとんどがトレーニングであり、リカバリーであり、試合であり、そこに“自分の全存在”がかかっていた。
そんな生き方をしてきたアスリートの方にとって、「引退後の人生」というのは、想像以上に手ごわいテーマなのだと思います。
私自身、これまで多くの現役アスリートと交流し、会話を交わし、競技人生の終わりに直面した方々の“まなざしの変化”を、何度も目にしてきました。
スポーツだけが自分ではなかったはずなのに「それ以外の自分」がうまく見えない
「セカンドキャリア」と聞くと、どうしても“競技に関連する仕事”や“後進の育成”といった、“これまでの延長線上”での選択が思い浮かびやすいものです。
もちろん、それが自分の望む道であれば素晴らしいことです。
けれど、ときに心のどこかでこう思っている人もいるはずです。
「本当は、まったく別のことに興味があるんだけれど……」
でも、アスリートとしてしか自分を説明できない。
この「語れなさ」こそが、セカンドキャリアの出発を難しくしている大きな壁です。
競技の中では、結果と役割によって自分の価値が明確に見えていた。
けれどその枠が外れた途端、“自分という存在の輪郭”が急に曖昧になってしまう。
その戸惑いは、とても自然なものだと思います。
“競技”の奥には、あなたらしさの本質がある
BLUEPRINTのセッションでは、アスリートの方にも、丁寧な棚卸しをお願いしています。
すると、興味深いことが見えてきます。
「自分はずっとサッカーに夢中だった」
「走ることに人生を賭けてきた」
「プレーすることが生きがいだった」
その“競技”の背景には、実はもっと普遍的な価値観や個性が隠れているのです。
自分の限界を超えていくプロセスが好きだった
チームの中で誰かを支える役割に喜びを感じていた
観客の心を動かす「表現」として競技をしていた
このように、「スポーツ」そのものではなく、そこに込められていた“あなたらしさ”を見つけていくことが、セカンドキャリアを描くための第一歩になります。
肩書きや実績ではなく、“物語”として語れる人生へ
競技を通して築いたものは、数字や記録だけではありません。
そこにはあなたにしか語れない「経験の物語」があります。
しかし、この“語り方”を誰かが教えてくれたという話はあまり聞きません。
それゆえ、アスリートの多くが「言葉にできないまま」次の選択を迫られます。
BLUEPRINTでは、その“語れなさ”に、時間をかけて寄り添います。
急いで何かを決めるのではなく、一つひとつの経験を丁寧に言葉にしながら、競技者としての過去を、「人としての未来」に自然に接続していく。
そうしたプロセスがあって初めて、あなたのキャリアは“点”から“線”へとつながっていくのだと私は思います。
自分自身と静かに向き合うための、もう一つの場所として
競技の世界には、常に“結果”が求められます。
そこでは、内面の揺らぎや迷いは、時に見せるべきではないものとして扱われがちです。
でも、競技を離れた今だからこそ、そうした揺らぎに正直になってみても良いのではないでしょうか。
人生の次の章は、誰かと比べて早く書くものではありません。
むしろ、あなた自身のリズムで、自分らしい言葉で描き直していくもの。
BLUEPRINTは、その静かな編集室でありたいと願っています。
自己内省ワーク|「競技の外側の自分」を思い出すために
あなたが競技を通して「もっとも誇りに思っている瞬間」は何でしたか? それはなぜですか?
練習や試合以外で、誰かから「ありがとう」と言われて嬉しかった経験はありますか?
引退後、なんとなく気になっていることや分野はありますか? それはどこに惹かれているのでしょうか?
思い出せる範囲で、ノートに書き出してみるだけでも構いません。
それらが、新たな「あなたの言葉」の始まりになるかもしれません。
次回は、第5回:小さく始めるキャリアの再起動――“やってみる”ことで未来が動き出すをお届けします。
完璧な計画よりも、まずは一歩踏み出すことの大切さについて綴ります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今、この言葉に出会ってくださったあなたの歩みに、静かにエールを送ります。
伊部 塁