順調な30代、山籠りの40代、そして再出発

2025.4.25

伊部塁 「人生再構成」BLUEPRINT代表

なぜ、順調だったキャリアをすべて捨て、再出発しようとしたのか?

第1回:「順調な30代、山籠りの40代、そして再出発」

 

編集という仕事に憧れていた。

本をつくる人になりたい、そう思い始めたのは、たしか学生のころ。書店に並ぶ雑誌のページをめくりながら、「こんな世界に自分も関わることができたら」と、漠然とした憧れを抱いた。

その夢を叶えるために、大学時代は小さな手伝いから始めた。

フリーのライターさんの取材リサーチ、資料集め、文字起こし。誰にも名前を見られないような仕事だったけれど、現場の空気を感じられることが、ただ嬉しかった。

やがて、学生インターンとして、あの有名雑誌の編集部に加わるチャンスをもらった。

会議室の端っこで、先輩たちのアイディアが飛び交うのをただ聞いているだけで、心が踊ったのを覚えている。

企画が通ったときは、本当に夢のようだった。

取材も文章も、誌面のレイアウトもすべてを任せてもらえる。それは、若い自分にとって「未来の約束」のように感じた。

 

卒業後、大手出版社への就職が決まり、晴れて編集者となった。

最初の配属は、小説を手がける編集部。

ベテランの先輩の下について、ひたすら走り回った。今なら問題になるような激務だったけれど、「好き」という気持ちだけで乗り切ることができた。

そしてある日、自分の中で眠っていたもうひとつの夢が動き出した。

「スポーツをテーマに編集がしたい」

無謀とも思える売り込みの末、念願のスポーツ雑誌編集部への転職が決まった。

 

自分の“得意”と“好き”がつながっていた

そこからは、編集者としてのキャリアを積み上げる日々だった。

アスリートの言葉に耳を澄まし、彼らのストーリーをどう届けるかを考える。

多忙だったが、満たされていた。

雑誌や書籍の制作、販促企画、メディアプロモーションまで。自分の“得意”と“好き”がつながっていた。

 

30代の終わり。ふと、立ち止まる自分がいた。

「もっと、広い世界で試してみたい」

思い切って独立し、イベントプロデュースやメディア連動の企画へとフィールドを広げた。

手応えはあったし、何よりも、自分の名前で仕事をする喜びがそこにはあった。

 

立ち止まり、人生を自問する日々

けれど、そんな毎日が、ある日を境に止まった。

——コロナ禍だった。

人が集まることが、タブーになった。

イベントも、プロモーションも、次々と中止や延期。進行中だったプロジェクトはすべてストップし、まるで、自分の存在ごと停止してしまったかのようだった。

動けない日々の中、「自分のしてきたことは、本当に意味があったのだろうか」と、自問する時間が増えていった。

 

ちょうど40代に入ったばかりのころだった。

この強制的な「空白」が、思いがけず、新しい「問い」を生んだ。

——いま、いちど立ち止まるときかもしれない。

そんな思いで、私はしばらくビジネスの世界から離れることにした。そして、大学で学び直すという選択をした。

 

 

哲学、歴史、芸術、文学——これまで趣味として楽しんできた世界に、今度は“学び”として本気で飛び込んでみた。

すると、静かに、しかし確かに、心が満たされていくのを感じた。

とくに哲学の授業では、「人間とは何か」「生きるとは何か」といった問いに出会い、立ち止まって考えることの意味を思い出した。

キャリアや肩書きといった“外側の自分”ではなく、“本当の自分”に目を向けるようになった。

 

新たな学びとの出会いと発見

もうひとつ、心を惹かれた分野できた。

心理学と脳科学——きっかけは、身近な人の病だった。

心のバランスを崩し、笑顔が消えていったその姿に、私は深く揺さぶられた。

 

「人の心と脳は、どうつながっているのだろう」

「人は、どうすれば回復し、また歩き出せるのだろう」

 

心理学の中で語られる「自己受容」や「変化のプロセス」は、自分自身をも支えてくれる光となった。

脳科学では、「行動」や「感情」のしくみを知ることで、「うまくできない自分を責めなくてもいい」と、少し肩の力が抜けるような思いがあった。

そうして得たのは、ひとつの確信だった。

——私は、人が“自分らしく生きる”ことをサポートしたいのだと。

 

アスリートの言葉を届ける編集者としての日々も、「その人がどう自分の道を見つけたのか」という変化の物語を、私はずっと大切にしていたのだと思う。

 

だから今、新たな道を歩き始めている。

——キャリアの再出発を支援する、個人コンサルティングの仕事。

過去の経験を活かし、その人が持つ価値や思いを引き出し、再構成していく。

「これまでの延長線ではなく、どこかで一歩、踏み出したい」

そんな想いを抱える人たちに寄り添う仕事だ。

 

キャリアは、何度でもつくり直せる。

むしろ、年齢を重ねた今だからこそ、描ける物語がある。

あなたが今、「このままでいいのだろうか」と感じているなら、一度、立ち止まって自分に問いかけてみてほしい。

「私は、本当はどう生きたいのか?」

その問いの先にある、新しい物語を、私と一緒に見つけていけたら嬉しい。

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